書きの種(エッセイ日記)

可愛さとは？

藤子・Ｆ・不二雄先生の短編に『かわい子くん』という作品がある。この作品自体が、「可愛さとは何か？」という事をテーマにした作品なのだが、それはともあれ、この作品に出てくるヒロイン、松戸彩子が非常に魅力的だと思うのだ。

なんか可愛くないパーマで、四角い眼鏡をかけていて上背が高い。もう、本当に外見だけでいえば美女とは言えない、よくも悪くも女っぽくない外観。けどこのヒロインは医学部を中退してニューギニアの小さな病院を手伝ってたところから帰国したばかりなのだった。

それで背が低くて丸顔の冴えない外見の主人公と知り合う。会った瞬間からズバズバとものを言って、主人公が美少女に片恋してるのを揶揄したりする。そこでこの彩子は、「可愛さってそもそも何？」と考察を始めるのだ。

実は藤子先生の作品は、ＳＦ考証を解説するシーンも結構多いのだが、女性がその理屈を語るというのは意外に少ない。これはその非常に珍しいケースなのだが、彩子は動物は全てパターン認識をしており、「可愛い」と感じさせる要素も限定されているという話しをするのだ。

この考察自体も『ドラえもん』のような傑作を生み出した元になってると思うと非常に興味深いものがあるが、ここでは割愛しておく。僕はこの、「考察するヒロイン」が非常に気に入った。こざっぱりして、化粧っ気がない感じもいい。眼鏡っこなのでヒイキしてるわけでは……ちょっと、ある。

けど、この松戸彩子の魅力は、つまるところ人間としての魅力なのだ。些細な事や、見た感じの印象、常識などに囚われず、自分の生き方・考え方、感じ方をしっかりもってる。そこが魅力なのだ。

この松戸彩子に限らず、藤子先生のヒロインというのは、しっかりした芯を持ってる女性が多い。しずかちゃんは、その象徴的なキャラだろう。あ、長編のキャラとしては、僕は佐倉魔美がとにかく好きなのだけど。

まあ、「萌え」という概念がすっかり定着したご時世で、こんな話をするのも何だという感じはするが。ただ、キャラの魅力、そして可愛さってものを考える時、僕はふとこの『かわい子くん』を想い出すのだ。