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3.鳩羽ひまりの日記①
2007/2/26
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石鷲見家にやって来ました!聞いていた通り、すごく広いおうちです!門の前でしばらく固まってしまいました。
そうしたら、加納さんが気づいて出てきてくれました。
加納さんは、メイドの仕事に申し込んだときに面接をしてくれた女性です。40代後半で、見た目は厳しそうでちょっと怖いですが、私の話を親身に聞いてくれました。子供のころからずっと石鷲見家に仕えているのだと言います。
加納さんに連れられて、リビングでくつろいでいらした旦那様と奥様にご挨拶しました。
「鳩羽ひまりです!よろしくお願いします!」
元気よく挨拶したのに、二人とも返事をしてくれません。旦那様は私ではなく加納さんに向かってこの子が新しいメイドか?と聞いています。
「ええと、自己紹介しますね。前橋の方から来ました。19歳です。住み込みで働くのは初めてですが、高校を卒業してから一年間家事代行の会社で働いて来たので家事には自信があります!趣味はお裁縫で……」
「ああ、はいはい。わかった。問題を起こさないでくれるなら、君の個人情報はどうでもいいから。加納さん、頼んだよ」
旦那様の不機嫌な声で自己紹介は遮られます。なんだかちょっと冷たい人です。加納さんに呼ばれたので、仕方なくお辞儀だけして部屋を出ました。結局奥様はこちらに視線すら向けてくれませんでした。
次にご長男の部屋に挨拶に行きました。ノックをすると、ダークブラウンのセーターを着た20代半ばくらいの男性が出てきます。
「紅介様。今日から新しく入ったメイドの鳩羽さんです」
「よろしくお願いします!鳩羽ひまりです!」
紅介様と呼ばれた人は、こちらを不審そうな目でじろじろ見ながら言います。
「若過ぎやしませんか。もう問題が起こるのはこりごりなのですが」
やっぱり紅介さんも、私ではなく加納さんの方に話しかけます。
「一年間家事代行の仕事をしてきたそうなので、仕事は問題ないと思います」
「烏丸さんのようにならないといいですがね」
そう言うと、紅介さんは私を冷たい目でちらっと見てから、ドアを閉めてしまいました。このお屋敷には冷たい人しかいないのでしょうか。いえ、そんなこと考えてはだめですね。みなさん、きっと新しくやって来た人物に戸惑っているだけなのです。
「加納さん。烏丸さんって誰ですか?」
「以前ここで働いていたメイドです」
紅介様の言葉が気になったので質問してみましたが、加納さんはそれだけしか答えてくれませんでした。
どんな人だったんですか?「烏丸さんのようにならないといい」とは?気になることはたくさんありましたが、言葉を飲み込みました。
次に次男の緋音様に挨拶するために、テラスまで行きました。緋音様と思われる男性はテラスのベンチに腰掛け、静かに本を読んでいます。横では、髪を横で一つに結んだ大学生くらいの女の子がテラスの柵に腰掛け遠くを見ていました。
「緋音様。それに朱莉様もこちらにいらっしゃったんですね」
どうやらそこにいるのは、妹の朱莉様のようです。朱莉様は私に気が付くとあからさまに嫌そうな顔をして、加納さんに言います。
「その子新しいメイド?烏丸さんと同じくらいの年じゃない。もうちょっと別の人はいなかったの。思い出して不愉快だわ」
「申し訳ありません。けれど、今の石鷲見家には募集をかけても働きたいという人がなかなか集まらないのです」
「無理に増やすことはなかったんじゃないの」
朱莉様はそう言って私の方を睨むと、テラスから出て行ってしまいました。すれ違った瞬間、淡いバラの香りが鼻を掠めます。香水でしょうか。
どうやらこのお屋敷に私を歓迎している人は誰もいないようです。
「妹がすみません」
朱莉様が出て行くと、ベンチで本を読んでいた緋音様がこちらへ歩いてきました。
「次男の石鷲見緋音です。20歳で、〇〇大学に通っています。最近まで通学の関係で東京に行っていたんですが、来年から群馬のキャンパスに変わるので戻ってきました。これからよろしくお願いします」
緋音様はそう言うと微笑みました。ご主人様一家の中で初めてこちらを見て話してくれました。
「鳩羽ひまりです!19歳です。先月まで前橋で家事代行の仕事をしていて……」
私はやっと自己紹介を最後まで聞いてもらうことができました。
ご主人一家への挨拶と、加納さんによるお屋敷の案内が終わると、使用人たちの部屋のあるスペースまで連れてこられました。
「このあたりの部屋は全て使用人の部屋です。もっとも、今は人が減ってしまったので、ほとんど空き部屋になっていますが。鳩羽さんの部屋はこちらです」
案内された部屋は、広さこそあるものの、ほこりっぽくて家具のあちこちが剥げていて、長年人々に忘れ去られたような場所でした。歩くと床がミシミシ言います。けれど、部屋なんて寝られればいいのです。問題はありません。
「今日はもう休んでいただいて結構です。明日の五時までに、こちらの制服に着替えて広間まで来てください」
「了解しました!」
加納さんは私に黒いワンピースとエプロンの制服を渡すと、さっさと行ってしまいました。加納さんもご主人一家に似てクールな人です。使用人は主人に似るものなのでしょうか。
その日はほこりを被った部屋の掃除をして過ごしました。日が暮れるまでにはなんとか人の住める状態になり、一安心です。
今日は長い一日でした。おやすみなさい。
私と同年代だったという烏丸さんも、初めにこのお屋敷に来た日はこんな気持ちだったのでしょうか?
そうしたら、加納さんが気づいて出てきてくれました。
加納さんは、メイドの仕事に申し込んだときに面接をしてくれた女性です。40代後半で、見た目は厳しそうでちょっと怖いですが、私の話を親身に聞いてくれました。子供のころからずっと石鷲見家に仕えているのだと言います。
加納さんに連れられて、リビングでくつろいでいらした旦那様と奥様にご挨拶しました。
「鳩羽ひまりです!よろしくお願いします!」
元気よく挨拶したのに、二人とも返事をしてくれません。旦那様は私ではなく加納さんに向かってこの子が新しいメイドか?と聞いています。
「ええと、自己紹介しますね。前橋の方から来ました。19歳です。住み込みで働くのは初めてですが、高校を卒業してから一年間家事代行の会社で働いて来たので家事には自信があります!趣味はお裁縫で……」
「ああ、はいはい。わかった。問題を起こさないでくれるなら、君の個人情報はどうでもいいから。加納さん、頼んだよ」
旦那様の不機嫌な声で自己紹介は遮られます。なんだかちょっと冷たい人です。加納さんに呼ばれたので、仕方なくお辞儀だけして部屋を出ました。結局奥様はこちらに視線すら向けてくれませんでした。
次にご長男の部屋に挨拶に行きました。ノックをすると、ダークブラウンのセーターを着た20代半ばくらいの男性が出てきます。
「紅介様。今日から新しく入ったメイドの鳩羽さんです」
「よろしくお願いします!鳩羽ひまりです!」
紅介様と呼ばれた人は、こちらを不審そうな目でじろじろ見ながら言います。
「若過ぎやしませんか。もう問題が起こるのはこりごりなのですが」
やっぱり紅介さんも、私ではなく加納さんの方に話しかけます。
「一年間家事代行の仕事をしてきたそうなので、仕事は問題ないと思います」
「烏丸さんのようにならないといいですがね」
そう言うと、紅介さんは私を冷たい目でちらっと見てから、ドアを閉めてしまいました。このお屋敷には冷たい人しかいないのでしょうか。いえ、そんなこと考えてはだめですね。みなさん、きっと新しくやって来た人物に戸惑っているだけなのです。
「加納さん。烏丸さんって誰ですか?」
「以前ここで働いていたメイドです」
紅介様の言葉が気になったので質問してみましたが、加納さんはそれだけしか答えてくれませんでした。
どんな人だったんですか?「烏丸さんのようにならないといい」とは?気になることはたくさんありましたが、言葉を飲み込みました。
次に次男の緋音様に挨拶するために、テラスまで行きました。緋音様と思われる男性はテラスのベンチに腰掛け、静かに本を読んでいます。横では、髪を横で一つに結んだ大学生くらいの女の子がテラスの柵に腰掛け遠くを見ていました。
「緋音様。それに朱莉様もこちらにいらっしゃったんですね」
どうやらそこにいるのは、妹の朱莉様のようです。朱莉様は私に気が付くとあからさまに嫌そうな顔をして、加納さんに言います。
「その子新しいメイド?烏丸さんと同じくらいの年じゃない。もうちょっと別の人はいなかったの。思い出して不愉快だわ」
「申し訳ありません。けれど、今の石鷲見家には募集をかけても働きたいという人がなかなか集まらないのです」
「無理に増やすことはなかったんじゃないの」
朱莉様はそう言って私の方を睨むと、テラスから出て行ってしまいました。すれ違った瞬間、淡いバラの香りが鼻を掠めます。香水でしょうか。
どうやらこのお屋敷に私を歓迎している人は誰もいないようです。
「妹がすみません」
朱莉様が出て行くと、ベンチで本を読んでいた緋音様がこちらへ歩いてきました。
「次男の石鷲見緋音です。20歳で、〇〇大学に通っています。最近まで通学の関係で東京に行っていたんですが、来年から群馬のキャンパスに変わるので戻ってきました。これからよろしくお願いします」
緋音様はそう言うと微笑みました。ご主人様一家の中で初めてこちらを見て話してくれました。
「鳩羽ひまりです!19歳です。先月まで前橋で家事代行の仕事をしていて……」
私はやっと自己紹介を最後まで聞いてもらうことができました。
ご主人一家への挨拶と、加納さんによるお屋敷の案内が終わると、使用人たちの部屋のあるスペースまで連れてこられました。
「このあたりの部屋は全て使用人の部屋です。もっとも、今は人が減ってしまったので、ほとんど空き部屋になっていますが。鳩羽さんの部屋はこちらです」
案内された部屋は、広さこそあるものの、ほこりっぽくて家具のあちこちが剥げていて、長年人々に忘れ去られたような場所でした。歩くと床がミシミシ言います。けれど、部屋なんて寝られればいいのです。問題はありません。
「今日はもう休んでいただいて結構です。明日の五時までに、こちらの制服に着替えて広間まで来てください」
「了解しました!」
加納さんは私に黒いワンピースとエプロンの制服を渡すと、さっさと行ってしまいました。加納さんもご主人一家に似てクールな人です。使用人は主人に似るものなのでしょうか。
その日はほこりを被った部屋の掃除をして過ごしました。日が暮れるまでにはなんとか人の住める状態になり、一安心です。
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