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ワクワク☆ドキドキ♡始まりへの船旅編

第20話・ベットの下の子供

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ーーーアルベルトは、船内でキョロキョロとエミリアを探しながら、昔のことを思い出した。

そうだ、確か、あの時だ。
アルベルトが、ひどく少女に心惹かれたのは。

いや、思えば初めから惹かれていたのかもしれない。

幼い少年心が照れくさくて、それを否定したのかもしれない。
もしくは、あの公爵家の少年が恐ろしくて、気づかないフリをしたのかもしれない。

だが、アルベルトは知っている。
あの少年は、エミリアのことをこの世で最も尊く清いもののように語っていたが、実際は違う。

ーーーあの少女は、もっと凄惨で、蟲惑的な、魔性の少女だ。
皆気づいていないーーーいや、気づかないようにしているだけ。
あの少女は、恐ろしくて可憐で、愛らしく残酷に、魂を捉えて離さない。

アルベルトは、フッと目を伏せ、ドアを4回ノックした。

すぐに返事か返ってきて、ドアが開く。

深層を覗くような、透き通ったグリーンアイが見開かれた。
すぐさま恭しく礼をした少女に、真っ先に自分は頭を下げた。

「すまなかった…。こんなことに、なるとは思っていなかった。きみのご両親にも、謝らないと、いけない…」

自分が思っていたよりもよっぽど惨めで、言い訳がましい言葉が出てきた。
アルベルトは、弱々しい己の声に苛立ちを覚え、ぐっと唇を噛みしめる。

「…頭をお上げになってください。確かに、今回のことは全面的に、そちら側に非があった。」

エミリアは、不敬を承知で言った。
彼は元自国の王子であり、これから世話になる国の王族関係者だ。

それでも、彼の言葉が王族としてではなく、一人の恋に溺れた少年の謝罪だと思ったからこそ、こうして真剣に言葉を交わそうと、そして許しはしないと決意を固めていた。

「私は、あなたのことを許すつもりは毛頭ない。そして、こちらに引き入れるつもりも、想いを成熟させるつもりもありません。」

アルベルトは、年甲斐もなく泣き出したくなった。

ーーー胸からは、失恋の音がした。

「ですが、私は貴方の謝罪を受け入れます。許しはしない。けれど、謝罪をする気持ちと事実は、確かに私が認めます。」

ーーー貴方に、此方から関わりはしません。
だけど、貴方も哀れなベットの下の子供だから。

ーーー愛に餓えているのは、貴方だけではないわ。


そう言って、エミリアは笑った。
エミリアは、可愛そうな彼を哀れんでいた。多分、愛に餓えていただけだ。愛に餓えたあまり、身分目当ての婚約者、構わない母、あの・・父親、兄は知らないが、寡黙な方だったと思う。きっと、愛を伝えることはなかったはずだ。そんな周りに疲れて、聖女だと持て囃された私にすがりついてしまった。

エミリアは、青い瞳を見つめ、さらに深く微笑んだ。


ーーーああ、あの笑みだ。
魅惑的で、魂を捉えて放さない、残酷なまでに美しい笑み。

アルベルトは、いつも心配そうに眉を下げる、淡泊な兄を思い出した。
激務に追われる、美しい桃色の母を思い出した。


その二人は、確かに自分の家族だった。

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