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3.疑い
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「やめなよ。体育のとき移動してた人なんてたくさんいるじゃん」
少し離れたところにいた背の高いショートカットの女子が、不機嫌そうに言ってくれた。三原さんは面白くなさそうな顔をする。空気が一層張り詰めたところで、先生が入ってきた。
「授業始めるぞ~。おい、なんでみんな立ってるんだ?」
いつも冗談ばかりいっている、化学のおじいちゃん先生は間の抜けた声で言った。三原さんが何でもないです、といったのを機に、みんないそいそと席に着く。その日の授業はさすがに集中できなかった。
「はぁー……」
放課後、空き教室のベランダという定位置で盛大に溜息をついた。ろくに根拠もないというのに、みんなが私を怪しんでいる。いつものように口に入れた蜂蜜飴の甘さが痛い。誰が盗むかよ、ポーチなんか興味ねえっつの。つぶやいた声は虚しく宙を舞うだけだった。
教室に戻ると、まだ誰か残っているようだった。三原さんあたりだったら嫌だなと思いつつ、ドアを開ける。そこにいたのは汐見君だった。
「……まだ残ってたんだ」
汐見君が振り返って目が合ったので、一応口を開く。汐見君はまあね、とだけ言った。
「市川さんこそまだ帰ってなかったんだ」
必要以上にしゃべると思わなかった、というか名前を憶えていると思わなかったので、少し驚きながらも答えた。
「だって教室から一刻も早く去りたくて。みんな大塚さんのポーチ、私が盗んだと思ってるもん」
言いながら、逆に怪しい行動だったのではないかと思ったけれど、もう逃げてしまったものは仕方ない。
「市川さんがやったって根拠がないじゃん」
「本当だよ。でも、三原さんが誘導したっていうか……。庶民だからやりそうみたいにみんな思ってるの。意味わかんない」
思っていたことを言うと、少し心が軽くなる気がした。聞いてくれる人がいるからかもしれない。もっとも、汐見君は馬鹿にしたようにブランド物興味なさそうなのにね、と返すだけだったけれど。
「あのさ」
「何?」
「汐見君は疑ってないの?本当は私がやったんじゃないかとか思わない?」
「やったの?」
「やってないよ!」
「じゃあやってないんでしょ」
胸がじんわり温かくなった。目の前にいるこの人は、私を疑ってない。そう思うと、涙がこぼれそうになる。汐見君は黙り込んだ私を怪訝な顔で見つめた。
慰められたわけじゃないのに、本人はめんどくさそうに話しているだけなのに。なぜ嬉しいんだろう。
少し離れたところにいた背の高いショートカットの女子が、不機嫌そうに言ってくれた。三原さんは面白くなさそうな顔をする。空気が一層張り詰めたところで、先生が入ってきた。
「授業始めるぞ~。おい、なんでみんな立ってるんだ?」
いつも冗談ばかりいっている、化学のおじいちゃん先生は間の抜けた声で言った。三原さんが何でもないです、といったのを機に、みんないそいそと席に着く。その日の授業はさすがに集中できなかった。
「はぁー……」
放課後、空き教室のベランダという定位置で盛大に溜息をついた。ろくに根拠もないというのに、みんなが私を怪しんでいる。いつものように口に入れた蜂蜜飴の甘さが痛い。誰が盗むかよ、ポーチなんか興味ねえっつの。つぶやいた声は虚しく宙を舞うだけだった。
教室に戻ると、まだ誰か残っているようだった。三原さんあたりだったら嫌だなと思いつつ、ドアを開ける。そこにいたのは汐見君だった。
「……まだ残ってたんだ」
汐見君が振り返って目が合ったので、一応口を開く。汐見君はまあね、とだけ言った。
「市川さんこそまだ帰ってなかったんだ」
必要以上にしゃべると思わなかった、というか名前を憶えていると思わなかったので、少し驚きながらも答えた。
「だって教室から一刻も早く去りたくて。みんな大塚さんのポーチ、私が盗んだと思ってるもん」
言いながら、逆に怪しい行動だったのではないかと思ったけれど、もう逃げてしまったものは仕方ない。
「市川さんがやったって根拠がないじゃん」
「本当だよ。でも、三原さんが誘導したっていうか……。庶民だからやりそうみたいにみんな思ってるの。意味わかんない」
思っていたことを言うと、少し心が軽くなる気がした。聞いてくれる人がいるからかもしれない。もっとも、汐見君は馬鹿にしたようにブランド物興味なさそうなのにね、と返すだけだったけれど。
「あのさ」
「何?」
「汐見君は疑ってないの?本当は私がやったんじゃないかとか思わない?」
「やったの?」
「やってないよ!」
「じゃあやってないんでしょ」
胸がじんわり温かくなった。目の前にいるこの人は、私を疑ってない。そう思うと、涙がこぼれそうになる。汐見君は黙り込んだ私を怪訝な顔で見つめた。
慰められたわけじゃないのに、本人はめんどくさそうに話しているだけなのに。なぜ嬉しいんだろう。
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