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第三章
25 精霊にまつわる雑談
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仕方がない、と先代が言う。
「使者を命ぜられたのなら仕方がないな。さっさと精霊の力を確かめておくか」
「や、それ目的で戦ってたんじゃないんですか先代」
リヒトが遠慮なく言うのに、先代は宮のお使いの前で堂々と言う。
「まあ、今までのは慣らしだ」
要は遊んでましたと告げたも同然の先代の発言に、お使いは困ったようにザイを見る。
──あ、これ僕帰ったら筆頭サマに怒られるやつ。
ザイは宮に戻るお使いに「直接ご説明申し上げます」と言付けた。
※
お使いが宮に向けて出発すると、リヒトはまた布を敷いて食糧を並べた。それを三人で好き勝手に食べる。人心地着いて先代が言う。
「しかし、見えん精霊だな」
「時々、なーんか気配は感じるんですけどねえ」
先代が言うのに、リヒトも首をひねる。
「精霊との契約、黙っててもやっぱりリヒトさんなら分かってしまいますか?」
優秀な諜者であるリヒトに、ザイが聞く。
「いやー、精霊と契約したって話を聞いてるから何か気配があるなあって思うくらいで。聞いてなきゃ俺は気付いてなかった思います」
先代はいかがで? とリヒトが聞くのに、先代も言う。
「俺もそうだな。魔法を遮られて初めて、精霊の加護を疑うくらいだ」
「ですよねー。そもそも精霊と遭遇するなんて、まず無いですから」
だから多くの者は想像すらしないでしょう、と言うリヒトに先代が言う。
「でも、お前はシロたちによく構われているだろう?」
リヒトはザイの母の結界に挑戦するため、たまに宰相邸に忍び込もうとする。
宰相夫人は初め怒っていたが、そのうち結界の穴を見つけるのに良いと、リヒトの挑戦をあえて受けるようになった。
ザイがリヒトに初めて対面したのも、宰相邸にてリヒトがシロたちに咥えられて引きずられていた時だった。
「いや、構われてるって、遊んでんじゃないですよ? あれ追われてるんですよ? 捕まったら容赦なく回廊行きなんですから!」
宰相邸の地下には無限回廊がある。その中に、夫人は邸に来た刺客を捕らえて放り込んでいる。ザイが武名をあげて以降、刺客が増え、あまりの数に面倒になった夫人は、侵入すればすぐ回廊送りになるよう、結界を張り直したらしい。
リヒトは回廊への直通路を回避できる術を見つけている。しかし、他の結界やシロたちに捕らえられて、結局は回廊送りにされているらしい。
「俺の場合、余所んとこの殺し屋さん五人無力化しないと出してもらえないんですよ?」
「そうだったんですか。お世話になってます……」
宰相邸の「お片付け」に、リヒトが一役買わされているらしい。ザイは何となくリヒトに礼を申し述べてしまう。
もっとも、そもそも忍び込むなという話なのだが。
「シロたちに追い込ませておいて、後は侵入者同士潰し合わせるのか。エグいな」
東の先代がげっそり言うのに、リヒトがケラケラ笑って言う。
「合理的っちゃ合理的ですね。俺は宰相夫人に命だけは保証されてるので、いい訓練になってます」
──命だけ、か。
ふと目を見合わせてしまった先代とザイだった。
※
一度精霊の姿をちゃんと見てみたい、と言う東の二人にザイは精霊に呼びかけてみることにする。
「碧、出ておいで。ここは広いから大丈夫だよ」
すると
「うおっ」
リヒトと先代が思わず飛び退く。三人の目の前にそれは大きな蛟が降ってきた。
縹が言った通り、契約を結んだ後だからか、大雨が降ることも嵐が起きることもなかった。ただふわりと、半透明な蛟が降りてきた。輝いて見えるのは日を透かしているからか、ザイたちが魔力を持っているからそう見えるのか、どちらとも言えそうだ。
たいそうな図体だが、するりと動く様は全く重さを感じさせない。見上げる高さでトグロを巻いて鎮座した大きな蛟に、先代とリヒトは呆気にとられている。
「でかいっすね」
「デカすぎてわからん」
すると蛟が消えた。
「え、何? どこ?」
リヒトが慌てて姿を探すのに、ザイがいう。
「どうも大きいと言われるのを気にしてるみたいで」
「ええぇ?」
大丈夫なんですかそれは、と呆れるリヒトの横で、言わずには居られなかったというふうに先代が言う。
「名前……」
聞かずとも名前の由来に想像がつく。深い川の水の色のようだから「碧」。
「安易な」
「親子ですね」
「ちょっと余裕なかったもので」
ははは、と笑うどこか長閑な侍従。そして力は強いのに気が弱いらしい精霊。
──大丈夫か? この取り合わせ。
姿は見えなくても濃く漂う水の気配の中、先代とリヒトは少しだけ心配になるのだった。
※────
・シロたちについて
→第二章22話「聞くと面倒な気がしたので皇帝は色々触れないようにしている」
・シロたちの仕事(おだやかなやつ)
→ 第二章07~08話「それを恋などとは言わせない(ただしこれは犬と呼べ)」
「使者を命ぜられたのなら仕方がないな。さっさと精霊の力を確かめておくか」
「や、それ目的で戦ってたんじゃないんですか先代」
リヒトが遠慮なく言うのに、先代は宮のお使いの前で堂々と言う。
「まあ、今までのは慣らしだ」
要は遊んでましたと告げたも同然の先代の発言に、お使いは困ったようにザイを見る。
──あ、これ僕帰ったら筆頭サマに怒られるやつ。
ザイは宮に戻るお使いに「直接ご説明申し上げます」と言付けた。
※
お使いが宮に向けて出発すると、リヒトはまた布を敷いて食糧を並べた。それを三人で好き勝手に食べる。人心地着いて先代が言う。
「しかし、見えん精霊だな」
「時々、なーんか気配は感じるんですけどねえ」
先代が言うのに、リヒトも首をひねる。
「精霊との契約、黙っててもやっぱりリヒトさんなら分かってしまいますか?」
優秀な諜者であるリヒトに、ザイが聞く。
「いやー、精霊と契約したって話を聞いてるから何か気配があるなあって思うくらいで。聞いてなきゃ俺は気付いてなかった思います」
先代はいかがで? とリヒトが聞くのに、先代も言う。
「俺もそうだな。魔法を遮られて初めて、精霊の加護を疑うくらいだ」
「ですよねー。そもそも精霊と遭遇するなんて、まず無いですから」
だから多くの者は想像すらしないでしょう、と言うリヒトに先代が言う。
「でも、お前はシロたちによく構われているだろう?」
リヒトはザイの母の結界に挑戦するため、たまに宰相邸に忍び込もうとする。
宰相夫人は初め怒っていたが、そのうち結界の穴を見つけるのに良いと、リヒトの挑戦をあえて受けるようになった。
ザイがリヒトに初めて対面したのも、宰相邸にてリヒトがシロたちに咥えられて引きずられていた時だった。
「いや、構われてるって、遊んでんじゃないですよ? あれ追われてるんですよ? 捕まったら容赦なく回廊行きなんですから!」
宰相邸の地下には無限回廊がある。その中に、夫人は邸に来た刺客を捕らえて放り込んでいる。ザイが武名をあげて以降、刺客が増え、あまりの数に面倒になった夫人は、侵入すればすぐ回廊送りになるよう、結界を張り直したらしい。
リヒトは回廊への直通路を回避できる術を見つけている。しかし、他の結界やシロたちに捕らえられて、結局は回廊送りにされているらしい。
「俺の場合、余所んとこの殺し屋さん五人無力化しないと出してもらえないんですよ?」
「そうだったんですか。お世話になってます……」
宰相邸の「お片付け」に、リヒトが一役買わされているらしい。ザイは何となくリヒトに礼を申し述べてしまう。
もっとも、そもそも忍び込むなという話なのだが。
「シロたちに追い込ませておいて、後は侵入者同士潰し合わせるのか。エグいな」
東の先代がげっそり言うのに、リヒトがケラケラ笑って言う。
「合理的っちゃ合理的ですね。俺は宰相夫人に命だけは保証されてるので、いい訓練になってます」
──命だけ、か。
ふと目を見合わせてしまった先代とザイだった。
※
一度精霊の姿をちゃんと見てみたい、と言う東の二人にザイは精霊に呼びかけてみることにする。
「碧、出ておいで。ここは広いから大丈夫だよ」
すると
「うおっ」
リヒトと先代が思わず飛び退く。三人の目の前にそれは大きな蛟が降ってきた。
縹が言った通り、契約を結んだ後だからか、大雨が降ることも嵐が起きることもなかった。ただふわりと、半透明な蛟が降りてきた。輝いて見えるのは日を透かしているからか、ザイたちが魔力を持っているからそう見えるのか、どちらとも言えそうだ。
たいそうな図体だが、するりと動く様は全く重さを感じさせない。見上げる高さでトグロを巻いて鎮座した大きな蛟に、先代とリヒトは呆気にとられている。
「でかいっすね」
「デカすぎてわからん」
すると蛟が消えた。
「え、何? どこ?」
リヒトが慌てて姿を探すのに、ザイがいう。
「どうも大きいと言われるのを気にしてるみたいで」
「ええぇ?」
大丈夫なんですかそれは、と呆れるリヒトの横で、言わずには居られなかったというふうに先代が言う。
「名前……」
聞かずとも名前の由来に想像がつく。深い川の水の色のようだから「碧」。
「安易な」
「親子ですね」
「ちょっと余裕なかったもので」
ははは、と笑うどこか長閑な侍従。そして力は強いのに気が弱いらしい精霊。
──大丈夫か? この取り合わせ。
姿は見えなくても濃く漂う水の気配の中、先代とリヒトは少しだけ心配になるのだった。
※────
・シロたちについて
→第二章22話「聞くと面倒な気がしたので皇帝は色々触れないようにしている」
・シロたちの仕事(おだやかなやつ)
→ 第二章07~08話「それを恋などとは言わせない(ただしこれは犬と呼べ)」
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