61 / 119
第二章
27 向き合う(2/2)
しおりを挟む
第四王子との話──といっても一方的に王子が苦しげに吐き出すのを宰相が聞くだけだったが──が終わった。
宰相も知らなかった王室の内情を話してしまった第四王子は、いよいよ王国には戻れないだろう。少なくとも第二王子が王国に健在である間は。もちろん、第四王子の話が本当かどうかはこれから一つ一つ確かめなければならないが。
一国の王子の母国との決別は、あっけないものだった。生まれ育った王国に第四王子を取り戻したいと願うのは、彼の生母くらいであろう。彼が王国からいなくなったとて、王国は何も変わらない。むしろ安定する。
王国大使に持ち帰らせた関税の引き下げをあっさり承諾してきたのは良いが、この後味の悪さには見合わない。
今頃、心優しき海の王は、我が身の不甲斐なさと愛しい末子の不運を嘆いて見せていることだろう。
王国大使に続き、第四王子の処理まで帝国に投げてきた王に、宰相は舌打ちをしたくなった。
「私は一旦失礼いたします。殿下は今日のところはお休みくださいませ。お食事はこちらへ運ばせましょう」
宰相が言うのに、第四王子はようやく頷いた。
頷くというより、傾いだような王子の様は、まるで糸が切れた操り人形のようで、この上なく弱々しいものだった。
この王子は、ここから立ち上がることができるだろうか?
あるいは、帝国の傀儡としての生を全うするだろうか?
それとも、と宰相は考え、その先の困難な道のりを想像し、しかし、そうであればいいと思う。
いずれにせよ、全ての道の第一関門は、当分の間王子を預かることになる宰相夫人の殺気を、宰相がなだめられるかどうかだった。
何で自分がこんな目に。
王国にはいつか、この腹立たしい思いの対価を払わせてやる。そう決心して、宰相は扉を開けた。
※─────
・王国大使に持ち帰らせた関税の引き下げ
→第一章16話「王子の行く先と護衛二日目」
宰相も知らなかった王室の内情を話してしまった第四王子は、いよいよ王国には戻れないだろう。少なくとも第二王子が王国に健在である間は。もちろん、第四王子の話が本当かどうかはこれから一つ一つ確かめなければならないが。
一国の王子の母国との決別は、あっけないものだった。生まれ育った王国に第四王子を取り戻したいと願うのは、彼の生母くらいであろう。彼が王国からいなくなったとて、王国は何も変わらない。むしろ安定する。
王国大使に持ち帰らせた関税の引き下げをあっさり承諾してきたのは良いが、この後味の悪さには見合わない。
今頃、心優しき海の王は、我が身の不甲斐なさと愛しい末子の不運を嘆いて見せていることだろう。
王国大使に続き、第四王子の処理まで帝国に投げてきた王に、宰相は舌打ちをしたくなった。
「私は一旦失礼いたします。殿下は今日のところはお休みくださいませ。お食事はこちらへ運ばせましょう」
宰相が言うのに、第四王子はようやく頷いた。
頷くというより、傾いだような王子の様は、まるで糸が切れた操り人形のようで、この上なく弱々しいものだった。
この王子は、ここから立ち上がることができるだろうか?
あるいは、帝国の傀儡としての生を全うするだろうか?
それとも、と宰相は考え、その先の困難な道のりを想像し、しかし、そうであればいいと思う。
いずれにせよ、全ての道の第一関門は、当分の間王子を預かることになる宰相夫人の殺気を、宰相がなだめられるかどうかだった。
何で自分がこんな目に。
王国にはいつか、この腹立たしい思いの対価を払わせてやる。そう決心して、宰相は扉を開けた。
※─────
・王国大使に持ち帰らせた関税の引き下げ
→第一章16話「王子の行く先と護衛二日目」
0
お気に入りに追加
144
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
十三月の離宮に皇帝はお出ましにならない~自給自足したいだけの幻獣姫、その寵愛は予定外です~
氷雨そら
恋愛
幻獣を召喚する力を持つソリアは三国に囲まれた小国の王女。母が遠い異国の踊り子だったために、虐げられて王女でありながら自給自足、草を食んで暮らす生活をしていた。
しかし、帝国の侵略により国が滅びた日、目の前に現れた白い豹とソリアが呼び出した幻獣である白い猫に導かれ、意図せず帝国の皇帝を助けることに。
死罪を免れたソリアは、自由に生きることを許されたはずだった。
しかし、後見人として皇帝をその地位に就けた重臣がソリアを荒れ果てた十三月の離宮に入れてしまう。
「ここで、皇帝の寵愛を受けるのだ。そうすれば、誰もがうらやむ地位と幸せを手に入れられるだろう」
「わー! お庭が広くて最高の環境です! 野菜植え放題!」
「ん……? 連れてくる姫を間違えたか?」
元来の呑気でたくましい性格により、ソリアは荒れ果てた十三月の離宮で健気に生きていく。
そんなある日、閉鎖されたはずの離宮で暮らす姫に興味を引かれた皇帝が訪ねてくる。
「あの、むさ苦しい場所にようこそ?」
「むさ苦しいとは……。この離宮も、城の一部なのだが?」
これは、天然、お人好し、そしてたくましい、自己肯定感低めの姫が、皇帝の寵愛を得て帝国で予定外に成り上がってしまう物語。
小説家になろうにも投稿しています。
3月3日HOTランキング女性向け1位。
ご覧いただきありがとうございました。
さあ 離婚しましょう、はじめましょう
美希みなみ
恋愛
約束の日、私は大好きな人と離婚した。
そして始まった新しい関係。
離婚……しましたよね?
なのに、どうしてそんなに私を気にかけてくれるの?
会社の同僚四人の恋物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる