魔女の虚像

睦月

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6.記事の相談

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15分ほどの短い再現ドラマだった。ドラマは、和気あいあいとしゃべっている石鷲見家の門を、髪の長い不気味な女が叩くところから始まる。

善良な石鷲見一家は、メイドKににこやかに接するが、メイドKはおかしな行動ばかりとるようになる。長女の持ち物を盗んだり、庭にカラスの死体を置いたり、長男に好意を寄せて付け回したり。

そうして最後には、長女の友達で長男とも仲の良かった少女を人のいない部屋に呼び出して花瓶を振り上げる。メイドKは逃げ出し、それから石鷲見家はさまざまな不幸に見舞われるようになった。

最後は石鷲見一家が火事で死ぬ場面が映る。そして、屋敷の影でにやりと笑う女のカットが入る。明言こそしていないけど、メイドKによる放火を示唆していることは明らかだった。

これが多くの人が持つ石鷲見家の事件とメイドKに対するイメージだ。


「小学生のときはものすごく怖かったんだけどな。今見るとちゃちな感じだねぇ」

「でも、大きな影響を与えました」

「そうね。次の日学校ではこの話で持ち切りだった」

「本当はどういう関係だったのか気になります。ドラマは誇張されてるだろうし。僕は烏丸さんの人間的な面を知りたいです」

そう言いながら日記に手を伸ばす。途中までしか読めていないけれど、続きには何かヒントになることが書かれているだろうか。どちらにせよ、全て読まなければ始まらない。

「烏丸さんの人間的な面か。私も日記が気になってきちゃった」

「読みます?僕もまだ途中ですけど、野々原さん先に読みたければどうぞ」

「どうしようかな」

野々原さんはそう言って腕時計に目を遣る。

「あ、もう6時過ぎてる!やっぱり今度でいいや。私もう帰るね」

「え、野々原さん!」


野々原さんは笑顔で言うと、ひらひらと一階に降りて行ってしまった。そうして、一旦戻って来ると、鞄をかけた手を振りながら星井君またねー、と言って帰って行く。

いや、定時だからいいんだけど。社長も時間通りに帰るように言ってるし。それにしてももうちょっと話に区切りがつくまで残ってくれてもいいんではないだろうか。


「星井君。お疲れ様」

僕が茫然としていると、パーテーションの影から天野社長が顔を出した。

「天野社長。お疲れ様です」

「何か良いアイデアは出た?」

「メイドKの人間的な側面を記事にしたいという提案はしました」

「人間的側面?」

社長はきょとんとした顔をする。

「メイドKの犯行理由って嫉妬ってことにされてるけど、本当のところはわからないじゃないですか。鳩羽ひまりの日記を読むと石鷲見家の人って結構あたりが強かったみたいですし。メイドKがどうして事件を起こしたのか、掘り下げられたらなって考えてます」

僕は野々原さんに話したのと同じようなことを社長に伝える。

「いいね、それは!メイドKの人間的側面。良い着眼点だ!」

社長はそう言って目を輝かせた。社長は大抵の意見は前向きに聞き入れてくれるけれど、こんな嬉しそうな表情を見たのは初めてだ。

「まとまったら改めて教えてちょうだい。6時だし星井君ももう帰っていいよ」

「はい。お疲れさまでした」

一階の席に戻って片付けをする。リュックサックにノートパソコンを詰めてから、会社を出た。


一旦会社を出たものの、日記の続きが気になった。家まで待ちきれず、近くのファミレスに入る。コーヒーだけ注文してから、席で日記を開いた。

日記の続きには、石鷲見一家と仲良くなろうと努める鳩羽ひまりの日々が書かれていた。
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