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暇にすると何故か物騒な人たち 《ネタバレ有り》※第四章03話「お留守番決定」まで読了推奨
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※ネタバレ有り《本編第四章03話「お留守番決定」まで読了推奨》
※リヒトと東のクマが(他の短編書いた後の筆者の中で)飽和状態なので、本編ではカットしました。時間的には第三章28話「宰相夫人のおもてなし」の後の話。
─ ─ ─ ─
帝国は宰相邸客間での宰相と第四王子のやりとりを聞いて以降、宰相夫人は、「もうこんなつまらないことはやめて、いっそ、王宮ごと第四王子を消し飛ばせないかしら」と考えていた。
短絡的? ええ、それで結構。
王妃を取り戻し、帝国の庇護を無くせば王国など夫人が吹き飛ばさずとも、あっけなく滅ぶだろう。
第二王子に対する準備もしていながら同盟を保つ努力もする夫は、この先、万一帝国が弱体化した時の行末まで考えているのだろうが、夫人からすれば、まどろっこしいことこの上ない。
そこまで考えて、夫人は思う。
第四王子など抹殺せずとも、王国で何がどう転ぼうとも、帝国に大事はない。
夫の言う通り、第四王子は帝国に留めおけば十分使い道がある。
にもかかわらずこんなことを考えてしまうのは、つまりは、そこまで考えてしまうほど自分は暇なのだ。
もちろん、宰相夫人としての細々とした仕事はいくらでも沸いて出る。
だが、それも長年専念したおかげで、夫人が指示を出せば、後は秘書官や使用人たちの皆がやってくれる形が出来てしまった。
だからこそ、宰相邸のこれだけの結界を夫人一人で維持出来ているのである。
もちろん、それに慢心してはいけないのは北の宮から消えた(消した)面々を思い起こせば分かること。
しかし、かつて宮で一番の女官と言われた夫人とて人間である。飽きてしまっては仕方がない。そのまま漫然と過ごせば、それこそ大事を見逃すだろう。
──暇も大事であるな。
昔、そう言ったのは先の西の宮であったが、と夫人は思い出す。
そう、そんなふうに暇にしていたところ、夫を見つけ暇に任せて精霊と契約をしてしまったのだ。
自分は暇にしていると、きっと、ろくなことを考えない。
さて。どうしようかしら。
皇妃への文を書きかけてはやめ、書きかけては思いにふけっていた夫人は、自分よりは多忙で、しかし、今は手持ち無沙汰であろう人物に声をかけてみる。
「リヒトさん、やっぱり、たまには私とも遊んでくださいまし」
「何かものすごくいろんな意味で間違ってて間違われそうなこと言わないでくださいよ」
空中から声が降ってくる。カプリと利き腕を飲み込まれて観念したリヒトが、シロに連れてこられたのである。
野郎が生きててこれ聞いてたら俺死んでた。そうげっそりして言うリヒトに構わず夫人は言う。
「私、どうやら暇のようですの」
「ああ、そりゃあいけませんね」
自由になった手足の調子を確認しながら、リヒトは、じゃあ、と提案する。
「肝試し、なんて如何です?」
リヒトの話に、夫人は小首を傾げていう。
「肝試し?」
「いやもう、試すなんて、もう今更って言おうか、試されるのはどっちなんだって言おうか何なんだって話なんですけど。
いやあね、夜な夜な魔物が出るだの幽霊だの? って話がありましてね。
宜しければご案内いたしますよ? ……南の方なんですけれど」
南の、と夫人は呟く。
思案する夫人の視線が彷徨う。
かつて栄えた南の宮の、その最後の生き残りが何を思うのか。
あんまり分かりたくないなーと思いながらリヒトは夫人を伺う。
「ま、うちの主人も暇で暇で仕方ないみたいなんで、ご一緒にどうですかって思いまして」
夫人が呆気に取られたのは一瞬。すぐに柔らかな笑みが広がる。
「先代様がご一緒なら、心強いことです」
一見しおらしい夫人の言に、ほんっと暇はいけませんねえ、とリヒトはボヤく。
そして、何かを諦める目をして言う。
「……わっかりましたー。必ず宰相と陛下のご承諾を得てくださいね? それが条件ですよ?」
「はい、必ず」
この日、珍しく、リヒトは宰相邸の正門から出ることができた。
《終わり》
※────
・宰相邸客間での宰相と第四王子のやりとり
→本編第二章26話27話「向き合う」
・──暇も大事であるな。
→宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─ 09話「西の宮の判断基準」
※リヒトと東のクマが(他の短編書いた後の筆者の中で)飽和状態なので、本編ではカットしました。時間的には第三章28話「宰相夫人のおもてなし」の後の話。
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帝国は宰相邸客間での宰相と第四王子のやりとりを聞いて以降、宰相夫人は、「もうこんなつまらないことはやめて、いっそ、王宮ごと第四王子を消し飛ばせないかしら」と考えていた。
短絡的? ええ、それで結構。
王妃を取り戻し、帝国の庇護を無くせば王国など夫人が吹き飛ばさずとも、あっけなく滅ぶだろう。
第二王子に対する準備もしていながら同盟を保つ努力もする夫は、この先、万一帝国が弱体化した時の行末まで考えているのだろうが、夫人からすれば、まどろっこしいことこの上ない。
そこまで考えて、夫人は思う。
第四王子など抹殺せずとも、王国で何がどう転ぼうとも、帝国に大事はない。
夫の言う通り、第四王子は帝国に留めおけば十分使い道がある。
にもかかわらずこんなことを考えてしまうのは、つまりは、そこまで考えてしまうほど自分は暇なのだ。
もちろん、宰相夫人としての細々とした仕事はいくらでも沸いて出る。
だが、それも長年専念したおかげで、夫人が指示を出せば、後は秘書官や使用人たちの皆がやってくれる形が出来てしまった。
だからこそ、宰相邸のこれだけの結界を夫人一人で維持出来ているのである。
もちろん、それに慢心してはいけないのは北の宮から消えた(消した)面々を思い起こせば分かること。
しかし、かつて宮で一番の女官と言われた夫人とて人間である。飽きてしまっては仕方がない。そのまま漫然と過ごせば、それこそ大事を見逃すだろう。
──暇も大事であるな。
昔、そう言ったのは先の西の宮であったが、と夫人は思い出す。
そう、そんなふうに暇にしていたところ、夫を見つけ暇に任せて精霊と契約をしてしまったのだ。
自分は暇にしていると、きっと、ろくなことを考えない。
さて。どうしようかしら。
皇妃への文を書きかけてはやめ、書きかけては思いにふけっていた夫人は、自分よりは多忙で、しかし、今は手持ち無沙汰であろう人物に声をかけてみる。
「リヒトさん、やっぱり、たまには私とも遊んでくださいまし」
「何かものすごくいろんな意味で間違ってて間違われそうなこと言わないでくださいよ」
空中から声が降ってくる。カプリと利き腕を飲み込まれて観念したリヒトが、シロに連れてこられたのである。
野郎が生きててこれ聞いてたら俺死んでた。そうげっそりして言うリヒトに構わず夫人は言う。
「私、どうやら暇のようですの」
「ああ、そりゃあいけませんね」
自由になった手足の調子を確認しながら、リヒトは、じゃあ、と提案する。
「肝試し、なんて如何です?」
リヒトの話に、夫人は小首を傾げていう。
「肝試し?」
「いやもう、試すなんて、もう今更って言おうか、試されるのはどっちなんだって言おうか何なんだって話なんですけど。
いやあね、夜な夜な魔物が出るだの幽霊だの? って話がありましてね。
宜しければご案内いたしますよ? ……南の方なんですけれど」
南の、と夫人は呟く。
思案する夫人の視線が彷徨う。
かつて栄えた南の宮の、その最後の生き残りが何を思うのか。
あんまり分かりたくないなーと思いながらリヒトは夫人を伺う。
「ま、うちの主人も暇で暇で仕方ないみたいなんで、ご一緒にどうですかって思いまして」
夫人が呆気に取られたのは一瞬。すぐに柔らかな笑みが広がる。
「先代様がご一緒なら、心強いことです」
一見しおらしい夫人の言に、ほんっと暇はいけませんねえ、とリヒトはボヤく。
そして、何かを諦める目をして言う。
「……わっかりましたー。必ず宰相と陛下のご承諾を得てくださいね? それが条件ですよ?」
「はい、必ず」
この日、珍しく、リヒトは宰相邸の正門から出ることができた。
《終わり》
※────
・宰相邸客間での宰相と第四王子のやりとり
→本編第二章26話27話「向き合う」
・──暇も大事であるな。
→宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─ 09話「西の宮の判断基準」
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