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第四章 王国へ

09 ご紹介に預かりまして

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 現れたのは大きな竜で、陽とも炎ともいえるその美しい有り様は、ザイを圧倒した。

 そして、熱い。

 情熱的、という意味ではなく、竜王様と同じ部屋に居るだけで、自分が暖炉のすぐ側にいるかのように熱い。

 ザイが顎の下、わずかに汗を拭う仕草をすると、王妃は「あら、いけない」と言って何か唱える。

 すると、竜王様の発する熱が弱まった。王妃が結界をもう一つ張ったらしい。

「周りが燃えたりはしないのですが、こうしないとわたくし以外は火傷しかねません」

 ──竜型暖炉?

 ザイは危うく口に出しそうになるが耐えた。そして考える。

 ──碧はちょっと冷たいんだよね。雨降らさなくなったけど。シロたちは属性違うのにみんなほんわりあったかいし……。精霊も色々みたいだ。

 ザイが改めて見ると、大きな竜が上体を曲げて王妃に頬擦りしている。それを見てザイは思う。

 ──イキモノ飼えてよかったですね、姫……じゃなくて王妃様。

 国王が震えているように見えるのを気にしないように気にしないように、出来るだけどうでもいいことを考えながら、ザイは平静を保った。

 ※

 なんだか得意げな様子で王妃がザイを見るのに、ザイは何か申し上げるべきだろうかと思うが、さて、ご下問もないのに勝手に口を開くのもなあ、と迷う。

 だから、ザイは代わりにじっくりと竜王様を見てみる。

 まず、何より目立つのは大きく鋭い爪、硬そうな鱗に覆われた体、大きな翼。全身が金とも朱とも見え──なるほど暁の名に相応しい。そして輝く大きな金の瞳。昔、母に聞いた通りだ。

 その瞳がザイを見下ろす。

「ん? そなた……」

 そうして、ズイ、と身を乗り出してくる。

 ザイは侍従の礼をとる。

「恐れながら、御身は北の魔山の竜王様とお見受けいたします。私はザイと申します。帝国は今上ガレス皇帝の侍従にございます」

「ほお、侍従か! 侍従も色々だな! それにしてもなるほどな……。奴はすぐ拗ねるから経緯は聞かぬが……」

 いきなりぺたりと竜王様が床に顎をつける。そうしてザイを真正面から見る。

 ザイは礼を取ったまま、竜王様意外と体柔らかい、などと、どうでもいいことを考えていた。そうでないと、真っ青なお顔の国王様が気になって仕方がないからだ。

 おそらく、国王様は他国の、よりによって帝国の使者に怯えた姿など見せたくはないだろう。王妃付きの女官が平然としているだけに。

「なるほどな! 姫よ、我はこのザイを気に入ったぞ!」

 何がなるほどかザイには分からないが、竜王様は納得していらっしゃる。ザイと碧との契約もどうやら知れたらしい。

 ──それにしても、「姫」か。

 竜王様にとって、王国の王妃は未だ帝国の姫であるらしい。先ほどからこの場で一番偉い国王様を全く気にもかけない、いや、どうやら無視を決め込んでいるらしい竜王様に、ザイは冷や汗をかいていてる。

 ちらりと王妃付きの女官を見やれば、彼女はザイに素敵な微笑みを返してくれた。

 王から見えない角度から向けられたそれには、明らかに「ザマーミロ」と書いてある。

 なんの呪文だか僕にはワカリマセン、とザイは微笑み返しておいた。

 ──うん、先の陛下に認められて海渡って、他所の国の宮廷でこの王妃様を支えてきた女官だもの、そりゃお強くていらっしゃいますよね! そして国王様にかなり不満をお持ちのようですね!

 残念ながらこの場で話を進めなければならないのはザイらしい。

 仕方なくザイは口を開く。

「いつ契約を?」

 くたくたになったザイが聞くのに、王妃はころころと笑いながら答える。

「嫁ぐそれこそ五日前くらいでしょうか。カイル様に連れられて山を登りましたの」

「では、もしや、王国に現れる竜は」
「ええ、暁のお友達ですわ」

 お友達。とザイは繰り返し、国王を伺う。

 ようやく落ち着いたらしい国王は、やや引きつった顔で、ただ「申し訳ありません」と言った。

※────
・イキモノ飼えてよかったですね、姫
・王国に現れる竜
→第一章08話「括弧付きの二つ名」
→第一章11話「護衛一日目 考えないように考えて疲れた後に呑み会」

 
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