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第四章 王国へ

15 白

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 一説に、どの色にも染まる白は、盟約の証として嫁ぐ帝国の神子にふさわしい色だという。

 しかし、今宵ここにあるこの白だけは、どんな色をもってしても染められまい。王宮の晩餐にある目に眩い白、天上の女神が降り立ったかと見紛う輝きは、王妃ただひとりのもの。

 老いた国王に優しく寄り添う帝国の神子を皆が仰ぎ見る。

 ザイも例外でない。しかし、それはやはり、他の者たちとは違っていた。隣でザイの様子をニコニコと伺う帝国大使が居たから尚更だ。ザイが密かに漏らしたため息は、人目がなければ、酷く重く長いものになっていただろう。

「君たちは本当に成長したねえ」

 小声で、しかし感慨深げに大使は言う。

 昨夜のことはこの大使も承知のことだったのではないかと思うと、ザイは何とも……何と返していいものやらである。

「あのお小さかった姫が立派にお務めを果たしておられる。君は言うまでもなくね。ああ、年は取ってみるものだねえ」

 ザイに話かけているというより独り言に近いそれに、ザイは静かに礼を返す。

 昨夜のことは、結局はザイが悪い冗談ということにして片付けてしまったが、あのまま朝まで王妃と二人だけで過ごしていたらどうなっただろうか?

 多分何も変わらない。全ては何もなかったことになり、筆頭の独り言がまた一つ増えるだけ。

 何の問題もないのだ。そういうものだから。

 だからこそ、どこぞの困った主人の言うように据え膳云々の話になるのだろう。

 だが、ザイは、どうしても王妃に触れる気にはなれなかった。

 ザイが気になったのは、王妃はどこまで本気だったかということだ。

 いや、王妃のことだから本気だったのだろう。しかし、昨夜の王妃は戸惑ったような、もっと言えば途方に暮れたような、そんな様子にザイには見えた。

 ザイが大使を呼ぶ提案をした時、王妃にほっとした様子が見て取れた。王妃らしくなかった。

 だから、あれで良かったのだろう。

 また、筆頭から独り言を以上、侍従としては、王妃と自分について出来るだけ多くの選択肢を残しておくべきだろう。

 神子の心が帝国から離れるようなことはあってはならない。

 だから王妃を完全には拒絶しなかったザイの対処は正しいものだ。


 ……と、思う反面、良くないと思うザイもいる。

 ──何が対処だ。王妃さまが帝国を裏切るわけなんかないのに。

 ザイは改めて思う。神子とは、なんて過酷なお立場なんだろう。帝国のために身を捧げて、神子自身はどう報われるのか?

 それに、あれは王妃の、いや、「姫」の本気の告白だ。斉の神子である王妃が思うことは、世俗に塗れたザイの思うこととはどうしてもかけ離れているだろう。それでも。

 その「姫」の本気に対して自分はどうだった?

 そんなことは考える必要もなければ考えるべきではないと思いつつ、どうにもそのままには出来ないと思う。

 その上、先ほどから嫌な視線がザイに絡みついている。

 第二王子だ。

 今までとは違う様子は、恋は拗らせると厄介だと言う大使の言葉通りなら、面倒なことになりそうだ。

 どれもこれも、この腹の収まりの悪さは何だ。

 旨いもまずいも飲み下す侍従とやらに、ザイはまだまだ遠い。

 和やかに続く晩餐会を楽しみながら、一方でザイはこの場を戦みたいに魔法で吹っ飛ばせたらいいのになどと馬鹿なことも考えていた。

 ※

 その頃、帝国の南では、二人の武闘派が思う存分破壊のかぎりを尽くしていた。
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