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正直に嘘をつく

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※ ザイがイチャイチャする話。第三章でザイが山を降りた後あたりの話。

─ ─ ─ ─ ─ ─

 髪を触られるのはあまり好きではない、と思い出したのは今のことで、すでにザイの指は女の髪に絡まってしまっている。

 気まずげにすうっと髪から指を抜くザイに、女は敷布の下で笑い転げた。

「そのままにしておけば分からないのに」

 指摘されて面白くないザイは、誰と間違えたの、と開けっぴろげに笑う女を捕まえて深く口付ける。女が嬉しそうに応えてくれるのに、ザイは安心して貪る。

 女の髪が一筋口に含まれたのをそのままに、抱きしめて深く深く。全身で互いのあたたかさを味わった二人は、どちらともなく離れる。

 ザイの頬に手を当てて女が言う。

「お別れかあ」

「何で?」

 ザイが聞くと女が言う。

「長いこと空けて、こんな急にくるのだからそうだと思うでしょう?」

「そういうもの?」

「そういうものよ。それにあなた、結婚の噂が出てる」

「噂?」

「この辺りに文官長様の使いが来たの。私のところではなかったけれど。 
 まさかと思うけれどこんな近くに別の通い先?」

「まさか」

「よねえ」

 ふふふと笑って女がザイを見る。

「彼の方は正々堂々とお使いを出されるから。隣町も回ったらしいわ。……潮時かもよ?」

「かもね」

 ザイはあっさり認める。

 隠し事はいつかバレる。とは言ってもバレたところでさして困る関係でもない。

 しかし正式に結婚する気がない相手とのこういった関係を知られてしまうことは、今のザイにとっては弱みとなる。

 先帝侍従のカイルは公然と愛人を抱えていたが、あれは例外である。

「残念」

 ザイが言うのに、女が嘘つきね、と言う。 

「嘘じゃないよ」

「本当に? 私は不便だけど」

「不便、かあ」

 なるほどと納得してしまうザイに、女が再び笑う。

「黙ってたら分からないのにあなたは本当に正直ね」

「君の前だけはね」

「歯が浮きそうな上に、あはは本当に嘘つきなんだから」

「正直なのに?」

「そうよ正直で嘘つきなのよ」

 ほらこの顔。そう言って女がまたザイの頬を手のひらで包む。

「君もね」

「そうね」

 女が口付けをねだってザイの唇を親指でなぞるのに、ザイは気付かないふりをして女の指を柔らかく食む。

 焦れた女の方がザイの首に抱きつく。
 ザイの耳元で女が何か囁こうとして、それより早くザイが女の首筋を吸うのに、甘いため息を零す。

 笑いあってまた口付けを交わす。

 そうしていれば普通の恋人同士に見えるこの関係も今夜で終わり。

 二人は最後まで誠実に嘘の睦言を繰り返した。

《終わり》
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