魔女の虚像

睦月

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6.記事の相談

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方向性も決まったので、記事の構成について野々原さんと話し合うことにした。

狭い一階の部屋で話すと天野社長と長洲さんの仕事の邪魔になりそうなので、二階に上がる。パーテーションで区切られた休憩スペースのパイプ椅子に座り、机に日記と資料を広げた。

「さっそく始めましょうか!」

「星井君気合入ってるね」

野々原さんはパイプ椅子をキィキィ言わせながら言う。確かに僕はなんだかわくわくしていた。なんだかんだ言って、事件の真相を探るのも、それをどうやって発表しようか考えるのも楽しい。


「初めてみたら意外と楽しくて。
アイトの記事って正直言って悪趣味な感じがして、最初は気乗りしなかったんですけど。ほら、被害者のその後を調べたりこの人物が怪しいんじゃないかって匂わせたり」

「そうなの?あんまりちゃんと読んだことないから気づかなかった」

「読んでおいた方が良いですよ。これから僕たちも書くんだし」

「はーい。でも、犯罪の話って読んだ後気分悪くなるからあんまり好きじゃないんだよねぇ」

野々原さんはぼんやりとした口調で返事する。


「わかります。事件の話って気分悪くなりますよね」

「だよねぇ。こんなもの好き好んで買う人理解できない。刺激が欲しいのかな」

野々原さんは今月号のアイトをこんなもの呼ばわりしながら掴み上げる。

「でも、天野社長がせっかく僕ら二人に任せてくれたんですから頑張りたいですよね!どうせなら、ほかのメディアと違う切り口の記事にしてみたいです!」

「そんなことできる?」

「わからないですけどやってみたくないですか?」

「星井君が主導でやってくれるんなら私はいいけど」

野々原さんは気のない返事をする。僕は構わず続けた。


「天野社長には、烏丸……メイドKを中心にするように言われたじゃないですか」

「うん」

「野々原さんはメイドKに対してどんなイメージを持ってますか?」

「え?それは、怖い人だよ。お屋敷で殺人事件を起こして、火事に関わってるかもしれないって話もあって。イメージ的には怪談に出てくる悪霊みたいな感じ」

「世間でも同じようなイメージだと思います。もう都市伝説みたいになってるんですよね。でも、烏丸玲佳だって人間なんだし、何を考えて事件を起こしたか気になりませんか?」

「それは、伊勢さんも言ってた通り嫉妬とかじゃない?」

「それはただの推測じゃないですか。烏丸玲佳が考えていたことなんて誰にもわかりません。烏丸玲佳が何を考えて殺人事件なんて起こしたのか、考えてみたいんです」

「でも、本人は10年以上行方不明なのに考えてたことなんてどうやって調べるの?」

「それが難しそうなんですよね……。でも、鳩羽ひまりの日記が何かヒントになるかもしれません。野々原さんはまだ読んでないと思いますけど、あの日記には鳩羽さんが石鷲見家に来た当初の一家の反応が書かれていました。

正直、大分冷たい人たちだったんだなって印象を受けました。石鷲見家の長女なんか、わざと意地悪をしているとしか思えないし。世間ではメイドKの事件さえ起こらなければ石鷲見家は模範的で仲のいい理想の一家だったなんて言われてますけど、本当なのかどうか。

石鷲見家が烏丸玲佳につらく当たっていたのが事件のきっかけになったって説もなくはないと思うんです」

「へぇ。そんなこと書いてあったんだ。再現ドラマでは雇い入れたメイドがおかしな人物で、しだいに一家は追い詰められていった……みたいな扱いだったけど、実際のところはわからないね」

野々原さんはそう言うとスマホを操作しだす。何をしているんだろうと思っていると、動画サイトの画面を見せてくれた。

「アップされてた!これ多分、私が小学生の時に見たやつと同じ」

「あ、僕も見たことあるかも」

「せっかくだし見てみようよ」

野々原さんはそう言って再生ボタンを押す。まるでホラー映画みたいなBGMとともに、群馬一家焼死事件のタイトルが映し出された。
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