【本編】元皇女が出戻りしたら、僕が婚約者候補になるそうです

すみよし

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第三章

20 東の港にクマが出る

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 行き交う船の数は東の、ひいては帝国の豊かさを示す。

 東の港を一望できるここは、東の宮の別邸の一つだ。その露台から見える大小さまざまの船は、それぞれ誇らしげに自国の旗を掲げている。その旗を数えながら東の宮を待つザイは、まだ自分が行ったことのない国が意外に多いことに気づく。

 戦が終わったのち、ザイが出仕もままならなかった三年間で新たな航路が複数開通していたのだ。

「よい眺めだろう?」

 声にザイが振り返る。先触れもなく供もつけぬ東の宮のお出ましだった。

 先代の東の宮の異母弟おとうとで、今上の叔父。しなやかな長身に緩やかに衣を纏う様子は、先代の宮や今上とは随分と印象が違って見える。

 しかし、わざわざ気配を消して現れる人の悪さは、間違いなく先代の弟宮で、今上の叔父であろう。

 ザイはぼんやりしていたと反省しつつ、東の宮に礼を取る。それを鷹揚に受け、東の宮が言う。

「先の陛下におかれても、宰相もそなたに今まで自由にさせておいて、此度そなたは驚いただろうな」

 ふふ、と笑う東の宮には、もうすでに宰相が使いでもやったのだろう。

「何ならうちの娘の一人でも娶るか?」
「私には恐れ多いことでございます」
「そうか? そなたが良ければ通いでも構わんし、娘を北にやっても良い」

 笑う東の宮に、ザイは困ってしまう。

「冗談よ。ガレスが皇帝でなければ考えたがな」

 流石にこれ以上、東が北の宮に近くなり過ぎるのはよろしくなかろうという東の宮に、ザイはホッと胸をなでおろす。

「そなた、本当に参っておるようだな」

 ますます笑みを深めながら東の宮は言い、ザイに座るようにすすめた。

 ※

 突然のザイの申し出に東の宮がすぐに応じて目通りまで許したのは、すでに皇帝から話が通っていたからだった。

 東の領のうち、立ち入り禁止にしている広大な砂漠の地をザイに貸してくれると言う。

「ただな、そこは我が兄上の、まあ、庭だ。軍には誰も近付けるなと通達しておいたが、凶悪なクマが一頭、すばしこい狐が一匹迷い込むのは軍の者らとて阻止はできんから辛抱してくれ」

 甥っ子ガレスが居らんようになってから力を持て余しておられるのだ、と東の宮は溜息をつく。

「それに」

と続けかけたところで、東の宮が何かに気付く。ザイもギョッとして扉を見つめる。

「面目無い、もう狐に聞かれていたらしい」

そう東の宮が言い終わらぬ間に、結構な勢いで部屋の戸が開かれる。

「やはりお前かザイ! よし俺が借り受けた」

 入ってくるなり宣言したのは、先代の東の宮であった。

 今回はどこに穴があった? とげっそりして聞く弟宮に、「そんなものは人に聞かずに手前で塞げ」と兄宮は笑い、悠々とザイを引きずっていく。

 引きずられつつもなんとか退出と感謝の礼を申し上げるザイに、東の宮は「すまぬ、幸運を祈る」と手を振るのだった。



◆◆◆
(2019/08/31)お知らせ

【新連載】「官吏になりたい僕ですが、父さん(宰相)が本気で邪魔してくる」

をはじめました。

 第一章04話「止めたというのに」で触れたザイの受験生時代の話です。全20話の予定です。よろしくお願いします。
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