5 / 9
第5話・レイトンのライフはゼロ
しおりを挟む「…ビーストア家の伯爵子息は、私の妹の婚約者ですわ。」
キラキラと、シャンデリアの光できらめく黒曜石の瞳が、レイトン達を映していた。
「………は?」
レイトンが、やっとの思いで喉から、いや、足の指先から絞り出した言葉は、それだけだった。
レイトンの恋人ーーー名を、リリア・サエリーアと言うーーーいや、リリアは、この状況にただただ困惑するしかなかった。
「お、お前と、僕は、こん、」
「婚約者ではありませんわ。」
ぷるぷると、まるで生まれたての子鹿のように足と指先を震わせながら、血の気の失せた顔で問うてきたレイトンを、ライーナはバサッと切った。
いや、バサッではなくズバッと。
「貴方の、婚約者は、私の、妹です」
ライーナは、さらに追い打ちをかけた。
わかりますか?とでも言いたげに眉を歪ませて、小首をこてんとかしげ聞いてくる彼女は大層愛らしいが、そんなこの彼女に見惚れる気力すら、レイトン達には残っていなかった。
「そもそも、貴方はなんですか?婚約者でもない娘に婚約破棄を言い渡して」
プスッ。
そんな音がレイトンの脳内に響いた。
「しかも、不貞を働いていた女性と一緒に」
ブスッ。
「知らない男性に婚約者と思い込まれていたなんて…」
グサッ。
「気持ちが悪いですわ」
形の良い眉を歪め、目尻を少し上げ、口許を引つらせて、まるで生ゴミでも見るかのような色を写した黒曜石の瞳で、レイトンを見据えた。
レイトンは、その場に膝をついた。
会場にいる貴族達の心は、再び一つになった。
ひでぇ…、と。
婚約者だと思っていた令嬢が実は婚約者の姉で、その婚約者の姉に婚約破棄をしたら気持ちが悪いと心を抉られる。
まあ、自業自得ではあるが、あの絶世の美少女に気持ち悪いと、生ゴミを見るような目で言われたら立ち直れまい。
「れ、レイトン君…っ!大丈夫?!」
リリアがそこに駆け寄るが、その表情は頼りないと同時に、眉を下げる彼女は、この状況をあまり理解できていないようにも見える。
実際、リリアは困惑が勝っていた。
リリアの今の感情を一言で表すならこうだ。
なんで?と。
貴族達も、どこか同情した目でレイトン達を見ていると、会場の重々しい扉が開かれた。
ーーー「お姉様ぁぁぁぁぁ!!!」
なんとびっくり、今一番来てほしくない人物ーーーカレン・アバーストである。
12
お気に入りに追加
3,630
あなたにおすすめの小説
お粗末な断罪シナリオ!これって誰が考えたの?!
haru.
恋愛
双子の兄弟王子として育ってきた。
それぞれ婚約者もいてどちらも王位にはさほど興味はなく兄弟仲も悪くなかった。
それなのに弟は何故か、ありもしない断罪を兄にした挙げ句国外追放を宣言した。
兄の婚約者を抱き締めながら...
お粗末に思えた断罪のシナリオだったけどその裏にあった思惑とは一体...
婚約破棄現場に訪れたので笑わせてもらいます
さかえ
恋愛
皆様!私今、夜会に来ておりますの!
どうです?私と一緒に笑いませんか?
忌まわしき浮気男を。
更新頻度遅くて申し訳ございません。
よろしければ、お菓子を片手に読んでくださると嬉しいです。
この婚約破棄は、神に誓いますの
編端みどり
恋愛
隣国のスーパーウーマン、エミリー様がいきなり婚約破棄された!
やばいやばい!!
エミリー様の扇子がっ!!
怒らせたらこの国終わるって!
なんとかお怒りを鎮めたいモブ令嬢視点でお送りします。
『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる
黒木 鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。
【完結】ああ……婚約破棄なんて計画するんじゃなかった
岡崎 剛柔
恋愛
【あらすじ】
「シンシア・バートン。今日この場を借りてお前に告げる。お前との婚約は破棄だ。もちろん異論は認めない。お前はそれほどの重罪を犯したのだから」
シンシア・バートンは、父親が勝手に決めた伯爵令息のアール・ホリックに公衆の面前で婚約破棄される。
そしてシンシアが平然としていると、そこにシンシアの実妹であるソフィアが現れた。
アールはシンシアと婚約破棄した理由として、シンシアが婚約していながら別の男と逢瀬をしていたのが理由だと大広間に集まっていた貴族たちに説明した。
それだけではない。
アールはシンシアが不貞を働いていたことを証明する証人を呼んだり、そんなシンシアに嫌気が差してソフィアと新たに婚約することを宣言するなど好き勝手なことを始めた。
だが、一方の婚約破棄をされたシンシアは動じなかった。
そう、シンシアは驚きも悲しみもせずにまったく平然としていた。
なぜなら、この婚約破棄の騒動の裏には……。
婚約破棄からの国外追放、それで戻って来て欲しいって馬鹿なんですか? それとも馬鹿なんですか?
☆ミ
恋愛
王子との婚約を破棄されて公爵の娘としてショックでした、そのうえ国外追放までされて正直終わったなって
でもその後に王子が戻って来て欲しいって使者を送って来たんです
戻ると思っているとか馬鹿なの? それとも馬鹿なの? ワタクシ絶対にもう王都には戻りません!
あ、でもお父さまはなんて仰るかしら
こんな不甲斐ない娘との縁を切ってしまうかもしれませんね
でも、その時は素直に従いましょう
義母たちの策略で悪役令嬢にされたばかりか、家ごと乗っ取られて奴隷にされた私、神様に拾われました。
しろいるか
恋愛
子爵家の経済支援も含めて婚約した私。でも、気付けばあれこれ難癖をつけられ、悪役令嬢のレッテルを貼られてしまい、婚約破棄。あげく、実家をすべて乗っ取られてしまう。家族は処刑され、私は義母や義妹の奴隷にまで貶められた。そんなある日、伯爵家との婚約が決まったのを機に、不要となった私は神様の生け贄に捧げられてしまう。
でもそこで出会った神様は、とても優しくて──。
どん底まで落とされた少女がただ幸せになって、義母たちが自滅していく物語。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる