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第二章

13 とばっちりに八つ当たり

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 どう鍛えてもなかなか筋力がつかなかったザイでも使える剣を教えてくれたのは、先帝だ。

 まともに打ち合うのではなく、相手の力を利用して立ち位置を自分の有利な方へ持って行く。それにカイルやザイの母が使う懐刀の技を組み合わせれば、格上の相手でもなんとか渡り合える。

 「魔法を封じられても、死地を切り抜けられるように」と教えられた技は、ザイ自身の長年の鍛錬もあって、高度で実践的なものとなっていた。

 ただ、やはりそれは、魔導師として知られているザイとしては、隠し手としてとっておきたいものだった。

 にも関わらず、今、それを中庭にて惜しげも無く披露させられているのは、相手が歴史に残るだろう剣の使い手である上に、これ以上なくイライラしているからである。

 来月宮に戻る皇妃から、皇帝に文が届いたという。その文に曰く

───
 宮には戻りますが、里下がりしていた身ですから少なくとも十月十日は閨は別に。里下がり中に陛下以外の子を身籠ったなどと噂を立たせぬ為でございます。
 皇后様もご出産後のお体には大変でございましょうから新たに女人をお召しなさいませ云々。
───

 昨晩遅くまで、ザイと宰相は不毛な会話を繰り返したが、父はどうやら諦めていないようだ。セラ女官を宮の外に出したくないと考える皇妃を「ザイの外堀をサクサク埋め隊」に引き入れたらしい。

 誰を迎えるかはぼかされているが、要するに側室を迎えたくなければザイに娶らせろ、ということを書いてあったというのは、後に筆頭から聞いた話である。

「女切らしたことのねえお前には分からんかも知れんがなあっ」

 この後に、しみじみとかなしみがふかい陛下のお言葉が続くが、それは筆頭の防音結界で皇帝と侍従以外には秘された。

 皇帝の一太刀一太刀はとにかく重い。まともに受けていては剣が折れる前に腕が折れる。躱していても、もう腕どころかザイの背中は軋みそうである。

 まともに受けず流されるのが、さらに皇帝のカンに障っているのが分かる。鋭さを増す剣先にザイは劣勢を強いられていたが、ザイは他に戦い方を知らない。

「何で俺にとばっちりがっ、来る!」

 ついにザイの剣が折れる、その兆しが見えたザイはあっさり剣を捨てる。

 ここで剣が折れれば皇帝の溜飲もいくらか下がろうが、ザイは折れる前に剣を放り出した。

 しのぐだけなら懐刀で十分。

 そう言わんばかりのザイの挑発に皇帝が口元をひくつかせる。

「てめえ……」

 先んじて筆頭が張った結界がビシリと揺れる。先ほどまでとは段違いの殺気が皇帝から放たれた。

 それに大抵の者なら身を投げ出して許しを請うだろうが、ザイは防御の構えを解かない。

 ザイもいい加減、頭に来ていたのである。

 ……中庭の空気が一変する。

 護衛にかこつけて観戦していた近衛達が一斉に下がる。代わって、筆頭の命令で待機していた魔導師達が、宮を守る結界を張るために悲壮な覚悟でもって進み出る。

 宮の中庭で皇帝と侍従の「魔法結界なんでもアリ」の試合が始まった。

 ※

 断続的に伝わる揺れに宮の官吏たちは何事かとざわめきたった。
 しかし、それもほんの僅かな間のこと。
 例によって宰相の「地鳴りだ」の一言で皆静まった。
 
 そんな中、文官長がひっそりとため息をついたのを、宰相は黙殺したのだった。


※────
例によって宰相の「地鳴りだ」の一言
 →第一章 03話「止められたものか」
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