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ご褒美デートにて
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――六月
気温が高くなっていき、本格的な夏が近付いてくると考えながら私はふらふらして歩いていた。
(どうしよう……後三日で中間テストだ!)
誓くんの誕生日を終えると、あっと言う間に中間テスト準備期間になった。が、テストが近くても余り気にしない周りの人に影響されていると、残り三日前で。
(いい加減勉強しないと駄目だよね?)
いつも通り幼馴染みの燈呂に泣きついて、赤点回避させて貰おうかと考えながら歩いていると。
「あれ? 陽菜ちゃんだ」
「……」
声だけでも聞きたくない相手に前から話しかけられ、私はくるりと背を向け逃げようとしたけど。
「彼氏見て逃げようなんて酷くない? 彼女さん?」
「……」
距離を一気に縮められ、肩をポンっと叩かれる。
誓くんの誕生日を祝ったが、イメージが変わることなく関わりたくない存在であの日以来連絡は適当にしていた。顔も視界にいれないように顔を逸らしていると、誓くんが覗きこみ目があう。うん、相変わらず顔は好みだ。腹が立つけど。
「んーその不機嫌そうな顔も面白いけど、俺としては君の笑顔がみたいな」
「そうですか。貴方がいないなら笑顔になるんじゃないでしょうか」
「相変わらず言いたい事を言わなそうな顔してハッキリ言うよね君って」
楽しそうに誓くんは笑った後に、私の手を繋ぐ。
「何するんですか」
「折角あったんだし、デートでも」
「しません。私はテスト勉強しなきゃ……」
「ねぇ、君さ」
「?」
「俺が嫌いなのはわかるけど、いつまで逃げているわけ?」
「……」
誓くんに言われ、私は黙りこむ。確かに、あの出来事で最低男とは関わりたくないからっていつまでも逃げているわけにはいかない。わかっているけど……
「それとも君は最低だと思っている俺にハジメテを渡してもいいと……思ってないよねその顔」
「……」
「だったら、頑張って探ってみてよ。じゃないと、俺が楽しくないでしょ」
誓くんはそう言うと、繋いだ手を引っ張りどこかに向かおうとする。
(自分が楽しくないから探れか)
前につまらないこの世界をぶち壊してくれる気がすると言っていた。この人にとっては、自分が楽しければ他の人の気持ちなんかどうでもいいんだ。
(私の気持ちも……)
そう思うとぎゅっと繋いでいる手に力が入る。
(はやくはやく)
この最低な人から離れたい。
(だから、立ち止まっている場合じゃないですよね)
この人に言われてなのが嫌だが、そんなことを考えている場合じゃない。
(はやく離れよう……)
そして、最悪な経験をしたと思い普通の日常に戻ろうと決めた。
「……誓くん」
「ん?」
「デートどこ行くんですか?」
引っ張られるように距離を開いていたのを縮め、誓くんの隣を歩く。彼は楽しそうに笑っている。
「そうだな~俺も、テスト近いし……んーとりあえずバイト先にでも行こうか」
「バイト先って……」
「面白いもの見れるかもしれないし」
「?」
誓くんの言う面白いものというのは何か不思議に思ったが聞かず、私は彼と共にカフェに向かった。
「こんにちは~」
「誓くん、入っていいんですか? プレートがcloseになって……」
普段はopen側であろうプレートがcloseになっていて、休みじゃないかと思い、誓くんに言っているとなんか店内から声が聞こえる。
「ざけんな。俺は……」
「誘! お前ちゃんとやらないとオーナーが」
「知らねぇ! 無理なもんは……」
「あ、イザナくん」
イザナくんがこちら側に走って来る。店内は走るものじゃないと思っていると、後ろからあのかっこいい店員さんが現れて。
「あ、丁度いい! 誘を掴まえて!」
「え?」
「ははっ、俺を捕まえるなんてお前らに出来ねぇよ!」
私達に向かってくるイザナくんに、私はどうすべきかと慌てていると傍にいた誓くんに背中を押されて。
「え? ひゃ!」
「! っと!」
倒れそうになった私をイザナくんに支えられた。走っていたのに、止まって支えれるなんて凄い。
「はーい、イザナくんゲット~」
「あ!」
誓くんがどこから出したのか、手錠をガシャンとイザナくんに片方付け私から引き剥がす。
「おまっ! 誓! イケニエちゃんを使うなんて卑怯だぞ!」
「引っかかるイザナくんが悪いんだよ」
「……」
手錠を引っ張りながら、店員さんの方に誓くんは連れて行く。
「誓ナイス! 誘、お前なぁ……」
「だってさー」
(本当に性格悪いな瀬野誓)
イザナくんを捕まえる為に私を背中を押した。イザナくんが支えてくれなかったら……
「陽菜ちゃん何そこで突っ立てるのさ? こっち来なよ」
「はいはい……」
ゲームを再開すると決めたのなら、そこは諦めなきゃならないのかぁっと心でため息を吐きながら私は誓くんの方へと行く。そこには。
「あれ? 聖くん?」
「こ、こんにちは陽菜さん」
聖くんの姿もあった。そして、そこの席には……
「教科書? 勉強していたんですか?」
「そうそう。赤点常習犯の誘がいるから勉強会をテストの三日前からやるんだ」
「へぇ……」
(イザナくん赤点常習犯なんだ……)
勉強好きそうじゃなさそうだから納得する。イザナくんは不機嫌そうな顔のまま椅子に座らされる。
「勉強出来なくたって俺は生きていけるし。必要なくね?」
「そういうなって。お前はそうかもしれないけど、退学になったらお姉さん哀しむぞ」
「……」
(お姉さん?)
黙り込むイザナくんは、見たことがない困った顔をしていて。そんな顔させる程にお姉さんとやらは大切な人なのがわかり、意外そうな顔を私がしていると、誓くんが口を開く。
「イザナくんにはお姉さんがいるんだよ」
「そうなんですか……じゃあ、弟なんですねイザナくん」
(意外のようなそれっぽいような……)
「まぁ、半分血が繋がってないけどな」
「え……」
イザナくんが、つまらなさそうにどうでもいいように言うけどもそれはなんというか。
(イザナくんって案外複雑な家庭なのかな?)
家に帰りたくないって言うけど、それが理由なんだろうか。
(なんだろう……知ると、簡単に追い出しにくくなったような……)
「つか、何でイケニエちゃんと誓が来たんだ?」
イザナくんは私達の方を見て聞いてくる。私もなんで来たのか知らないから誓くんの方に視線を向ける。
「ん~僕らもテスト勉強一緒にしようかなって思って」
「え」
(テスト勉強?)
「誓なら家に連れ込んでしそうなのにここでなのか? あ、何か飲むか?」
「今は危険人物と思われているから他の人といるといいかなって。俺、ウーロン茶! 君は?」
「あ、私もそれで……って、テスト勉強?」
聞き返すと、誓くんはにっこりと笑い私を見る。
「だって、君なんか赤点ギリギリっぽそうじゃん。俺が教えてあげようかなーって思って」
「う……」
(そうなんだけど……)
この人に教わるってのはなんか馬鹿にされそうで嫌だ。既にされている気もするが。
「いえ、私は大丈夫です! だから」
「じゃあさ、イケニエちゃん」
「イザナくん? って、あれ!? 手錠は!?」
手錠を付けられていたはずなのに、イザナくんは外れており頬杖をかきながら楽しそうに言う。
「五教科総合得点でこの中で一番高い人とイケニエちゃんがデート出来るってのはどうだ?」
「はい?」
(デート?)
「あの、凪さん」
「ん、なんだ聖?」
「それって、陽菜さんに何の得が?」
「ねぇよ」
「ですよね……」
私もそう思っていたので、何でそんなこと言ったのだろうかとイザナくんを見る。
「ただ俺がその方がやる気まだ出るからやりたいだけ」
「つまり、イザナくんの勝手ですね。そんなの却下……」
「家主の娘さんは下宿の子が赤点取って来てもいいんだー」
「う……」
(別に娘は関係ないといえばないが、そう言われると……)
「陽菜ちゃん」
「!?」
困り考えていると、店員さんが私の肩を掴み真剣な顔で距離を縮める。
「誘が高得点出してくれたら、何回か奢っていいから! 頼む!」
「いや、でも……」
ちらりと周りの人を見る。この中で一番高得点出しそうな人……
「大丈夫だって陽菜ちゃん。イザナくんより彼氏の俺が勝つからデートも俺だよ」
にこりと笑う誓くんを見て、私もその通りだと思うけども。
(デートの内容が気になる……! 一緒に居る時間も長くなり、この前みたくまたキスを何度もされたら嫌だし……)
探ると覚悟は決めたが、何度されてもこの人にされたら嫌なのは変わらない。断ろうと思っていたが、必死な店員さんは段々距離を縮められ、かっこいい顔が目の前にあり、ドキドキし離れて欲しくてつい……
「陽菜ちゃん……!」
「!! あーわかりました! いいですよ! やります!」
了承してしまった。
「よーし、言質は取った! やる気出て来た~。誓と違い、俺は誘われたら最後までシていいんだし」
「陽菜ちゃんの彼氏居る前にそういう発言しちゃうんだイザナくん」
「お前こそ彼女をご褒美に捧げるなんて酷い男だな」
「あはは~お互い様でしょ?」
「だな」
「……」
最低な男二人の会話を聞き、私は後悔をしていた。だが、戻れない。
「ありがとう陽菜ちゃん」
「いえ……日下さんも大変ですね」
店員さん……日下さんにそう言うと、彼は驚いた顔をされた。
「えっと?」
「いや……気付いてないのか」
「?」
「まぁ、いいや。あ、そうだ。誘に誓に聖!」
何のことかと聞く前に、日下さんが三人に向き合う。
「五教科総合得点でこの中で一番高い人が陽菜ちゃんとデート出来るのは変わらないけど」
「ん?」
「陽菜ちゃんが俺ら上回る総合得点取ったら無効にするからな」
「!」
(私が彼らを上回れば?)
そうすればデート回避出来ると知り、嬉しくなるが誓くんが楽しそうに言う。
「いいけどさ、俺平均90点はいくよ?」
「……」
赤点ギリギリの私じゃ、その点数にいきなりいけそうにない。
「が、頑張ろう陽菜さん。僕も頑張るから」
「聖くん……」
聖くんは励ましにそう言ってくれる。
「あれ、何かな聖ぃー? 君は俺の彼女さんとデートしたいわけ?」
「え、あ……そういうわけじゃ……」
「まぁ、俺に勝てればデート出来るわけだし……頑張れば~?」
「……」
聖くんが黙り込むのをみて、私を元気出すために言ったと考え誓くんを睨むと楽しそうに私に視線を向ける。
「あれ? 何、彼女さんそんな不機嫌そうな顔して」
「別に。誓くんは本当に性格悪いなって思って」
「え? 褒めているのかな?」
「褒めてません!」
そう言いながら私も教科書を取り出した。誓くん達に勝てる気はしないけど、やれることはしようと思ったからだ。
「陽菜ちゃんわからないとこ教えてあげるよ」
そう言う誓くんを無視し、私は日下さんに時々教わりながら問題を解いていった。
こうして、テスト期間は過ぎ去り返却もされた。結果は……。
(遅い……)
あの人の性格じゃギリギリに来るだろうと思い、私もその頃に着くように待ち合わせ場所に来たのだが数十分経っても彼は現れない。
(あの約束無視して、来なければよかったかな……いやいや……)
約束を守らない人にはなりたくないしっと思い、私は空を見上げる。
私は総合得点は平均60点くらいで、全然全員には勝てなかった。イザナくんぐらいには勝てるかと思ったのだけど、彼はやれば出来る子のようで高得点を出しては、日下さんを喜ばせ泣かせていた。
(三日であんなに覚えれるなんてイザナくんって……)
「そこの子」
「……?」
考え事をしている時に話しかけられ、顔を空から戻す。そこには、雰囲気が怖そうなお兄さん方が立っていた。思わず一歩引きさがってしまう。
(な、なんだろう……怖いな)
「な、なんでしょうか」
「お前が甘泉陽菜?」
「……違いますけど」
名前を知っているのが怖くて、咄嗟に違うと答えた。これで、離れてくれると思ったが甘く、彼らの後ろから女の声がする。
「そう、その女よ」
「!」
その声の持ち主は、前に誓くんに縋りついていた子で。
「嘘をつくなんて……嫌な女」
「っ……!」
(これは……!)
あの日の続きだと気付き、私は逃げようと背を向けるが。
「おっと」
「!」
先回りに男が居た。ニヤニヤと笑い、私を見ているのが嫌な感じだ。
「すみません、私用事があるので……! 離して下さいっ!」
それでも、通り過ぎようとすると手首を強く掴まれる。折れるんじゃないかというくらい。
「へへっ。コイツが瀬野誓の本命か……中学生ってアイツはロリコンにでもなったのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ。その子アンタ達で好きにして」
「っ! 離して!」
女が言った内容に男達が笑うの見て私は、殴られるか犯されてしまうと感じ怖くなり暴れる。人通りは少ないが人がいるし、声を荒げていれば誰か助けてくれると思ったのに。
「ほら行くぞ」
「離して!」
誰も助けてくれず、警察呼ぶべき? という声しか聞こえない。そんな相談しているんだったらはやく呼んで欲しいのに、動かず遠巻きで見ているだけ。
(なんで?)
周りの人が冷たく感じるし、怖くて涙が出そうになる私を男が引っ張っていく。
(このまま私は……やだ。そんなの……誰か……)
「助けて……」
小さく呟いたが、それは誰にも聞こえず消えて行く。涙が伝いそうになったその時。
「そ、その子を離してあげてください!」
「え……」
おどおどした声だが、強めに言った声に驚いて顔をあげる。そこにいたのは。
「……聖くん……?」
「なんだ?」
「警察も呼びました。だから、その子を離さないと……」
私でもわかる。助けに来てくれた聖くんの手が震えているのが。
「あ? なんだ? じゃあ、お前が相手してくれるのか?」
「ちょっと!」
「大丈夫だ。コイツの後にこの女を……!」
「この女を……何かな?」
(この声は……)
いつもだったら嫌で顔を見たくないのに、今だけはほっとする後ろから聞こえた声に名前を呼び振り返ろうとすると手を掴まれる。何かと前見ると、聖くんで。
「聖く……!」
彼が思いっきり私の手首を掴み引っ張り、男から引き剥がす。男が驚いていると聖くんが庇うように前に出る。
「こ、こういうことよくないと思います」
「!」
震えた声でそう告げると、男は怒りだし聖くんを殴ろうと拳を振り上げる。私は、聖くんの名を呼びもう駄目だと思った時に、殴られる前に止まる。
「そうそう、こういうことは良くないぜ」
「!! イザナくん?」
男の隣にイザナくんが居て、男の手を掴み止めている。男は驚き、イザナくんの方を見ると怯えた顔になる。
「お前は……!」
「なぁ、オニーサン」
イザナくんは男の肩を組み、距離を縮め私達に聞こえないくらいの声で何かを囁き笑う。それを聞いた男は、顔を真っ青にして。
「! 俺は知らない!」
「ひゃ!」
私の横を通り過ぎ、去っていく。何を囁いたんだっとイザナくんの方を見ると、彼は誓くんの方を見ていて。誓くんが来てくれたのを思い出し、見守っていると彼はコツコツ女の方に行く。
「君って馬鹿だね。こんなことしても意味がないってわかっているのに」
「! だって、それでも私は……」
「憎むなら俺にしなよ。彼女に手を出したら……そうだなぁ……」
誓くんは少し考えた後、にこりと笑う。
「君のあの情報ばら撒こうかなぁ……少し面白いことになるもんね」
「!!」
誓くんがそう言い彼女に近付くと、青ざめて後退りする。
「君にとっては……俺と話すより地獄だよね? だって……あはっ」
「っ……!」
楽しそうに話す誓くんの顔が悪魔に見え、私は身震いをした。
「それが嫌なら、普通に過ごしたら? 今日のは面白かったから何もしないであげるからさ」
「……」
誓くんは青ざめる女にそう言い、今度は男達を見ては笑う。
「君達も……わかったでしょ?」
「!! 行こうぜ……」
たったそれだけ誓くんが言うと、簡単に男達は走り去っていく。残ったのは私達だけで。
「……陽菜さん」
「あ……」
つい、聖くんの裾を掴み震えていたのに気付き慌てて離そうとした。だけど、聖くんはその手を掴み包み込む。
「聖く……ん?」
「大丈夫。大丈夫だからね陽菜さん」
「あ……」
聖くんに言われて、私は涙が一筋伝う。
(怖かった……)
誰にも助けられずあのまま連れ去られるかと思ったらすごく。
「陽菜さん……」
泣いた私に聖くんが優しい声で呼ぶから更に泣きそうで。
「とりあえず目立っているし公園行くか」
イザナくんに言われ、私達は公園に向かった。
公園に着くと、我慢していた涙が止まらず三人の前なのに泣いてしまった。結構泣いた後にお礼がまだだったなっと、誓くんから借りたハンカチで涙を拭い、優しく接してくれている聖くんに向き合う。
「聖くん助けてくれて庇ってくれてありがとうございました」
「いや、僕は……」
「連れ去られそうな時に誰も助けてくれなくて怖くて……そんな中助けてくれた聖くんが嬉しかったです。ありがとうございます」
笑って言うと、聖くんは困った顔をした。
「いや、僕は全然助けれてないよ。説得したの誓に凪さんだし」
「そんなこと……」
「でも……」
聖くんはふんわりと笑いながら言う。
「君が無事で良かった」
「!!」
その表情にドクンっと、胸辺りがおかしくなる。
(なんだろうこれは……)
「陽菜さん?」
「い、いえ……聖くんも怖かったのに助けてくれて本当に嬉しかったなぁっと……かっこよかったです」
「かっこよか……」
「はい」
「……そっか」
聖くんは照れ笑いをする。その表情見て、私も笑う。穏やかな雰囲気だったのに。
「あのさ~俺ら居なかったら君達ボコボコだったのわかるの?」
「!!」
誓くんの声に、二人の存在に気付く。イザナくんはニヤニヤし、誓くんは不機嫌そうだ。
「わかってます! で、でも元はと言えばあれは誓くんがちゃんと綺麗に別れてなかったからじゃ……」
「イケニエちゃんが、ちゃんと説得出来てなかったのもあると思うけど?」
「う……」
(そうなんだけど……)
あの女の人……というか、誓くんの彼女達はどう対処すればいいのか人生経験薄い私にはわからないというか。
(またこういうのがあるのだろうか……)
そう考えるとうんざり顔の私に誓くんが、ため息吐きながら言う。
「まぁ、今度はないようにしそうな子に釘をさしとくよ」
「え」
「俺と君のゲームの邪魔にされたくないしね。面倒だけど」
「……」
面倒だけどしてくれるのなら安心だが、そんなに私とのゲーム楽しいのだろうか。よくわからない。
「まぁ、そんなわけで後片付けしてくるから今日のデートはキャンセルってことで」
「キャンセル? ってことは……」
「後日改めてだね」
「……」
なくなるのかとちょっと期待したが、そうじゃないらしい。残念そうな私を見て、誓くんは笑う。
「そんなに楽しみなんだね。俺とのデート」
「誓くんって一回眼科行った方がいいですよ? 目が悪いと思います」
そう答えると、誓くんはまた笑う。助けてはくれたが、やはり好きにはなれないなぁっと今の私は思った。
気温が高くなっていき、本格的な夏が近付いてくると考えながら私はふらふらして歩いていた。
(どうしよう……後三日で中間テストだ!)
誓くんの誕生日を終えると、あっと言う間に中間テスト準備期間になった。が、テストが近くても余り気にしない周りの人に影響されていると、残り三日前で。
(いい加減勉強しないと駄目だよね?)
いつも通り幼馴染みの燈呂に泣きついて、赤点回避させて貰おうかと考えながら歩いていると。
「あれ? 陽菜ちゃんだ」
「……」
声だけでも聞きたくない相手に前から話しかけられ、私はくるりと背を向け逃げようとしたけど。
「彼氏見て逃げようなんて酷くない? 彼女さん?」
「……」
距離を一気に縮められ、肩をポンっと叩かれる。
誓くんの誕生日を祝ったが、イメージが変わることなく関わりたくない存在であの日以来連絡は適当にしていた。顔も視界にいれないように顔を逸らしていると、誓くんが覗きこみ目があう。うん、相変わらず顔は好みだ。腹が立つけど。
「んーその不機嫌そうな顔も面白いけど、俺としては君の笑顔がみたいな」
「そうですか。貴方がいないなら笑顔になるんじゃないでしょうか」
「相変わらず言いたい事を言わなそうな顔してハッキリ言うよね君って」
楽しそうに誓くんは笑った後に、私の手を繋ぐ。
「何するんですか」
「折角あったんだし、デートでも」
「しません。私はテスト勉強しなきゃ……」
「ねぇ、君さ」
「?」
「俺が嫌いなのはわかるけど、いつまで逃げているわけ?」
「……」
誓くんに言われ、私は黙りこむ。確かに、あの出来事で最低男とは関わりたくないからっていつまでも逃げているわけにはいかない。わかっているけど……
「それとも君は最低だと思っている俺にハジメテを渡してもいいと……思ってないよねその顔」
「……」
「だったら、頑張って探ってみてよ。じゃないと、俺が楽しくないでしょ」
誓くんはそう言うと、繋いだ手を引っ張りどこかに向かおうとする。
(自分が楽しくないから探れか)
前につまらないこの世界をぶち壊してくれる気がすると言っていた。この人にとっては、自分が楽しければ他の人の気持ちなんかどうでもいいんだ。
(私の気持ちも……)
そう思うとぎゅっと繋いでいる手に力が入る。
(はやくはやく)
この最低な人から離れたい。
(だから、立ち止まっている場合じゃないですよね)
この人に言われてなのが嫌だが、そんなことを考えている場合じゃない。
(はやく離れよう……)
そして、最悪な経験をしたと思い普通の日常に戻ろうと決めた。
「……誓くん」
「ん?」
「デートどこ行くんですか?」
引っ張られるように距離を開いていたのを縮め、誓くんの隣を歩く。彼は楽しそうに笑っている。
「そうだな~俺も、テスト近いし……んーとりあえずバイト先にでも行こうか」
「バイト先って……」
「面白いもの見れるかもしれないし」
「?」
誓くんの言う面白いものというのは何か不思議に思ったが聞かず、私は彼と共にカフェに向かった。
「こんにちは~」
「誓くん、入っていいんですか? プレートがcloseになって……」
普段はopen側であろうプレートがcloseになっていて、休みじゃないかと思い、誓くんに言っているとなんか店内から声が聞こえる。
「ざけんな。俺は……」
「誘! お前ちゃんとやらないとオーナーが」
「知らねぇ! 無理なもんは……」
「あ、イザナくん」
イザナくんがこちら側に走って来る。店内は走るものじゃないと思っていると、後ろからあのかっこいい店員さんが現れて。
「あ、丁度いい! 誘を掴まえて!」
「え?」
「ははっ、俺を捕まえるなんてお前らに出来ねぇよ!」
私達に向かってくるイザナくんに、私はどうすべきかと慌てていると傍にいた誓くんに背中を押されて。
「え? ひゃ!」
「! っと!」
倒れそうになった私をイザナくんに支えられた。走っていたのに、止まって支えれるなんて凄い。
「はーい、イザナくんゲット~」
「あ!」
誓くんがどこから出したのか、手錠をガシャンとイザナくんに片方付け私から引き剥がす。
「おまっ! 誓! イケニエちゃんを使うなんて卑怯だぞ!」
「引っかかるイザナくんが悪いんだよ」
「……」
手錠を引っ張りながら、店員さんの方に誓くんは連れて行く。
「誓ナイス! 誘、お前なぁ……」
「だってさー」
(本当に性格悪いな瀬野誓)
イザナくんを捕まえる為に私を背中を押した。イザナくんが支えてくれなかったら……
「陽菜ちゃん何そこで突っ立てるのさ? こっち来なよ」
「はいはい……」
ゲームを再開すると決めたのなら、そこは諦めなきゃならないのかぁっと心でため息を吐きながら私は誓くんの方へと行く。そこには。
「あれ? 聖くん?」
「こ、こんにちは陽菜さん」
聖くんの姿もあった。そして、そこの席には……
「教科書? 勉強していたんですか?」
「そうそう。赤点常習犯の誘がいるから勉強会をテストの三日前からやるんだ」
「へぇ……」
(イザナくん赤点常習犯なんだ……)
勉強好きそうじゃなさそうだから納得する。イザナくんは不機嫌そうな顔のまま椅子に座らされる。
「勉強出来なくたって俺は生きていけるし。必要なくね?」
「そういうなって。お前はそうかもしれないけど、退学になったらお姉さん哀しむぞ」
「……」
(お姉さん?)
黙り込むイザナくんは、見たことがない困った顔をしていて。そんな顔させる程にお姉さんとやらは大切な人なのがわかり、意外そうな顔を私がしていると、誓くんが口を開く。
「イザナくんにはお姉さんがいるんだよ」
「そうなんですか……じゃあ、弟なんですねイザナくん」
(意外のようなそれっぽいような……)
「まぁ、半分血が繋がってないけどな」
「え……」
イザナくんが、つまらなさそうにどうでもいいように言うけどもそれはなんというか。
(イザナくんって案外複雑な家庭なのかな?)
家に帰りたくないって言うけど、それが理由なんだろうか。
(なんだろう……知ると、簡単に追い出しにくくなったような……)
「つか、何でイケニエちゃんと誓が来たんだ?」
イザナくんは私達の方を見て聞いてくる。私もなんで来たのか知らないから誓くんの方に視線を向ける。
「ん~僕らもテスト勉強一緒にしようかなって思って」
「え」
(テスト勉強?)
「誓なら家に連れ込んでしそうなのにここでなのか? あ、何か飲むか?」
「今は危険人物と思われているから他の人といるといいかなって。俺、ウーロン茶! 君は?」
「あ、私もそれで……って、テスト勉強?」
聞き返すと、誓くんはにっこりと笑い私を見る。
「だって、君なんか赤点ギリギリっぽそうじゃん。俺が教えてあげようかなーって思って」
「う……」
(そうなんだけど……)
この人に教わるってのはなんか馬鹿にされそうで嫌だ。既にされている気もするが。
「いえ、私は大丈夫です! だから」
「じゃあさ、イケニエちゃん」
「イザナくん? って、あれ!? 手錠は!?」
手錠を付けられていたはずなのに、イザナくんは外れており頬杖をかきながら楽しそうに言う。
「五教科総合得点でこの中で一番高い人とイケニエちゃんがデート出来るってのはどうだ?」
「はい?」
(デート?)
「あの、凪さん」
「ん、なんだ聖?」
「それって、陽菜さんに何の得が?」
「ねぇよ」
「ですよね……」
私もそう思っていたので、何でそんなこと言ったのだろうかとイザナくんを見る。
「ただ俺がその方がやる気まだ出るからやりたいだけ」
「つまり、イザナくんの勝手ですね。そんなの却下……」
「家主の娘さんは下宿の子が赤点取って来てもいいんだー」
「う……」
(別に娘は関係ないといえばないが、そう言われると……)
「陽菜ちゃん」
「!?」
困り考えていると、店員さんが私の肩を掴み真剣な顔で距離を縮める。
「誘が高得点出してくれたら、何回か奢っていいから! 頼む!」
「いや、でも……」
ちらりと周りの人を見る。この中で一番高得点出しそうな人……
「大丈夫だって陽菜ちゃん。イザナくんより彼氏の俺が勝つからデートも俺だよ」
にこりと笑う誓くんを見て、私もその通りだと思うけども。
(デートの内容が気になる……! 一緒に居る時間も長くなり、この前みたくまたキスを何度もされたら嫌だし……)
探ると覚悟は決めたが、何度されてもこの人にされたら嫌なのは変わらない。断ろうと思っていたが、必死な店員さんは段々距離を縮められ、かっこいい顔が目の前にあり、ドキドキし離れて欲しくてつい……
「陽菜ちゃん……!」
「!! あーわかりました! いいですよ! やります!」
了承してしまった。
「よーし、言質は取った! やる気出て来た~。誓と違い、俺は誘われたら最後までシていいんだし」
「陽菜ちゃんの彼氏居る前にそういう発言しちゃうんだイザナくん」
「お前こそ彼女をご褒美に捧げるなんて酷い男だな」
「あはは~お互い様でしょ?」
「だな」
「……」
最低な男二人の会話を聞き、私は後悔をしていた。だが、戻れない。
「ありがとう陽菜ちゃん」
「いえ……日下さんも大変ですね」
店員さん……日下さんにそう言うと、彼は驚いた顔をされた。
「えっと?」
「いや……気付いてないのか」
「?」
「まぁ、いいや。あ、そうだ。誘に誓に聖!」
何のことかと聞く前に、日下さんが三人に向き合う。
「五教科総合得点でこの中で一番高い人が陽菜ちゃんとデート出来るのは変わらないけど」
「ん?」
「陽菜ちゃんが俺ら上回る総合得点取ったら無効にするからな」
「!」
(私が彼らを上回れば?)
そうすればデート回避出来ると知り、嬉しくなるが誓くんが楽しそうに言う。
「いいけどさ、俺平均90点はいくよ?」
「……」
赤点ギリギリの私じゃ、その点数にいきなりいけそうにない。
「が、頑張ろう陽菜さん。僕も頑張るから」
「聖くん……」
聖くんは励ましにそう言ってくれる。
「あれ、何かな聖ぃー? 君は俺の彼女さんとデートしたいわけ?」
「え、あ……そういうわけじゃ……」
「まぁ、俺に勝てればデート出来るわけだし……頑張れば~?」
「……」
聖くんが黙り込むのをみて、私を元気出すために言ったと考え誓くんを睨むと楽しそうに私に視線を向ける。
「あれ? 何、彼女さんそんな不機嫌そうな顔して」
「別に。誓くんは本当に性格悪いなって思って」
「え? 褒めているのかな?」
「褒めてません!」
そう言いながら私も教科書を取り出した。誓くん達に勝てる気はしないけど、やれることはしようと思ったからだ。
「陽菜ちゃんわからないとこ教えてあげるよ」
そう言う誓くんを無視し、私は日下さんに時々教わりながら問題を解いていった。
こうして、テスト期間は過ぎ去り返却もされた。結果は……。
(遅い……)
あの人の性格じゃギリギリに来るだろうと思い、私もその頃に着くように待ち合わせ場所に来たのだが数十分経っても彼は現れない。
(あの約束無視して、来なければよかったかな……いやいや……)
約束を守らない人にはなりたくないしっと思い、私は空を見上げる。
私は総合得点は平均60点くらいで、全然全員には勝てなかった。イザナくんぐらいには勝てるかと思ったのだけど、彼はやれば出来る子のようで高得点を出しては、日下さんを喜ばせ泣かせていた。
(三日であんなに覚えれるなんてイザナくんって……)
「そこの子」
「……?」
考え事をしている時に話しかけられ、顔を空から戻す。そこには、雰囲気が怖そうなお兄さん方が立っていた。思わず一歩引きさがってしまう。
(な、なんだろう……怖いな)
「な、なんでしょうか」
「お前が甘泉陽菜?」
「……違いますけど」
名前を知っているのが怖くて、咄嗟に違うと答えた。これで、離れてくれると思ったが甘く、彼らの後ろから女の声がする。
「そう、その女よ」
「!」
その声の持ち主は、前に誓くんに縋りついていた子で。
「嘘をつくなんて……嫌な女」
「っ……!」
(これは……!)
あの日の続きだと気付き、私は逃げようと背を向けるが。
「おっと」
「!」
先回りに男が居た。ニヤニヤと笑い、私を見ているのが嫌な感じだ。
「すみません、私用事があるので……! 離して下さいっ!」
それでも、通り過ぎようとすると手首を強く掴まれる。折れるんじゃないかというくらい。
「へへっ。コイツが瀬野誓の本命か……中学生ってアイツはロリコンにでもなったのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ。その子アンタ達で好きにして」
「っ! 離して!」
女が言った内容に男達が笑うの見て私は、殴られるか犯されてしまうと感じ怖くなり暴れる。人通りは少ないが人がいるし、声を荒げていれば誰か助けてくれると思ったのに。
「ほら行くぞ」
「離して!」
誰も助けてくれず、警察呼ぶべき? という声しか聞こえない。そんな相談しているんだったらはやく呼んで欲しいのに、動かず遠巻きで見ているだけ。
(なんで?)
周りの人が冷たく感じるし、怖くて涙が出そうになる私を男が引っ張っていく。
(このまま私は……やだ。そんなの……誰か……)
「助けて……」
小さく呟いたが、それは誰にも聞こえず消えて行く。涙が伝いそうになったその時。
「そ、その子を離してあげてください!」
「え……」
おどおどした声だが、強めに言った声に驚いて顔をあげる。そこにいたのは。
「……聖くん……?」
「なんだ?」
「警察も呼びました。だから、その子を離さないと……」
私でもわかる。助けに来てくれた聖くんの手が震えているのが。
「あ? なんだ? じゃあ、お前が相手してくれるのか?」
「ちょっと!」
「大丈夫だ。コイツの後にこの女を……!」
「この女を……何かな?」
(この声は……)
いつもだったら嫌で顔を見たくないのに、今だけはほっとする後ろから聞こえた声に名前を呼び振り返ろうとすると手を掴まれる。何かと前見ると、聖くんで。
「聖く……!」
彼が思いっきり私の手首を掴み引っ張り、男から引き剥がす。男が驚いていると聖くんが庇うように前に出る。
「こ、こういうことよくないと思います」
「!」
震えた声でそう告げると、男は怒りだし聖くんを殴ろうと拳を振り上げる。私は、聖くんの名を呼びもう駄目だと思った時に、殴られる前に止まる。
「そうそう、こういうことは良くないぜ」
「!! イザナくん?」
男の隣にイザナくんが居て、男の手を掴み止めている。男は驚き、イザナくんの方を見ると怯えた顔になる。
「お前は……!」
「なぁ、オニーサン」
イザナくんは男の肩を組み、距離を縮め私達に聞こえないくらいの声で何かを囁き笑う。それを聞いた男は、顔を真っ青にして。
「! 俺は知らない!」
「ひゃ!」
私の横を通り過ぎ、去っていく。何を囁いたんだっとイザナくんの方を見ると、彼は誓くんの方を見ていて。誓くんが来てくれたのを思い出し、見守っていると彼はコツコツ女の方に行く。
「君って馬鹿だね。こんなことしても意味がないってわかっているのに」
「! だって、それでも私は……」
「憎むなら俺にしなよ。彼女に手を出したら……そうだなぁ……」
誓くんは少し考えた後、にこりと笑う。
「君のあの情報ばら撒こうかなぁ……少し面白いことになるもんね」
「!!」
誓くんがそう言い彼女に近付くと、青ざめて後退りする。
「君にとっては……俺と話すより地獄だよね? だって……あはっ」
「っ……!」
楽しそうに話す誓くんの顔が悪魔に見え、私は身震いをした。
「それが嫌なら、普通に過ごしたら? 今日のは面白かったから何もしないであげるからさ」
「……」
誓くんは青ざめる女にそう言い、今度は男達を見ては笑う。
「君達も……わかったでしょ?」
「!! 行こうぜ……」
たったそれだけ誓くんが言うと、簡単に男達は走り去っていく。残ったのは私達だけで。
「……陽菜さん」
「あ……」
つい、聖くんの裾を掴み震えていたのに気付き慌てて離そうとした。だけど、聖くんはその手を掴み包み込む。
「聖く……ん?」
「大丈夫。大丈夫だからね陽菜さん」
「あ……」
聖くんに言われて、私は涙が一筋伝う。
(怖かった……)
誰にも助けられずあのまま連れ去られるかと思ったらすごく。
「陽菜さん……」
泣いた私に聖くんが優しい声で呼ぶから更に泣きそうで。
「とりあえず目立っているし公園行くか」
イザナくんに言われ、私達は公園に向かった。
公園に着くと、我慢していた涙が止まらず三人の前なのに泣いてしまった。結構泣いた後にお礼がまだだったなっと、誓くんから借りたハンカチで涙を拭い、優しく接してくれている聖くんに向き合う。
「聖くん助けてくれて庇ってくれてありがとうございました」
「いや、僕は……」
「連れ去られそうな時に誰も助けてくれなくて怖くて……そんな中助けてくれた聖くんが嬉しかったです。ありがとうございます」
笑って言うと、聖くんは困った顔をした。
「いや、僕は全然助けれてないよ。説得したの誓に凪さんだし」
「そんなこと……」
「でも……」
聖くんはふんわりと笑いながら言う。
「君が無事で良かった」
「!!」
その表情にドクンっと、胸辺りがおかしくなる。
(なんだろうこれは……)
「陽菜さん?」
「い、いえ……聖くんも怖かったのに助けてくれて本当に嬉しかったなぁっと……かっこよかったです」
「かっこよか……」
「はい」
「……そっか」
聖くんは照れ笑いをする。その表情見て、私も笑う。穏やかな雰囲気だったのに。
「あのさ~俺ら居なかったら君達ボコボコだったのわかるの?」
「!!」
誓くんの声に、二人の存在に気付く。イザナくんはニヤニヤし、誓くんは不機嫌そうだ。
「わかってます! で、でも元はと言えばあれは誓くんがちゃんと綺麗に別れてなかったからじゃ……」
「イケニエちゃんが、ちゃんと説得出来てなかったのもあると思うけど?」
「う……」
(そうなんだけど……)
あの女の人……というか、誓くんの彼女達はどう対処すればいいのか人生経験薄い私にはわからないというか。
(またこういうのがあるのだろうか……)
そう考えるとうんざり顔の私に誓くんが、ため息吐きながら言う。
「まぁ、今度はないようにしそうな子に釘をさしとくよ」
「え」
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「……」
面倒だけどしてくれるのなら安心だが、そんなに私とのゲーム楽しいのだろうか。よくわからない。
「まぁ、そんなわけで後片付けしてくるから今日のデートはキャンセルってことで」
「キャンセル? ってことは……」
「後日改めてだね」
「……」
なくなるのかとちょっと期待したが、そうじゃないらしい。残念そうな私を見て、誓くんは笑う。
「そんなに楽しみなんだね。俺とのデート」
「誓くんって一回眼科行った方がいいですよ? 目が悪いと思います」
そう答えると、誓くんはまた笑う。助けてはくれたが、やはり好きにはなれないなぁっと今の私は思った。
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