上 下
17 / 30

17 日覆い

しおりを挟む
 シファが男物の布を被っていたことは瞬く間に知れ渡り、西の市で噂となった。

 シファは、遅ればせながら自分の迂闊さに気付き、おそらく意図的であっただろうと、ヨシュアに対する認識を少し改めた。

 ※

 引き合わせの日に現れたシファが持ち出した日覆いを見て、ヨシュアの仲間達は一斉にヨシュアを見た。

 噂の布を渡したのがウチの商隊の、コイツだったとは!

 そうして、ヨシュアがシファに会っていたのが、自分たちが砂漠で魔物と必死の追いかけっこをしていた頃である、と知った仲間たちが、ヨシュアに詰め寄る。

「テメエ、俺たち働かせて一人何やってんだ」
「おいコラ、西では目立つ真似はしないと言う話だったよな?」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ輪の中心でしれっとしているヨシュアに、シファが声をかける。

「ヨシュアさん、この日覆いを、おいくらかでお譲りいただけませんか? 気に入りました」
「さようですか、しかし、それは、同じ柄のものがなくて。他の柄なら、しばらくすれば手に入りますが」
「いえ、この日覆いが欲しいのです。どうやら男避けになるようですので」

 騒いでいた仲間達がピタリと黙る。

 シファの綺麗な笑顔が怖い。

 仲間達は、シファの得体の知れない威圧感に怯えつつ、ヨシュアの小狡さを知らなかっただろうシファに同情しつつ、ちょっとだけ背筋を寒くしているらしいヨシュアに「ざまあ見やがれ」と思いつつ、何でウチの隊長はこんな、ややこし気な女人にいらんちょっかいをかけたのだ、と今更ながら呆れていた。

 ヨシュアは言った。

「使い古したものですから、差し上げます」

と。

 ※

 後にヨシュアとシファは、恋愛というには何か疑問符がつく腹の探り合いを展開し、そのくせお互い空回りするということを繰り返して、見守る西の宮を大いに笑わせた。

 ヨシュアは東の宮が言った通り、あっさり西から撤退した。肩透かしを食らった形になった西の有力商会の会頭たちは、西の宮に諭されるまでもなく、新たな輸送路の整備について、どの商会も独占しないことを申し合わせ、東と協調することを約束した。

 ※

 その日もヨシュアの日覆いの布を被ったシファは、砂漠に入る。人目が途切れるや否や、シファは日覆いをしまい込む。

 ヨシュアからもらった日覆いは、すっかりシファだという目印になっていたのである。

 結界で目くらましをしながら物陰で服装を変えて、シファは北の都の雑踏に紛れる。そうしてたどり着いた酒場には、既にカイルが来ていた。

※─────
2019/05/20
 改題しました。内容は変わっていません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

処理中です...