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第三章

13 口説くってなんですか?

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 セラはポカンと開いてしまっていた口を一旦閉じて、ようやく声を絞り出す。

「おと、おと……、落とすって、お、おと、お父さま?」

「お前自身がザイどのを、婿にすることだ」

 口説き落とす。
 私が、ザイを、口説く。
 口説く?
 ……どうやって⁉︎

 口説かれたことも口説いたこともないセラである。

 私がザイを口説く。
 あの女性に慣れていそうな、隙だらけに見えて案外そうでない侍従サマを?

 セラは心の中で絶叫する。

 ──無茶です無理ですお父さま!

 セラが愕然としているうちに、目の前の父はスラスラと言う。

「先日ザイ殿を婿に貰えないかと閣下にお願いしてみたのだが今しばらくは、と濁された。結婚についてはザイ殿当人に任せているとのことだから、あえてそのまま受け取れば、本人に交渉するのが一番だろう。だが、私が交渉しようにも、宮の文官長が陛下を通さず侍従殿のお時間を頂くのは人目を引いてしまうものだ。女官のお前なら、その辺はなんとかなるだろう?」

 確かに、セラの立場ならザイとは気軽に話せる。だからこそ宮に上がったのだし。

 いや、そうではなくて、とセラは思い、父の言ったことを心の中で反芻して、セラは再び顔が真っ赤になる。

「お父さま! いつの間にそんなお話を閣下に……っ!」

 私、次に閣下にどんな顔をしてお会いすればいいのですか! とセラは半泣きになる。

 ザイと宰相の親子仲は世間で言われているほど悪くはないと見ているセラである。

 きっと、閣下はザイにセラのことを聞いただろう。

 つまりは、セラの思いはザイを通して閣下にも筒抜け。そして、ザイがセラに気がないのも。

 多分、セラは生まれて初めて父に対して怒っている。つい先ほどまでは、自分が父に怒る姿など想像できないと思っていたのに。人生何があるやら分からないものである。

 結婚について、親同士が先に話し合うことはよくあること。むしろ、それが普通である。セラの父が勝手なのではないと、セラも理解している。

 しかし、セラはどうにも恥ずかしくてたまらない。

「落ち着きなさい。セラの気持ちがどうこうという話はしていないから。それに、今更だろう……」

 ザイ殿の父君だ、知ったところでどうこう言う方でも思う方でもない、という文官長の慰めは、セラには追い討ちである。

 流石に失言だったかと反省しながら、文官長はセラを宥める。

「まあ、聞きなさい。それで、件の別の方との話だが」

 取り乱していたセラは、父の言葉で我に帰る。そうだ、それがまだあった。

「例の王子様ですか?」
「ああ、とりあえずお前は候補から外れそうだ」
「どういうことですか」
「まずは、これを読みなさい」

 文官長がセラに綺麗に畳まれた紙を渡す。意外な方からの御文に、セラは驚く。

「皇妃様から、でございますか?」
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