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第一章

02 止められました

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 皇帝の炎の魔法と王妃の光の魔法に、たまらずザイが放った水と闇、そして、風の魔法が割って入る。

 炎と光を水と闇で弱らせ、それでも暴れる力を風で切り裂き分散させたのを、筆頭の結界が徐々に吸収して行く。

 いくらか弱まったものの、さすがは皇帝と元皇女、ザイの力では相殺しきれなかった魔力の奔流は、結界を張った術者にかなりの負担を強いたらしい。

 昏倒する侍従筆頭を慌てて支えながら、ザイは主人とその賓客の姿を探す。

 魔力の名残りが靄となって漂うのが薄らいだその先に、やけにサッパリとした顔の皇帝がいた。

 とりあえず怪我もなさそうな様子にホッとするも、「何なさってるんですか」と目で咎めるザイを捨て置いて、皇帝は王妃の方を見る。

「無粋なことだ。私の侍従が失礼をした」

 ザイに向けるのとは打って変わって穏やかな笑みを浮かべて皇帝が言うのに、王妃が答える。

「いいえ、わたくし故郷に帰った喜びで遊びがすぎましたわ。陛下のお付きの方々のお手を煩わせてしまいますとは、申し訳ないことです」

 しおらしい言とは裏腹に、王妃の顔は共犯者のそれだ。

 未だうっすらと残る靄の向こうでもあざやかな姿で「ほんの遊びのつもりでしたのに」という王妃に、ザイは亡き先帝の面影を見る。

 ーーーああ、あの方もこんな風に美しい顔で悪戯っぽく微笑んでここに立っていらしたのに。どうして。

 突然胸を刺した傷みに戸惑ったザイは、高貴な二人に向かって魔法を放ったという自分の無礼を遅れて思い出し、咎めあって然るべきと慌ててかしこまる。

 文字通り体を張って魔力を吸収した侍従筆頭には悪いが、気を失っている彼が、ザイは今は少しだけ羨ましい。

 しかし、この皇帝と王妃の様子は、どういうことだ。今日が初対面にしては、親しすぎないか?

 まだ年若い皇帝と、他国に嫁いだとはいえ、慣習に従い斎の神子である王妃。

 そんな二人にあらぬ心配をしかけたザイは、いや、それはないと否定しつつも、気絶している侍従筆頭を起こして意見を聞いてみたくなる。

 何にせよ、彼を気絶したままにしておくのは良くない。

 やっと通常の思考が戻ってきたザイは、口の中で小さく呪文を唱える。

 ところが、王妃の次の言葉に、ザイの時が止まる。

「懐かしい方にお会いできて嬉しゅうございます。ザイ様はわたくしの初恋ですの」

 ザイの呪文で意識が戻った瞬間に王妃の発言を聞かされた侍従筆頭は、「できればもう一回気絶したかった」と後に語った。

 私より背丈がお小さかったのに見違えましたわ、と侍従らの動揺も知らぬげに美しく微笑む王妃と、ここ一年で最高の笑顔を見せた皇帝を会談の席に戻しながら、完全に機能停止したザイをどうにか控えに下がらせる。

 そんな苦行を成し遂げた侍従筆頭を、後に我に返ったザイは、改めてすごいと思った。

 ザイが我に返った頃、会談を終えて帰ってきた皇帝は、控えから出迎えたザイに告げた。

「お前のおかげで良い会談となった。今日はもう帰っていいぞ」

 すこぶる機嫌の良い主人に思わぬ休みを頂いたザイは、これは後で揶揄からかい倒されるのだろうと分かりつつも、素直に帰宅した。

 無理して側に詰めても、今日は絶対に何かやらかしそうだと思うほどの動揺を自覚していたからである。

 久々に下がった家でぼーっとしていたザイは、出来ることならこのまま寝てしまいたいと思っていたが、やはり無理だった。

 父が帰宅するなり、ザイを書斎に呼んだのである。
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