宰相さんちの犬はちょっと大きい─契約編─

すみよし

文字の大きさ
19 / 30

19 別方向にも捕まった

しおりを挟む
 東に帰って三月も経たない頃、ヨシュアは再び西の宮に召されていた。

「ま、そういうわけでな? 誰を立てても角が立つ故に」

 正面にはにこやかな西の宮さま、右手に至極真面目なツラを揃えた重臣たち、左手には困惑顔の西の各商会の会頭たち。ずらりと居並ぶ全員の視線を受けても、ヨシュアの顔色は変わることはない。それに満足しながら、西の宮が続ける。

「そなたに任せることにした」

「恐れながらそれは東の宮さまからお断りをして頂いたはずでございます」

 憮然とヨシュアは申し上げる。それに西の宮が言う。

「その通り。そなたが私の願いも東のからの勧めまでも断った故な、仕方無くこの西の宮の名において命令するのだ。追って東の宮からも沙汰あるだろう」

 盛大に顔をしかめるヨシュアを笑って西の宮が続ける。

「さて、この決定に不服のある者は今この場で申し出よ」

 重臣らは動くこともなかった。会頭らは互いに顔を見合わせていたが、やがて一斉に頭を垂れ、それぞれに申し上げる。

「ございません」
「西の宮さまの仰せの通りに」
「私共はヨシュア殿を喜んでお迎え致します」

 こうしてヨシュアは西の商会の会頭たちのまとめ役、つまりは西の宮と商人たちの交渉その他諸々雑用係(名前はまだない)となった。

 ※

「ほほ、ヨシュアさんは宮さま方に見事に捕まりましたな」

 気の毒そうな顔をしつつも愉快そうな東の商会の会頭に笑われる。

「お前は何でも真面目にやりすぎるのよ。やれ、上つ方というのは、そういう者がお好きだ」

 適当に下手を打つのも、面倒ごとを避ける手よ。この俺のようにな! とこれはヨシュアとは別の商隊の隊長が酔っ払って言うのに周りがドッと笑う。

 ヨシュアの西行きを祝って、東の商人仲間たちが宴を催してくれた。

 ひとしきり笑ったあと、ヨシュアの商隊を商会ごと引き受けてくれた会頭がいう。

「まあ、多少の地ならしは、西の宮さまがされておるようだ。幾人か会頭が隠居したようだから」

 それを受けて別の会頭が言う。

「これで西がまとまってくれればこちらも助かるというもの。どうぞよしなに『相談役』殿」

 自分より歳も腕も財力も上の商人たちがおどけて自分を持ち上げるのに、ヨシュアは勘弁してくれと思う。

 それでも北の都の孤児だった自分が酒宴を開いて送り出して貰えるほどに東の地で受け入れられていたのだと思うと、感慨深いものがあるヨシュアだった。

 ※

「まあ、良かったんでないの? ほら、シファさんとも今より会えるだろ?」

「いやそれがさ、なんかシファさん今度は東に来るらしいよ。西の姫さまのお供で」

「うわあ。やっぱり縁ないんじゃ」

「いや、縁ないというよりは、これは何か大きな力が働いている……!」

「『何か大きな力』っつーか単に西の宮さまの『ご配慮』だろ。うつつ抜かすなよっていう」

「いや、そもそもハナから無理だから」

「ま、そうだけどさー、でも、俺たちにも気さくな人だったし、結構いけるんじゃないかとか思ったんだが」

「そうそう。でないとシロとか貸してくれないし。って、シロはさー、隊長の護衛続けてくれるの? 前ほどじゃなくても西行ったら狙われるんじゃ」

「それは大丈夫みたいよ? 契約解除の話はされてないし」

「商隊の護衛はもう必要ないからな。ヨシュアだけ守ってりゃいいしな」

 砂漠に交易路を開くと、魔物たちはすぐにいなくなった。人通りが多くなったので逃げていったのだろうとの噂であったが実のところは、違う。

 西の宮の姫の「演習」場所に、砂漠の交易路が選ばれた。一帯の魔物の分布も調べていたヨシュアたちを道案内に、姫とその教師であるシファが、シロたちと一緒に魔物達を一掃したのである。

 その後を東西の宮の兵が街道として整備した。戦が減った東の兵を遊ばせておくより良いと、街道は東の兵たちによって手厚い警備が行われるようになった。
 ヨシュアたちのような特別な技を持たずとも誰でも通れるようになったのである。

「姫さん、凄かったな。西の宮は安泰だよ」

「でも姫さまなんかよく引っ張り出せたなあ」

「ヨシュアがダメ元でシファさんに頼んだら通ったんだと」

「隊長の頼みだからか? やっぱ隊長、シファさんいけるんじゃね?」

「ヨシュアの頼みだからというよりはヨシュア以外にそんな頼み事するやつ居ねえし。つーかシファさんよりあの姫さんが乗り気だったみたいだし。しかもシファさん入れ替わりで東に来るんだろ?」

「うーん、隊長は遊ばれている……」

「おお! 俺も遊ばれたい!」

「魔物を掃討し、ヨシュアを手玉にとる元女官」

「強いな元女官」

「おそるべし元女官」

「そしてヨシュアの何と無謀なことよ」

 初めはコソコソと言い合っていたのが普通の音量の会話になり、しまいには笑いだしたのを受けてヨシュアが怒鳴る。

「みんなさっさっと寝ろ!」

「おお、相談役殿が荒れておられる!」
「お前こそうるせえ」
「大変だ、ご乱心!」
「速やかに眠らねば!」

 街道が整備されたとは言え、砂漠の日差しだけは変わらない。日が昇りきり、いつも通り天幕で仮眠をとるヨシュアの商隊の仲間達は笑いながら寝たふりをする。

 ヨシュアとはこれが最後の旅になるだろう。そう思うと彼らは寝付けなくなる。そうして天幕の中で長いこと子供のように騒いでいるのだった。

 それが見事に影響してヨシュアの隊は遅れに遅れ、最後の旅の売り上げは商隊史上最悪となった。


※─────
2019/05/20 改題しました。内容は変わっていません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...