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一度目

02 傾向と対策〜先輩の助言〜

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「『ご子息様が受かったら、採用をしぼるんだろうよ』と陰口を叩いていた輩が、ピタリと黙ったね。
 閣下は今まで不思議なくらい人事に関わっておられなかったから、それについて色々と勘繰る方も多かったけれど、まあ、予想外だったね。
 息子の有利に働くように動く方は、沢山見てきたけれどねえ」

 どうやら、閣下は本気で君が官吏になるのを阻止するおつもりのようだと笑うその人を前に、僕は唖然としたままだ。

「さて、それを踏まえて、君は来年も受けるかね?」

 目を覗き込まれて驚くが、僕は考えるより先に答えていた。

「受けます」
「そうかね」

 僕の答えを聞いて、彼は仕方ないなあという顔をした。

「もし、また、どうしても推薦がもらえなかったら、私のところにおいでなさい」

 この方は今年限りで退官では? 僕が不思議に思って見ると、彼はニヤリと笑って言った。

「不合格を増やすなら、定年退官する者から一年更新で再任する移行措置がとられることになっていたんだ。どうやら、私にもお声がかかりそうだよ。もう一年、官吏として籍を置くことになるだろう。多分だけれど、登用状況によっては、さらに働けそうなんだ」

 今度こそ顔をあげた僕に、彼がにっこり笑う。

「まあ、でも、来年は君にはもっと厳しくなるんじゃないかな?」

 僕はまた青ざめた。そうだ、次だって「妨害」はあるだろう。

「そうだ、試験を突破した一先輩として助言をしよう」

 青ざめたままの僕に、彼が楽しげに言う。

「君は敢えて相談を避けた方々がいるだろう? 自分は恵まれていて、きっと、それを使うのは他の者たちに不公平だと考えて、あるいは、恵まれた境遇ではなく、君自身を見てほしいと考えて」

 僕はぎくりとする。その通りだったから。

 父さんのお陰で、あるいは陛下やカイルさんと親しいから受かったのだろうと言われるのは、絶対嫌だった。

「けれど、そんな遠慮や矜持は、北の宮じゃ全く役に立たない。

 宮はね、そりゃ、入ってしまえば私のようにのんびり暮らせも出来るけど、君の望みはそうじゃないと思う。

 そうならば、君は恵まれているそれを最大限生かすべきだ。
 みんな持てるもの全てを武器にして試験に臨むんだ。そうしなければ、すぐに振り落とされてしまうからね。

 そうでなくても、君は官吏になるにあたって宰相閣下を相手どっているのだから、もっと貪欲に計算高く、なりふり構わず動く必要があると思うよ?」

 僕は恥ずかしくて仕方がなかった。
 そうだ、みんな必死なのだ。それなのに、僕は自分の力だけで合格できると思っていた。

 じゃあ、頑張って。また次回に。そう言って「先輩」は去っていった。

 しばらく呆然としていた僕だったが、それから身元保証人を引き受けてくれたカイルさんに結果を報告に行った。

 僕は「先輩」の助言に従うことにした。
 つまり、僕は、なりふり構わず皇帝侍従に相談をしたのである。

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