【番外短編集】元皇女が出戻りしたら、僕が婚約者候補になるそうです

すみよし

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印 《ネタバレ有り》※第四章14話「弟子ですので」まで読了推奨

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本編第四章15話として一時公開していたものですが、時系列も視点も行ったり来たりなのでカットしました。

※ネタバレ有り。
※第四章14話「弟子ですので」まで読了推奨。

─ ─ ─ ─

 翌朝。この日は晩餐までの間、各国の使者たちは帰国に向けての準備や休養の予定となっている。

 帝国の使節団も、帰国に向けて大忙しだ。帰国の準備と並行して、王国の様子をできるだけ探らねばならない。

 ザイは表向き休養を取るということにして、密かに王都に出ることにした。

 王妃のいる城から離れ、頭を冷やしたかったのもある。



 ザイと護衛たちは何組かに分かれ、王都に散る。

 三年ぶりの王都だったが、ザイは自分の記憶とお使いたちからの情報を元に、勝手知ったる風に動き回る。

 自分よりも少し背が高くガッチリした体格の護衛を一人連れて、自身は頭衣で顔を隠せば、ザイは帝国から来たお金持のお坊ちゃん(用心棒付き)に見える。堂々としていれば市中の者には意外にバレない。

 それでもザイに気付くような者は、逆に警戒して接触はしてこない。

 見張られてはいるが、それは織り込み済みだ。

 ※

 王国の市は、以前にないほど明るく活気のある様子だ。戦が終わり、復興からさらに発展したのだろう。一本裏手に入ると怪しげな店が並ぶ。そちらも以前とは様子が変わっている。

 裏手の店も、表の店と同じようにいろいろな物が雑多に並べられているが、問題は、裏手の店に王家の紋章入りの剣を見かけることだ。

 いくつか手に取ってみると、偽物と本物、半々くらいだった。紋章入りの剣は王家に捧げることを条件に王家より下された剣。騎士をやめるなら、王家に返上せねばならない。

 それがこれほど市中に出回っているということは、廃業する騎士らが流したか、ないとは思うが最悪、王家から流れたか、だ。

 ザイは試しにいくつか買い求めることにした。一振りは本物、残り二振りは偽物を。

 「偽物をつかまされる素人」を装ったザイだったが、店主との値段交渉はあっけなく、複数求めたのを加味しても、二束三文と言って良い値だった。

「オヤジさん、これ、こんなに安くしてもらってもいいの?」

 無邪気に目を輝かせる異国のお坊ちゃんに、裏店の店主は目を細める。

「いいさいいさ、気の良いにーちゃんにはおまけさ。
 にーちゃんみたいな旅の人ならすぐ王国出るんだろ? なら持ってけ持ってけ。
 だけど、王国内でそれ持ってるの見つかったら、おててが後ろに回るからな? この国にいる間は気を付けな」

「そうなんだ、気をつけるよ。ありがとう、!」

 ザイに付いている用心棒役の護衛が「うわぁ……」と言う顔をしたのをザイは黙殺した。

 ※

「元の持ち主を辿りますか?」

 護衛が聞くのに、ザイはうーん、と唸りながら答える。

「将軍に調べて貰えば難なく見つかると思うけど、もう、国内にはいないよね、きっと」

 第三王子が亡くなってから、王国の騎士達の立場は、いよいよ厳しいものになったらしい。
 
 王国を戦の前線基地から貿易の拠点に変えるのは、帝国の施策の一つ。

 王家の剣を売り飛ばした不忠者を捕らえて晒しあげれば、王国軍の士気はさらに下がる。だから、この状況は帝国に属するザイとしては喜ぶべきものなのだろう。

 だけど、とザイは思う。

 ザイが今日手に入れた剣は、かつて戦場で命をかけてザイと共に戦った者の手にあった剣かもしれない。それがこんな寂しい路地裏に手入れもされずに並べられているなんて。

 ザイはもう一度、裏の市を見回す。

 無造作に並べられた剣が、戦場で見た仮葬の簡素な墓標群と重なる。

 髪の毛が焼ける臭い、何かが腐った臭い。身にまとわりつく消えない死臭をザイは思い出す。

 ──剣を手放した者たちは、二度とあんなところに行くことはないのだから。

 だから、ここにある剣のいくつかは、彼らの命が散らなかったことを示す、印なのだ。

 墓標なんかじゃない、戦場とは違う戦いを始めただろう人たちの、決意の印。

 やがて、それも平和な日常へと溶けていくだろう。



「これだけ出回っているんだもの、もしかしたら、黙認だって考えられる」

 晩餐で「生きてこそ」とザイとの再会を喜んでくれた将軍の顔を思い出しながら、ザイは言う。

「ああ、なるほど……、あの将軍は戦死した麾下の兵の家族の面倒をよくみていると聞きます。あり得ますね」
「でしょう? それをこの慶事にほじくり返すのは」
「確かに」

 あの将軍のことだ、処罰を覚悟の上で剣を捨てた者達を庇いきるだろう。

 だが、もし、王国の剣を売り捨てた者たちが他国へと奔ったのなら、敵として見えたなら。

 かつて戦場で自分の身を挺して守った者だったかも知れないその者たちの命を、ザイは今度は迷わず奪うだろう。

「……おててが後ろに回らないうちに引き上げようか」
「はい」

 ザイと護衛は、やるせない思いを振り捨てて裏通りを後にした。

《終わり》
※────
・第三王子の死
→第三章10話「訃報」

・晩餐で「生きてこそ」とザイとの再会を喜んでくれた将軍
→第四章07話「使者のお仕事」
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