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第二章

24 慟哭の王子(1/2)

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 王国大使に続き、第四王子が帝国の宮に上がる。

 大使から王国の騒ぎについて伝えられた第四王子は、真っ青になって震えだす。

  王国大使はそれを見て、しかし、自国の王子にそれ以上声をかけることはなかった。

 王子も発言することはなかった。出来なかったのである。

 母国の大事を耳にしても、ただ慄くばかりの第四王子に、謁見の間に居並ぶ帝国の官吏たちが眉をしかめる。

 第四王子に代わり、宰相が大使に問う。

「国王さまにおかれては、殿下のご帰国をお望みであられますか?」

「いいえ、このような時であるからこそ、帝国にて両国友好の使者としての務めを全うせよ、と」

 国王の言葉を大使が伝えるのに、第四王子がホッとしたような、泣きそうな複雑な顔を見せる。大使はそれを確認して言う。

「つきましては、殿下には一度王国公館にお戻り頂き、」

 大使の言葉を、皇帝が遮る。

「このような時である。万一のことがあってはならぬ。使者殿を帝国でお預かりすることは、既に王もご承知だ。王国そちらが落ち着かれたら、王国におられるご内室方もこちらへお迎えしよう」

「ありがたく存じますが、恐れながら」

「私が信用できぬか?」

 皇帝の冷たい声音に、大使が慌てて申し上げる。

「いいえ、そのようなことでは……、しかしながら」

「それは王のご采配か? そなたの意見は聞いておらぬ」

 大使の言葉を切って捨てた皇帝が目配せをすると、筆頭が控えに通じる扉を開く。

 扉の向こうに近衛に引き立てられて憔悴仕切った男たちが現れた。

 第四王子を狙って宰相夫人に捕らえられた刺客達である。皆、後ろ手に縛られて、魔力を封じられている。

「さて、急にこのような者らが帝国に押し寄せて来ているわけだが。
 公館の警備だけで事足りると言うそなたには最早何も言わぬ。
 王にはそなたのことを報告しておく」

 皇帝の言葉に、今度は王国大使が青ざめる。

 第四王子が大使や刺客達から隠れるように後ずさる。それを見て皇帝が言う。

「使者殿は、帝国におる限りは安心なさるがいい。王のお言葉通り務めを果たされるよう」

 第四王子は、皇帝に向かって崩れるように礼をした。
 服従とも見えるその行為に、王国大使は嘆息をようよう耐える。そうして大使は申し上げる。

「全ては皇帝陛下と、我が国王の御心のままに」

 しかし、もう遅かった。
 王妃の行列に紛れ込んだ第四王子を王国に送り返すどころか公館で見張りも付けず好きにさせ、あわよくば不祥事を起こさせようとした王国大使は、王によって更迭された。

 この大使もまた、第二王子に切り捨てられたのである。


※─────
・公館で見張りも付けず好きにさせ、
→ 第一章 15話「夜更けですから沈めるにはちょうど良い時間かと」
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