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11 本当にどうでもいいんだ

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 じっと見る私を元フィオリーナ嬢が嗤う。

「そう、アンタその目、なんかむかつくと思ったら佐藤花だわ」

 佐藤花を知ってる? 私は全身の毛が怖気たった。

「あたしの前の前世はねえ、木下美紅羅みくら。佐藤さんにネットに晒されたのよ。覚えてるわよねー?」

 サーリセ様があちゃあと言う顔をしてる。向こうの神様雑すぎ、そんなつぶやきが聞こえてきたけど、私はそれどころでない。

 木下美紅羅、と言う名前を聞いて、私は吐きそうになる。忘れもしない、私に謝りにも来た一人だ。中学校ニ年生で初めてクラスが一緒になって最初は普通だったのに、冬休みをすぎてから急にいじめてきた子だ。

「なんか佐藤鼻のくせに生意気ウザいとか流れてきたから、へーってたった一言送っただけなのにさ、それネットで流されて親呼び出し。イジメだとか言われてアホくさ」

「それだけじゃなかったでしょ! あの子たちと一緒に私を嗤ってた!」

 そこだけは譲れない。ネットに流したのは、拡散したのはともかく、私が流したのはたしかにいじめてきた子だけ。

「は? あんなのイジリじゃん」
「あれのどこがイジリよ!」
「イジリでしょ? 空気読めよ。イジリじゃなきゃ嫌なら嫌って言えば良かっただけ」

「言えるわけないでしょ⁉︎ 小学校の時言っても言っても何にも変わらなかった!」

 言ったらもっと酷くなる。ノリが悪い奴と言われもっと酷くいじめられる。ずっとそうだった。

 そうして私が泣き叫んでいると先生がやってきて割って入ってきて「ごめんなさいしたからもういいでしょ?」と言われるのは本当に嫌だった。そんなので言えるわけない。

「は? 小学校の時の話なんか知らないし。
 あの子達って小学校のってアレでしょ、第二小のバカ男子とブス女たちでしょ? 一緒にすんなよ。
 あー、相手がそう思えばイジメとかいうやつ? 勘弁してよ、そんなのその時どうやってわかるワケ? 後から言われたってどうしようもないんですけどー? さっさと言えよって感じ」

 木下美紅羅が、口を尖らせて嫌そうに言う。

 気持ち悪い。
 その言い方も考え方も開き直り方も。

 いじめだと思ってなかった?

 笑える。そんなのは嘘。

 たしかに初めは軽い気持ちだったかもしれない。つい、だったかもしれない。

 それでも、本当にずっとただ一人も気付かなかったなんて絶対に嘘。

 いじめだと指摘されて、それでも気付かなかったなんて、今考えてもあれはいじめじゃないなんて、保身以外に何があるの?

 私は胃液がせり上がってくるのを感じた。

 どうしたって私の気持ちは誰にもわかってもらえない。私は成人もしたのに、心はどこか、あの中学生の頃のまま。

 中学生だった私はどうすれば良かったの? あのまま大人しくいじめられてればよかったの? そうしたらお母さんもお父さんも死なずに済んだの?

 ──進学なんていい機会。いじめっ子のいない県外の高校でも行って自分のための勉強力一杯やって将来幸せになってそいつら見返してやればいい。

 そんなメッセージも見たけれど、当時の私はそんなの無理としか思えなかった。

 大人になった今ならそれも有りかもと思えるけど、当時の私は中学卒業と同時に家を出るなんて考えたこともなかったし、それほどいい成績でもなかった私にできるとは思えなかった。

 それにネットで誰が誰と繋がってるかも、わからない。どこへ行っても佐藤花は、いじめられ続けるだろう。

 だからいじめっ子たちを晒した。

「お陰であたしの推薦パア。でも一般でいける成績あったから余裕とか思ってたのに、私立、何でか全滅だし。ショックで公立失敗して、結局バカ高行きよ。
 パパとママは離婚するし、パパが浮気してたのなんてずっと前からなのに、あたしがイジメしたせいにされるし。冤罪もいいとこ。
 ま、もうどうでもいいけどね」

 どうでもよくなんかない。私の気持ちは

「そうだわ、断罪即死刑でお願いするわ。そうすれば私は転生するのが早くなって助かりますし。存分に自分で自分の功績ぶち壊しなさいな。

 でぇ、あとはフィオはハッピーエンド。あたしに感謝してよね」

 もう私の心はぐちゃぐちゃだ。結局、いじめやるやつなんて、私のことなんかどうでもいいんだ。本当にどうでもいいんだ。

 悔しくて悔しくて、私は木下美紅羅に掴みかかった。
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