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第二章

15 熱が冷めては自己嫌悪

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なまってんなーお前」

 筆頭から受け取った水をあおりながら皇帝が言う。皇帝の言葉にムッとするザイであるが、その通りなので、そうみたいですね、と答える。

 久しぶりに体を動かしたような気がする。

 もう何本目かわからない試合をして、魔導師が尽きた。以降は普通に剣の訓練となっていた。

 陽が傾きかけるまで戦い続けて、流石に水を求めた二人に、筆頭は多すぎる量をそれぞれ渡す。

 そして、すかさず、近衛と魔導師と詰めかけた観客に、皆さまお疲れ様でしたー、解散でーす、とどこか間延びした声で告げた。

 ザイは水を飲むだけでは足らず、頭から被って戦闘の熱を冷ます。ああ、また装束が、と思うが、ザイは開き直る。

 既にあちこち切れているし、正装ではないし、半分くらいは不可抗力なので許してもらおう。

 と言っても、許しを請う相手は明日はいないけど。

 もしかしたら、もう帰ってこないかもしれないけど。

 それまで適当にあしらっていたくせに、どうしてこう、去っていく女性ばかりが自分は気になるのか。

 そのくせ、もし、セラが婚約破棄して戻って来たとして、二人の間に何の障害もなくなったとして、では自分がセラを選ぶか、と言えば、多分そうしない。

 「多分」だなんて、我ながら最低だ。

 それでも、今は無理なのだ。

 先帝が逝き、戦場で沢山の敵を屠った。比喩ではなく死体の山を築いたザイは、あの一人一人に帰りを待つ人間がいたのだろうと思うと、酷く気が滅入った。

 宮でつい先帝を探すザイは傷ついていて、休むべきだったが、宮はザイを放って置いてくれなかった。

 そんな自分をカイルはどう見ていたのだろうか。

 とどめとばかりにカイルが逝った。

 あの日囁かれたカイルの言葉は、したたかにザイを打ち据えた。

 昨日まで信じていたものがひっくり返ったというのに、世界はいつものままで、それがどうしても受け入れられなかったザイは、一度壊れた。

 その時に、人として普通の感覚を色々なくしてしまったような気がする。何をなくしたか今では思い出せないが。

 今のザイは、誰に想いを寄せられても、応えられる気がしない。自信がない。ましてや結婚なんて。

 そんな事を考えてしまう自分は、自惚れている上に、勝手極まりないとザイは思う。

 かぶった水を拭うフリをして涙を隠したザイは、御前にもかかわらず中庭にパタリと仰向けに倒れ、四肢を投げ出した。観客もいなくなったいま、ザイの不敬を咎めるものはいない。

 子どもの頃、よくここでこうして、空を見た。

 あの頃は、大人になれば自然に結婚しているものだと思っていた。
 
 それなのに、今の自分にとっては結婚なんてとてつもない困難に思える。急に結婚を言い出した父にもイライラする。

 だから、ザイは言う。

「結婚って、なんなんですかね」

 ザイの呟きに皇帝が水を吹いた。
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