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第三章

26 雑談と実戦と帰還と待ち伏せ

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 ザイが再び呼びかけると、今度は小さいのが来た。陽を受けてユラユラと輝く、なんとも不思議な細長い精霊は、ザイにするりと巻きついた後、おずおずと、先代とリヒトのところへ行く。

「さっきの大きいのの尻尾を切って作ったのがこの分身だそうで。だから、これ、そのまま大きくして尻尾を切ったら、本体の形になるみたいです」
「ほう、竜とも蛇とも違うのだな」
「へー、変わった形ですね」

 先代とリヒト二人にツンツンと突つきまくられて、あおはスーッとザイの方に帰る。そんな精霊を見て、先代が言う。

「こいつは自我がはっきりしているな」

 それにザイは帰ってきた碧を撫でてやりながら先代に聞く。

「はっきりしていない精霊もいるのですか?」

 先代が腕組みをしてうなる。

「うーん、自我がはっきりしているといおうか、何だな、コイツは随分と人間臭いなと思ってな。
 宰相夫人シファの白狼どもは見た目や力はともかく、大人しくしていれば犬と変わらんように見える」
「ああ、そうですね。僕は子供の頃、まるっきり犬だと思ってましたし」

 納得するザイに、先代とリヒトが同時に言う。

「それはおかしい」
「あんなデカくて凶悪な犬がいてたまるもんですか!」

 特に、リヒトは目をくわっと見開いて言う。宰相邸でリヒトはどんな目に遭っているのか、と思いながら、ザイは済まなさそうに言う。

「僕は普通の犬より先にシロたちに出会いましたから、よその犬が小さいのは、みんな子犬だと思ってました」

「あいつら……」
宰相ヨシュアさんちのお仕込みがこわい」

 俺たちが言うのもなんだが、お前はかなり特殊な育ち方をしていると思っておいた方がいいぞ、と東の先代が言うのに、ザイは心得ておきますと申し上げた。

 ※

 慣らし、と言った先代の言葉に嘘はなかったようで。

 取り留めのない雑談が終わった後、先代はリヒトを東の宮に使いにやり、東の軍の一部隊を呼び寄せた。かつて今上が率い、ザイも共に転戦した事がある東の精鋭部隊である。

「こういうのは、集中が大事だからな」

 もっともらしく言う先代の横で「そんな事仰って、ただご自分がザイ君相手に暴れたかっただけでございましょうに」といったリヒトの呟きは、すぐに始まった戦闘の爆音やら怒号やらに掻き消された。

 半日に満たない短い時間ではあったが、ザイは彼ら部隊を敵国軍に見立て、碧をどう使えば良いか試行錯誤を繰り返した。

 結果、ザイがたとえ意識を失った時でも、精霊はザイの意志に反した行動はしないということはハッキリした。意外に防御型の精霊であるらしい。

 そうして、確かに期日通りにザイは返された。やはり、疲労困憊となってしまったザイは、宮に上がる前に一度宰相邸に帰ることにした。

 ※

 宰相邸にて出迎えた夫人以上に喜んだのは、シロたちだった。ザイの周りをクルクル回ってはしゃいでいる。

「どしたの、これ」

 見てたら目が回りそうなんだけど、と言うザイに、シロたちの使役者の夫人は困惑した風で言う。

「まあ、契約したのね」

「まあ、そうなりましたけど。え、わかるの?」

「シロが喜んでいるから、そうかしらと思ったの」

「え、シロ分かるの? 友達?」

 ザイが言うのに、シロがわふわふと答える。

「碧、出ておいで」

 ザイの呼びかけに応えて、精霊が姿を現わす。

「あお、ですか」
「安易でごめんね!」

 白い四頭の狼の間を碧が行き来する様子は、本当に川の流れのようだ。

 ひとしきりシロたちと碧ははしゃいで、そして、ひとかたまりになって寝てしまった。

「精霊って寝るの」
「そうなのかしらね」

 すぴー、と寝息を立てるシロを撫でながら宰相夫人が言う。

 碧は寝息を立ててはいないが、目を閉じているので寝ているのだろう。

「皆様にご報告はするの?」
「陛下には申し上げる。必要にならなければ公表しない、とのお考えだよ」
「それがいいでしょうね。できれば公表せずに済めばいいわね」

 夫人はうなずき、そして、ザイに告げる。

「筆頭様とセラさんがこちらにおい出ていますよ。挨拶におみえになっているの」
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