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第5話・レイトンのライフはゼロ

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「…ビーストア家の伯爵子息は、私の妹の婚約者ですわ。」

キラキラと、シャンデリアの光できらめく黒曜石の瞳が、レイトン達を映していた。

「………は?」

レイトンが、やっとの思いで喉から、いや、足の指先から絞り出した言葉は、それだけだった。

レイトンの恋人ーーー名を、リリア・サエリーアと言うーーーいや、リリアは、この状況にただただ困惑するしかなかった。

「お、お前と、僕は、こん、」
「婚約者ではありませんわ。」

ぷるぷると、まるで生まれたての子鹿のように足と指先を震わせながら、血の気の失せた顔で問うてきたレイトンを、ライーナはバサッと切った。
いや、バサッではなくズバッと。

「貴方の、婚約者は、私の、妹です」

ライーナは、さらに追い打ちをかけた。

わかりますか?とでも言いたげに眉を歪ませて、小首をこてんとかしげ聞いてくる彼女は大層愛らしいが、そんなこの彼女に見惚れる気力すら、レイトン達には残っていなかった。

「そもそも、貴方はなんですか?婚約者でもない娘に婚約破棄を言い渡して」

プスッ。 
そんな音がレイトンの脳内に響いた。

「しかも、不貞を働いていた女性と一緒に」

ブスッ。

「知らない男性に婚約者と思い込まれていたなんて…」

グサッ。






「気持ちが悪いですわ」

形の良い眉を歪め、目尻を少し上げ、口許を引つらせて、まるで生ゴミでも見るかのような色を写した黒曜石の瞳で、レイトンを見据えた。


レイトンは、その場に膝をついた。


会場にいる貴族達の心は、再び一つになった。

ひでぇ…、と。

婚約者だと思っていた令嬢が実は婚約者の姉で、その婚約者の姉に婚約破棄をしたら気持ちが悪いと心を抉られる。
まあ、自業自得ではあるが、あの絶世の美少女に気持ち悪いと、生ゴミを見るような目で言われたら立ち直れまい。

「れ、レイトン君…っ!大丈夫?!」  

リリアがそこに駆け寄るが、その表情は頼りないと同時に、眉を下げる彼女は、この状況をあまり理解できていないようにも見える。

実際、リリアは困惑が勝っていた。

リリアの今の感情を一言で表すならこうだ。
なんで?と。


貴族達も、どこか同情した目でレイトン達を見ていると、会場の重々しい扉が開かれた。






















ーーー「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!」

なんとびっくり、今一番来てほしくない人物ーーーカレン・アバーストである。


     
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