25 / 50
第六章 前哨 岡原署の島課長
しおりを挟む
署に戻ってきた和真は、その場にいた北山仁司に声をかけた。
「あ、仁さん、芝浦借りていいですか?」
「おう、いいぞ。どんどん持ってけ。おい、芝!」
呼びかけられた芝浦が、いそいそとやって来る。和真の姿を見るなり、芝浦は軽口を叩いた。
「なんですかあ? やっぱりペアのオレの事、恋しくなっちゃいました?」
「お前の尻ふきをしなくいいんでホッとしてるとこだよ」
「またまた~、で、なんです?」
「お前、岡原の風俗行って来い」
「え、佐水部長のオゴリですか?」
急に嬉しそうな声を出す芝浦に、和真は呆れ顔を見せた。
「バカ、潜入捜査だよ。彼女を探してほしいんだ」
和真はそういうと、スマホに相馬由美からもらった写真を出して見せた。芝浦のスマホにそれを転送する。
「おぉ、凄い美人ですねえ。この子を探すんですね」
「西村の元カノ李蓮花だ。岡原二丁目の『メイユエ』にその子がいるかどうか、確認するだけだ。接触はするな」
芝浦は頷きながらも、和真に質問した。
「けど、佐水部長、どうして自分で行かないんです?」
「俺は相手に面が割れてる可能性があるからな、頼んだぞ」
「わっかりましたっ!」
気合だけは十分な敬礼をする芝浦に、和真は苦笑した。
駆けだす芝浦を見送ると、北山が和真に言った。
「あいつ、勢いだけはいいんだがな…ところで、あんまり出張ると、向うもいい気しないぞ」
「あ、俺、岡原の島さんと仲いいんですよ。柔道仲間です」
「おお、あのゴリラな」
仁は愉快そうに笑った。
一時間ほど後、芝浦から連絡があった。
「佐水部長、いました李蓮花」
「いたか。しかしお前、連絡速いな。本当に店に入ったのか?」
「入りましたよ~、それで指名表を舐め回すように見たんです。で、『ちょっとすいません、銀行行ってきます!』って言って出てきました」
「なんだ、お楽しみはせずか」
仁がニヤニヤしながら言った先で、今日子がじろりと睨む。その仁の言葉を聞いて、芝浦が声を上げた。
「え、もしかして、経費で落ちたんですか? しまった~!」
「馬鹿、んなワケあるか。戻ってこい」
和真は苦笑してそう言った後、すぐに真顔に戻った。
「ちょっと岡原まで行ってきます。中条、行くぞ」
「はい!」
車に乗り込んだ和真に、今日子は訊ねた。
「和真先輩、何処行くんですか?」
「岡原署だ」
「警察? 店へ行って、李蓮花さんを引っ張って来るんじゃないんですね?」
和真はハンドルを握りながら、苦笑して見せた。
「テリトリーってもんがあるからな。岡原のテリトリーを勝手に荒らしちゃいけないんだよ。その前に、仁義切っとかないと」
「なんか、昔のヤクザ映画みたいですね。見たことないけど」
今日子はそんな事を口にした。
ほどなくして岡原署に着いた和真は、席に座るいかつい男の元へと近づいていった。
「島さん」
「おう、和真かどうした、こんな処まで来て。遊びに来たのか? ……ん?」
立ち上がった島は、和真をはるかに凌ぐ巨漢である。顔も大きくごつごつとしており、眉も太い。髪を角刈りにした島の風貌は、暴力団の人間と言われても、まず納得するものであった。
その島が、後ろについて来ている今日子に気付いた。
「どうした、その嬢ちゃんは?」
「中条今日子です。今日子ちゃんて呼んでください!」
「…お前、ほんと物おじしない奴だな」
和真が呆れたように呟く。目を丸くしている島に、和真は軽く言った。
「あ、こいつはキャリアの警部です。一応」
「和真先輩の下で、勉強してます!」
「そ、そうか……色々、大変だな」
島が困惑の色を見せながら、そう返した。
「こちらは岡原署の刑事組織犯罪対策課、島幸秀課長だ」
「え、課長さんなんですか?」
今日子が驚いた顔を見せると、和真の方に視線を向けた。
「和真先輩、課長さん相手に随分、気安くないですか?」
「なにせ、こいつには結構投げられてるからな」
島が親指で和真を指しながら、苦笑して見せる。今日子はまた驚いた。
「え! 和真先輩……この大きい人を投げるんですか?」
「たまにな。島さんだって、相当強いぜ」
こともなげに言う和真に苦笑しつつ、島は口を開いた。
「それで、どうしたんだ?」
「いや、実は一人引っ張りたいのがいて。島さんに許可もらっとこうと思って」
「そうか、何処の店だ?」
「『メイユエ』って店の、中国娘なんですけど」
店の名前を出すと、島の顔が変わった。
「『メイユエ』? お前、それは駄目だ」
「え? どうしてですか?」
島は黙って、周りを見回す。よく見ると、岡原署内部は、少し落ち着きなく動いていた。
「明日の夕方、そこはガサの予定だ」
「ガサ入れ? どういう店なんですか?」
「まあ、ちょっとこっち来い」
島は席を立つと、二人を別席に呼んだ。テーブルを囲むと、島は話を始める。
「『メイユエ』は月龍会が仕切る風俗店だが、ここでは違法薬物を使ってクスリ漬けにした娘を働かせている実態があった。その娘たちの中には、日本語が通じない中国や台湾、東南アジアから連れてこられたらしい娘も混じっていたんだ。月龍会がさばいている薬の供給元がいる事を考えても、月龍会のバックに外国の組織がいるだろう事は判っていた。それで一年かけて、潜入捜査官を送り込んで、内部の情報を探った」
「――それが、『牙龍』だった」
和真の言葉に、島は驚いた顔をした。
「…お前、なんでそれを知ってる?」
「いや、今追ってるヤマに関連してるんですよ。それで?」
「『牙龍』は国際的な活動をしてる新進のマフィアだった。人身売買や薬物取引等、まあいわずとしれたもんだ。月龍会はこの牙龍の日本の別店みたいなもので、暴対法で行き場を失った連中を一手に囲ったらしい。その牙龍から来る麻薬が明日届く。その取引の場所が『メイユエ』だ」
「なるほど……それで、明日までは待ってくれって事ですね」
「しかし、お前は何だってそこから中国娘を引っ張ろうとしてる?」
「重要参考人なんですよ。しかし今の話しだと……娘もクスリ漬けで無理に働かされている可能性が高いな…」
和真は渋い顔をして見せた。が、すぐに何かを思いついて島を見た。
「そうだ島さん、ガサに協力しますよ」
「なに?」
「そうだな、岡原と王日の合同捜査って事で。こっちからはイキのいいの――俺と芝浦、あと平さんあたりを連れてきますよ。どうです?」
「相手が相手だから援軍は心強いが――いいのか?」
「俺が掛け合っときますよ」
和真が笑うと、島はごつい顔に笑顔をつくってみせた。
「お前がいれば相当の戦力だ。よろしく頼むな」
「了解です」
和真は頷いて見せた。
車に戻ると、今日子は感心したように口にした。
「和真先輩って、本当に凄いですねえ…」
「あ? いや、柔道場なんてゴツくてデカい奴ばかりだよ。いやでも慣れるさ」
「いえ、それもありますけど…よその署に顔がきくなんて、そういう人脈が凄いなあって」
今日子に向かって、和真はなんでもないように答えた。
「人脈なんてもんじゃないよ。ちょっと仲いい人がいるだけさ」
「そういう、下心のない感じがいいんでしょうね……」
今日子の呟きをよそに、和真は携帯の着信に気付いた。
「はい、佐水」
「佐水、西村の母親が病院に来ているそうだ。面会して、お悔やみ申し上げろ」
「了解。あ、課長。明日の夕方に、岡原はガサ入れするそうです。うちの方から俺と芝、平さんで行っていいですか?」
和真はそう言った。電話の向こうで、多胡課長が一瞬黙る。
「…お前、もう請け合ってきたんだろ」
「そうですけど。いや、捜査に必要なことですよ。それに隣同士、警察も助け合わないと」
「仕方ない奴だな。こっちからも、向うに挨拶しておく」
「ありがとうございます!」
和真は笑顔で電話を切った。
「和真先輩って、本当に凄いですね……」
「ん? 何が?」
感心する今日子に、和真は気にもしない様子でハンドルを切った。
「あ、仁さん、芝浦借りていいですか?」
「おう、いいぞ。どんどん持ってけ。おい、芝!」
呼びかけられた芝浦が、いそいそとやって来る。和真の姿を見るなり、芝浦は軽口を叩いた。
「なんですかあ? やっぱりペアのオレの事、恋しくなっちゃいました?」
「お前の尻ふきをしなくいいんでホッとしてるとこだよ」
「またまた~、で、なんです?」
「お前、岡原の風俗行って来い」
「え、佐水部長のオゴリですか?」
急に嬉しそうな声を出す芝浦に、和真は呆れ顔を見せた。
「バカ、潜入捜査だよ。彼女を探してほしいんだ」
和真はそういうと、スマホに相馬由美からもらった写真を出して見せた。芝浦のスマホにそれを転送する。
「おぉ、凄い美人ですねえ。この子を探すんですね」
「西村の元カノ李蓮花だ。岡原二丁目の『メイユエ』にその子がいるかどうか、確認するだけだ。接触はするな」
芝浦は頷きながらも、和真に質問した。
「けど、佐水部長、どうして自分で行かないんです?」
「俺は相手に面が割れてる可能性があるからな、頼んだぞ」
「わっかりましたっ!」
気合だけは十分な敬礼をする芝浦に、和真は苦笑した。
駆けだす芝浦を見送ると、北山が和真に言った。
「あいつ、勢いだけはいいんだがな…ところで、あんまり出張ると、向うもいい気しないぞ」
「あ、俺、岡原の島さんと仲いいんですよ。柔道仲間です」
「おお、あのゴリラな」
仁は愉快そうに笑った。
一時間ほど後、芝浦から連絡があった。
「佐水部長、いました李蓮花」
「いたか。しかしお前、連絡速いな。本当に店に入ったのか?」
「入りましたよ~、それで指名表を舐め回すように見たんです。で、『ちょっとすいません、銀行行ってきます!』って言って出てきました」
「なんだ、お楽しみはせずか」
仁がニヤニヤしながら言った先で、今日子がじろりと睨む。その仁の言葉を聞いて、芝浦が声を上げた。
「え、もしかして、経費で落ちたんですか? しまった~!」
「馬鹿、んなワケあるか。戻ってこい」
和真は苦笑してそう言った後、すぐに真顔に戻った。
「ちょっと岡原まで行ってきます。中条、行くぞ」
「はい!」
車に乗り込んだ和真に、今日子は訊ねた。
「和真先輩、何処行くんですか?」
「岡原署だ」
「警察? 店へ行って、李蓮花さんを引っ張って来るんじゃないんですね?」
和真はハンドルを握りながら、苦笑して見せた。
「テリトリーってもんがあるからな。岡原のテリトリーを勝手に荒らしちゃいけないんだよ。その前に、仁義切っとかないと」
「なんか、昔のヤクザ映画みたいですね。見たことないけど」
今日子はそんな事を口にした。
ほどなくして岡原署に着いた和真は、席に座るいかつい男の元へと近づいていった。
「島さん」
「おう、和真かどうした、こんな処まで来て。遊びに来たのか? ……ん?」
立ち上がった島は、和真をはるかに凌ぐ巨漢である。顔も大きくごつごつとしており、眉も太い。髪を角刈りにした島の風貌は、暴力団の人間と言われても、まず納得するものであった。
その島が、後ろについて来ている今日子に気付いた。
「どうした、その嬢ちゃんは?」
「中条今日子です。今日子ちゃんて呼んでください!」
「…お前、ほんと物おじしない奴だな」
和真が呆れたように呟く。目を丸くしている島に、和真は軽く言った。
「あ、こいつはキャリアの警部です。一応」
「和真先輩の下で、勉強してます!」
「そ、そうか……色々、大変だな」
島が困惑の色を見せながら、そう返した。
「こちらは岡原署の刑事組織犯罪対策課、島幸秀課長だ」
「え、課長さんなんですか?」
今日子が驚いた顔を見せると、和真の方に視線を向けた。
「和真先輩、課長さん相手に随分、気安くないですか?」
「なにせ、こいつには結構投げられてるからな」
島が親指で和真を指しながら、苦笑して見せる。今日子はまた驚いた。
「え! 和真先輩……この大きい人を投げるんですか?」
「たまにな。島さんだって、相当強いぜ」
こともなげに言う和真に苦笑しつつ、島は口を開いた。
「それで、どうしたんだ?」
「いや、実は一人引っ張りたいのがいて。島さんに許可もらっとこうと思って」
「そうか、何処の店だ?」
「『メイユエ』って店の、中国娘なんですけど」
店の名前を出すと、島の顔が変わった。
「『メイユエ』? お前、それは駄目だ」
「え? どうしてですか?」
島は黙って、周りを見回す。よく見ると、岡原署内部は、少し落ち着きなく動いていた。
「明日の夕方、そこはガサの予定だ」
「ガサ入れ? どういう店なんですか?」
「まあ、ちょっとこっち来い」
島は席を立つと、二人を別席に呼んだ。テーブルを囲むと、島は話を始める。
「『メイユエ』は月龍会が仕切る風俗店だが、ここでは違法薬物を使ってクスリ漬けにした娘を働かせている実態があった。その娘たちの中には、日本語が通じない中国や台湾、東南アジアから連れてこられたらしい娘も混じっていたんだ。月龍会がさばいている薬の供給元がいる事を考えても、月龍会のバックに外国の組織がいるだろう事は判っていた。それで一年かけて、潜入捜査官を送り込んで、内部の情報を探った」
「――それが、『牙龍』だった」
和真の言葉に、島は驚いた顔をした。
「…お前、なんでそれを知ってる?」
「いや、今追ってるヤマに関連してるんですよ。それで?」
「『牙龍』は国際的な活動をしてる新進のマフィアだった。人身売買や薬物取引等、まあいわずとしれたもんだ。月龍会はこの牙龍の日本の別店みたいなもので、暴対法で行き場を失った連中を一手に囲ったらしい。その牙龍から来る麻薬が明日届く。その取引の場所が『メイユエ』だ」
「なるほど……それで、明日までは待ってくれって事ですね」
「しかし、お前は何だってそこから中国娘を引っ張ろうとしてる?」
「重要参考人なんですよ。しかし今の話しだと……娘もクスリ漬けで無理に働かされている可能性が高いな…」
和真は渋い顔をして見せた。が、すぐに何かを思いついて島を見た。
「そうだ島さん、ガサに協力しますよ」
「なに?」
「そうだな、岡原と王日の合同捜査って事で。こっちからはイキのいいの――俺と芝浦、あと平さんあたりを連れてきますよ。どうです?」
「相手が相手だから援軍は心強いが――いいのか?」
「俺が掛け合っときますよ」
和真が笑うと、島はごつい顔に笑顔をつくってみせた。
「お前がいれば相当の戦力だ。よろしく頼むな」
「了解です」
和真は頷いて見せた。
車に戻ると、今日子は感心したように口にした。
「和真先輩って、本当に凄いですねえ…」
「あ? いや、柔道場なんてゴツくてデカい奴ばかりだよ。いやでも慣れるさ」
「いえ、それもありますけど…よその署に顔がきくなんて、そういう人脈が凄いなあって」
今日子に向かって、和真はなんでもないように答えた。
「人脈なんてもんじゃないよ。ちょっと仲いい人がいるだけさ」
「そういう、下心のない感じがいいんでしょうね……」
今日子の呟きをよそに、和真は携帯の着信に気付いた。
「はい、佐水」
「佐水、西村の母親が病院に来ているそうだ。面会して、お悔やみ申し上げろ」
「了解。あ、課長。明日の夕方に、岡原はガサ入れするそうです。うちの方から俺と芝、平さんで行っていいですか?」
和真はそう言った。電話の向こうで、多胡課長が一瞬黙る。
「…お前、もう請け合ってきたんだろ」
「そうですけど。いや、捜査に必要なことですよ。それに隣同士、警察も助け合わないと」
「仕方ない奴だな。こっちからも、向うに挨拶しておく」
「ありがとうございます!」
和真は笑顔で電話を切った。
「和真先輩って、本当に凄いですね……」
「ん? 何が?」
感心する今日子に、和真は気にもしない様子でハンドルを切った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる