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第二章
23 王国大使奏上、答え合わせ
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ザイが北の魔山に向かったのは早朝のことである。
そのあと、ようやく王国大使の奏上があった。謁見の間で大汗をかきながらの王国大使の説明は、すでに帝国が掴んでいる情報と大差ない。
いや、最初は随分違っていた。
王妃は巻き込まれていないとの大使の説明に、宰相の目が険しくなる。
そのあとは酷いものだった。
帰国後、王妃がすぐに王太子の宮に向かったことから王太子妃の病状を聞き出し、当然そこには王太子も居たはずだと言って、騒ぎの際、王太子が負傷したことを大使から聞き出し、そして宰相は確認する。
「巻き込まれておられない、とはお怪我はなさらなかったという意味で、ですか?」
第四王子を預かる宰相の質問に、王国大使は左様でございます、王妃様は御身を損なうようなことには巻き込まれておられません。と小さくなる。
皇帝は宰相の好きにさせておいた。結局、王妃がその場に居たことは正式に帝国に報告された。これで王妃の護衛はさらに増えることとなった。
もう頃合いか、と皇帝は大使に声をかける。
「王太子並びに王太子妃が無事であったのは良かった。まこと、神子の加護の頼もしいことよ」
皇帝の言葉に王国大使はさすがは帝国の神子さまでございます、と頭を垂れる。項垂れているようにも見える。
まだはっきりしたことは分からないが、何にせよ避難を指揮した王妃のお陰であることに間違いはあるまい。あの王妃の場合、神子の加護より王妃自身のとんでもない魔力の方が頼れそうだが。
もし、それに加えて竜王の契約まであれば、おそらく、王妃に敵う者はいまい。あるいは、この帝国さえ脅かすかも知れぬ。
王妃自身にその気は無いだろうが、契約が知れると厄介である。
故に対抗措置として皇帝はザイも精霊と契約をするように命令したが、果たしてうまくやるだろうか?
謀反だなんだと疑われるのが嫌だと言うザイを蹴り出すように送ってやった皇帝は、契約するまで何度でも魔山に登らせるだけだと思う。
それでも契約を成さないのなら、女官のセラと結婚させると脅した。
宰相の案は皇帝にとっても悪くない。侍従のザイと文官長の娘のセラが新たに家を興す。そうして妃の後ろ盾となるなら、宰相亡き後も、皇帝としては安心だ。
妃も否とは言うまい。いや言わせない。隙あらば自分から逃げようとする妃を皇帝は放さないと決めたのだから。
自由闊達が妃さまの本質、それを宮に閉じ込めるのは、と妃を思いやるふりをして宮から追い出そうとする者がいる。それを皇帝は鼻で笑いたくなる。
アイツはどこに連れていかれようが、例え閉じ込められようが、構やしない。
どこまでも自由にわがままに、やりたいことをやる。例え一時屈することがあったとしても、恭しく首を垂れて顔に作った影に笑みを隠して虎視眈々と機会を待つような女なのだ。
今頃喪に服しながらも色々色々動いているのだろうなあ、と皇帝は考え、皇帝である自分にこれだけ心を砕かせる妃こそ傾城と言うのだろうと内心笑った。
そのあと、ようやく王国大使の奏上があった。謁見の間で大汗をかきながらの王国大使の説明は、すでに帝国が掴んでいる情報と大差ない。
いや、最初は随分違っていた。
王妃は巻き込まれていないとの大使の説明に、宰相の目が険しくなる。
そのあとは酷いものだった。
帰国後、王妃がすぐに王太子の宮に向かったことから王太子妃の病状を聞き出し、当然そこには王太子も居たはずだと言って、騒ぎの際、王太子が負傷したことを大使から聞き出し、そして宰相は確認する。
「巻き込まれておられない、とはお怪我はなさらなかったという意味で、ですか?」
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皇帝は宰相の好きにさせておいた。結局、王妃がその場に居たことは正式に帝国に報告された。これで王妃の護衛はさらに増えることとなった。
もう頃合いか、と皇帝は大使に声をかける。
「王太子並びに王太子妃が無事であったのは良かった。まこと、神子の加護の頼もしいことよ」
皇帝の言葉に王国大使はさすがは帝国の神子さまでございます、と頭を垂れる。項垂れているようにも見える。
まだはっきりしたことは分からないが、何にせよ避難を指揮した王妃のお陰であることに間違いはあるまい。あの王妃の場合、神子の加護より王妃自身のとんでもない魔力の方が頼れそうだが。
もし、それに加えて竜王の契約まであれば、おそらく、王妃に敵う者はいまい。あるいは、この帝国さえ脅かすかも知れぬ。
王妃自身にその気は無いだろうが、契約が知れると厄介である。
故に対抗措置として皇帝はザイも精霊と契約をするように命令したが、果たしてうまくやるだろうか?
謀反だなんだと疑われるのが嫌だと言うザイを蹴り出すように送ってやった皇帝は、契約するまで何度でも魔山に登らせるだけだと思う。
それでも契約を成さないのなら、女官のセラと結婚させると脅した。
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アイツはどこに連れていかれようが、例え閉じ込められようが、構やしない。
どこまでも自由にわがままに、やりたいことをやる。例え一時屈することがあったとしても、恭しく首を垂れて顔に作った影に笑みを隠して虎視眈々と機会を待つような女なのだ。
今頃喪に服しながらも色々色々動いているのだろうなあ、と皇帝は考え、皇帝である自分にこれだけ心を砕かせる妃こそ傾城と言うのだろうと内心笑った。
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