ニセカレ!!

彩。

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プロローグ

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――五月
大型連休が終わり、再び学園生活が始まり憂鬱そうな顔をしていた後輩の顔を思い出しながら、早足で目的地まで急ぐ。
今日は私、甘泉あまいずみ陽菜ひなが好きなアーティストのRUITOのアルバムの発売日だ。ネットで日付けが変わる瞬間にダウンロードし、すぐ聴けたのだが手元に置いて置きたい派の私は我慢し、こうしてCDショップへ向かっている。
(今回アルバムの為に書き下ろしたという曲どんなのでしょう……)
毎回RUITOさんの曲には、心を揺さぶられているので今回のもすごく楽しみだなっと思っていると、携帯にメッセージを受信した音に何かと覗くと父親からだった。
(えっと……明日は例の日だから早目に帰って来るの忘れるなよ……? 例の日?)
例の日とはなんだろうと思ったが、いつもなにかしら理由付けて記念日だといいお祝いするような両親だ。今回もそんなんだろうと思い適当にスタンプで返信して、携帯をしまおうとした瞬間。
「あ……!!!」
「おっと」
前から来た人とぶつかり転ぶっと思った時に、たくましい腕が私の腰に回り支えられ立たされた。
「す、すみません……ありがとうございま……!?」
助けてくれた人の顔を見て、私は固まってしまった。
(この人……顔がすっごいかっこいい!)
意地悪そうな口元につり目気味の瞳、前髪をヘアピンで止め肩にかかる髪先はオシャレに跳ねさせているのが似合っている。
自分の通う白桜はくおう学園は高等部から芸能科があり、かっこいい人に見慣れているがこの人は見た中で一番好みかもしれない。軽そうなのが気になるが。
「……君、怪我とかない? 大丈夫?」
「は、はい!」
(心配までしてくれた! 優しいんだ!)
「そっか。それはよかった……俺の購入品が無駄にならずにすんだよ」
「え? 購入品が無駄に? !!」
彼の視線の先には、ケースから飛び出し割れたCDで。私は青ざめて彼の方を見ると、すぐ顔が近くにあり腰を引き寄せられたままなのに気付いた。
「それはすみません……弁償します! その、どれくらいの……」
「ううん、そういうのはいいよ。君が無事だったんだからさ」
「え!」
(そう言ってくれるのは嬉しいが、これとそれは別だ。私が携帯見ていた不注意でぶつかってしまったのだから。ここは……!)
「いえ、弁償します! だから……」
「ううん、お金はいい。俺は……」
(え……)
更に引き寄せられたと思うと、片方の手で私の頬に手を当てると彼は私の口を塞いだ。驚いて口を開けたままでいると、そっと……
「ん? んーー!!」
「……」
それをいいことに彼は好き勝手にしていき、私は苦しくなっていき彼の胸板を叩く。それでも、離そうとしなくて泣きそうになっているとぐぃっと私が後ろから引き剥がされた。
息を整えながら涙目で目の前の彼を見ると、舌なめずりをし笑っていて。
「その顔いいね。もっと泣かせてやりたくなる」
「!」
そう言われて、真っ赤になりキスをこの人に奪われたのに気付き……私は。
ちかい……お前、道中の昼間でこういうことやるなよ。目立つしさーうちの……お!?」
助けてくれただろう男の人を振り切り、私はズカズカと彼に近付く。
「ん? 何? 続きしたくな……」
「っ!」
それ以上聞きたくなくて、力一杯に彼のを蹴った。
「っ~~~~!!!」
「おぉ!?」
痛さで座り込む彼を見下ろしながら、痴漢にはこうやるんだよって教えてくれた幼馴染みの顔にやってやったと思いながらも、されたことを思い出すと……駄目だ、ここで泣いたらコイツの思うつぼだ。
「あれ~? されるがままだったと思ったら……案外強いのなアンタ」
コイツの仲間だと思う黒く長い髪の男が私に話し掛けて来たが、無視して二人に背を向け、走り去る。堪えていた涙が溢れてしまう前に。
もう一人の男の笑い声が聞こえ、止めてくれたけどこの人も同類だったんだなっと思うと悲しくなって家に着いてすぐ泣いてしまった。



泣いてもファーストキスが戻ってくるわけでもないし、犬に噛まれたと思って忘れようと一晩泣いた頭で、学校に向かえば顔が酷かったらしく幼馴染みに友達に心配された。
何かあったのかと聞かれ、嫌な事があっただけと伝えると話したくないことかと察し、聞かないでくれた。周りはこんなに優しい人なのに、昨日の人は……!
(一瞬でも優しい人だと油断した私も馬鹿だけど! あーしかも、RUITOさんのアルバム買い忘れたし!)
今日の昼間に気付き、余計恨めしく感じたが忘れると決めたのだ。考えるのやめて、今はとりあえずアルバムだ。
(うちの近辺は売り切れだろうなぁ……RUITOさん白桜生で街も結構行くからなんか身近な存在に感じられるのか買う人多いし……だとすると……)
私は鞄を持ち、心配そうに見ていた友達に話しかけた後に教室を出た。


「隣の市に余り行きたくなかったんですがね……」
隣の市の商店街を歩き、目立つ自分の制服に絡まれませんようにと祈る。隣の市は、うちの学校と仲悪いとされる宝桜ほうおう学園がある。
親交を深めようと、生徒会が芸能科生徒達のライブイベントなどで入場できるようにしたりしているが、それはそれみたいでよく喧嘩したと話を聞く。
「はやく買って帰ろう……えっと、CDショップは……って、ひゃ!」
「あ、ごめん」
CDショップを見つけ、入ろうとすると宝桜の高等部の制服を着た男の人とぶつかった。昨日といい、今週はぶつかりやすい日なのかと、顔を上げると……
「あ、貴方は……!」
「ん?」
昨日、私のファーストキスを奪った男がいた。そういえば、宝桜の制服着ていた気がする!
「何? もしかして、俺に一目ぼれしたとか? ごめん、中学生は……」
「なっ! 勘違いも程々にして下さい! 大体中学生はとかいいながら、昨日私に……!」
「君に?」
「私に……あ!」
目立っているのに、気付き赤くなる。こんな店前で言い争いなんてするもんじゃないだろう。
「いえ……なんでもありません。じゃあ……」
「あ、思い出した! 君って、甘泉陽菜ちゃんでしょ?」
「!?」
何で名前を知っているんだと、顔を上げると携帯のケースに入れているハズの学生証をひらひらと持っていた。そっちは使わず携帯の方使うから気にしてなかったが、あのぶつかった時落としたのだろうか。
「拾ってくれたんですね。ありがとうございます。返してくれませんか」
「んーやだ」
「……」
笑顔で答えた。昨日と同じく蹴ろうかなぁっと顔を眺めていたら……ん?
「?」
「昨日はお世話になったしね。俺もアレされたままじゃ……」
「……」
(顔が相変わらず好みだ)
それは変わらないが、何か表情見ていると違和感が沸いてくる。なんだろう、この違和感。
「俺のプライドがさーだから君には……って、君?」
「なんか違和感がある……」
「?」
「なんでしょう……顔なんて見たくもないのに、今日はそんな風に思えないし表情が……ん?」
自分で何言っているんだろうと思いながら呟いていると、彼は私の学生証を私に差し出す。
「? 返してくれるんですか?」
「……うん、返してもいい。そのかわりさ……俺とさ、ゲームしない?」
「?」
「ゲーム内容は簡単。君が言うその違和感の正体は何か当てる」
「へっ?」
(それはつまり……)
「違和感がある理由あるんですか?」
「まぁね。それで君はやるの?」
「……」
(違和感ある理由は気にはなるが、キスを奪われた性格悪い相手と関わりたくないからここは)
「やりま」
「まぁ、拒否権はないけどね」
「!?」
にっこりと彼は笑うと、自分の携帯を取り出し画面を私に見せる。何かと見れば、そこにはカードに入っていた個人情報で。
「え!?」
「これ使って、ネットで嘘の情報書き込んだら君どうなるかな~」
「や、やめてください!」
そんなことされたら、漫画とかでよくある嫌がらせの嵐にあうだろう。そんな怖いことするなんてこの人……。
「……性格本当に悪い」
「やるよね?」
キッと睨むと、楽しそうな顔で言う彼。一生出来たら関わりたくないのに、なんでこんなことに。
「その顔最高だね」
「……」
腹立つが、ここで怒ったら駄目だ。この性格じゃまた何か付け加えられ、困るのは私だ。
「……それで、私が勝った時の報酬と負けた時何するんですか?」
「あれ、意外だ。また怒るかと思ったのに」
「怒っても何も解決出来ないでしょ。なんですか」
「そうだなー。君が勝ったら、俺が君の言う事を聞く」
「別に叶えて欲しいことなんてありませんけど」
「俺って結構顔きくから大抵の願いは叶えれるし。……それとも、君から何かある?」
「……もう二度と私の前に現れないでほしいですね」
「あはは……それが、俺が君の言う事聞くじゃん」
「……負けたら?」
「それは……」
彼の指先がするりと、私の首をなぞり顎でとまる。
「君のハジメテを貰う」
「!?」
「あ、ハジメテっていうのはセッ……」
「言わなくていいです!」
敏感な年頃なので、私は言わせるのを止めさせた。なんてことを言う……いや、させるんだこの人!?
(キスだけじゃ、足りなくその先まで奪うなんて……)
「中学生なんて興味なかったんじゃ……」
「ないよ。でも、君は別。……で、俺の違和感の正体探すゲームするの?」
チラチラと私の学生証を見せてくる。学生証を返しても、彼の携帯には私の個人情報はもう入っているのだろう。
「……わかりました」
私は逃げれないと思い、ため息を吐きながら答える。
「成立だね。あ、俺の名前は瀬野せの誓」
「わかりました、瀬野さん」
「誓くんがいいな。俺、君の彼氏になるんだし」
「……え?」
意味がわからなくて、瀬野さんを見るとにこにこ笑っている。
「ほら、その方がよく一緒にいて見つけやすいでしょ?」
「そうかもしれませんが……彼氏? 貴方を?」
(顔も見たくないのに……!?)
「断れないよ。君は先程ゲームを承諾した。それは、俺を彼氏にするというのも入っていた」
「え!?」
(そんなの聞いてないんですが!?)
「いりません! 私は……」
「……ねぇ、陽菜ちゃん」
「!?」
瀬野さんが私の首元に指を置く。
「ゲームってのはね、有利になりそうなものは全て使うんだよ。だから、相手がくれる有利な条件は受けて置いた方がいい」
「……」
(確かにそうかもしれない……だけど、なんだろう嫌な予感が……)
「わかった? 陽菜ちゃん」
「……わかりました。誓くん」
「期限は……そうだなぁ、今が五月だから半年後十月末まで」
嫌な予感がするが、自分の体がかかっているんだと思ったから受けることにした。
「じゃあ、詳しくはメッセージアプリで送るから連絡先を……」
「あ、いいなそれ。俺にも送って」
「!?」
隣で話しかけられ、振り向けば昨日誓くんと一緒にいた長髪の男の……って、改めてみると綺麗で色っぽいお兄さんだ。
「イザナくん! なんでここに?」
「お前見かけて近寄ったらまた争っているのかなーっと思ってさ」
「あはは~もうイザナくんは過保護だな。俺、一人で解決できるのにさ」
「……」
誓くんは楽しそうに話ながら、連絡先をいれられる。私の携帯に瀬野誓が登録され、うんざりする。
「違う違う。俺も混ぜて貰おうかと思って」
「本当に面白いこと好きだねイザナくんは」
「何事も人生は刺激だろ? ……ところで、甘泉陽菜ちゃん」
「!?」
携帯の瀬野誓の名前を見ていたら、話しかけられ振り向くと赤い瞳とあう。
(何でこの人私の名前知って……)
「俺の名前はなぎゆうっていうんだけど、わかんない?」
「え?」
昔の知り合いだと言いたいのだろうか。そういえばどこかで顔に見覚えが……。
「え、イザナくん。居候する家って陽菜ちゃんの家だったの?」
「そうだと思うんだけど」
「……居候? ………あ!」
そう言われて、数か月前に軽いノリで「お前が俺ら海外に居る時に家で一人だと寂しいだろうと思って二人住ませることにしたからなー」と笑いながら言っていたのを思い出す。
その時は、寂しい時は幼馴染み二人と一緒にいるから大丈夫だと言ったが流されていたのか。
(昨日のメッセージアプリで例の日ってこのことだったのかな……いや、それにしても)
「……」
「なんだ」
外見は綺麗で色っぽさがありドキドキするが、昨日私がしたことを笑っていたし、なんだかいいイメージがない。
「パパに言って断って……」
「……なぁ、陽菜……いや、イケニエちゃん?」
「!?」
がっしっと誓くんから距離を取られ、肩に腕を回され身近に凪さんの顔が。
「俺、家に戻りたくないんだ」
「え?」
「だから……居候許してくれたら……それなりに相手してやっても……いいぜ?」
「!!」
耳元で囁かれ、赤くなって凪さんから距離を取る。
(相手って……!? いやいや……)
考えるなっと頭でわかっているが、凪さんの色っぽく笑う姿に流されそうになるのはなんだろう。
「わ、わかりました! わかりましたからもうそういうのやめてくださいね!」
「え? イケニエちゃん反応良かったから体の……」
「イザナくん、俺の彼女さんなんだから……手を出さないでね」
「あ、そうだっけ。……じゃあ、誓に飽きて俺に相手して貰いたくなったら言えよ? 同じ家だからいつでも相手してやるからよ」
「~~っ! 頼みません!!」
私は、そう言うと二人に笑われた。類は友を呼ぶって本当だ。性格が軽くて悪い!

「ここが家で……」
「誘に……君が陽菜ちゃん?」
「ひゃ!!」
オートロックを開けようとした時後ろから話しかけられ、振り返るとボサボサ髪の怪しそうな人がいた。え、もしかして不審者? それともストーカーだろうか。
警戒しながら、彼から距離を取っていると、凪さんが呆れた顔をした。知り合いなのか。
浅葱あさぎ、先に行ったならそう言えよ」
「言っても別に誘は興味ないから忘れるだろ」
「まぁな」
(知り合いらしい……浅葱?)
「あ! 紹介遅れたな~俺の名前は日下くさか浅葱。今日からここで居候する二人の一人で姫とは腐れ縁的なもので……」
「……姫?」
「誘のこと!」
「あぁ……」
確かに凪さん、綺麗で姫と言われても違和感ないかもしれない。
「日下さんですね。なんで家に……」
「浅葱って呼んでほしいな」
「……浅葱さん、家になんで」
「あ、イケニエちゃん。俺の事はイザナって呼べよ」
「……」
同じ家に住むし、親しみこめてあだ名で呼べという事だと思う事にし、私は話を進める事にした。
「で、浅葱さんはどうして家に……」
「それが、インターホン押しても反応なくてさー。そしたら携帯にメッセージきてて」
「え?」
私は携帯を取り出し確認する。すると、確かにメッセージが入ってて内容は……
「え、えーー!?」
(そんなことあっていいんですか?)
「何々……海外の仕事がいきなり入ったから飛ぶことになったから陽菜、二人の面倒頼んだ……って、凄い親だな」
両親は海外で活動し忙しく家に居るのは少ない。だから寂しくないように二人を呼んだんだろうし。でもでも、だからって見知らぬ男二人と娘を置いていくか普通! 一応私も女だぞ!? 先程なんて、迫られ誘われたぞ!?
そう考えるとバッと距離を取る。イザナくんは面倒そうに携帯を見るとため息吐く。
「安心しろ。さっきも言ったけどアンタが誘わない限り手を出さねぇよ」
「誘いません!」
「じゃあ、大丈夫じゃねぇの? 部屋には鍵もかかっているし、なんなら隣に幼馴染みくんいるし、悲鳴上げればすぐ飛んでくるんじゃねぇか」
「……」
そうは言うが、先程イザナくんは迫ってきた人だ。油断できない。
「まぁ、そうやって警戒していた方がいいからいいんじゃね?」
「……」
「そういうタイプの子が誘ってくるのってすっごいいい」
「なっ!」
やはり、危険だ……父に言って断って貰おうかと携帯を操作し始めると。
「甘泉陽菜ちゃんんち駄目って言われたら……俺、帰る場所ないんだけど」
「知りません! 誰かに拾われて……!?」
携帯を奪われ、イザナくんを見上げると彼は寂しそうな顔をしていて。その顔を見ると……なんだか。
「……っ~すぐ出て行ってもいいですからね!」
「さんきゅう、イケニエちゃん」
追い出しにくくて、そう言ってしまった。私達の様子を見ていた浅葱さんはにこにこ笑いながら言う。
「まぁ、誘は大体は無理矢理しないし、俺もいるから安心して」
(不審者みたいな姿している人に言われてもなぁ……)
私は大きくため息を吐きながら、オートロックを外し家にいれた。

こうして、私は瀬野誓の彼女となりゲームを進めないといけないのに、危なそうな男と同居が始まったのだった。

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