レナルテで逢いましょう

佐藤遼空

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第11章トゥルー・ソード  リスティたちのリアル

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 雪人からもらったフックを使い、僕は移動した。
 そこは広い体育館のような場所だった。集まった人々が、僕の顔を見て驚く。その多くが、中東系の顔だ。
「誰だ?」
「どうやって、此処に来た?」
 僕は制するように、片手を上げた。
「待って下さい。僕は相良雪人の代理で来た者です。リスティとグレタに会いに来ました」
 僕の言葉を聞くと、髭面の男たちが顔を合わせる。その向こうから、一人の少女が姿を現した。
「ユキの代理だって?」
 現れた少女は眼鼻がくっきりとした濃い顔立ちの少女で、まだ若く17、8歳くらいに見えた。服の上からでも判るくらい細身で、その左脚は膝の下から無くなっている。少女は、杖をついて歩いていた。

「…君が、リスティ?」 
 少女が怪訝な顔をする。と、すぐに目を見開いた。
「まさか…キアラなの?」
 僕は頷いた。さらに奥から、もう一人の女性が現れる。こちらは40代後半くらいだが、ボブにした黒髪の半分が白くなっていた。
「此処で私たちと会うとはね」
 その口調で察した。この年配女性が、グレタだった。

「ーーユキが…死んだ?」
 別室で、ここに来るまでの経緯を話すと、リスティは驚きの声ををあげた。僕は黙って頷いた。
「うそ……」
 リスティが涙ぐむ。それを見ると堪えきれず、僕の眼からも涙が零れた。
「キアラの言う事だから、本当なんだろうね…」
 グレタも憂いの表情で、ため息をついた。
「けどキアラがグラードだと知った時から…少し予感はしてたよ。もしかしたら、こっちで会うんじゃないかって」
 グレタはそう言った。
「君たちは、雪人がサガだって知ってたのかい?」
「ううん。けど、ユキは初期は、凄い額の援助金を出してくれたの」
 リスティはそう言った。少しノワルドの面影があるだろうか。けど、グラマラスな女剣士とは、まったく見かけが違う。

「僕と雪人は…大学の友人だったんだ。だけど、雪人がリベレイトに関わってるなんて、全く知らなかった。…どうして彼が、君たちの支援を始めたのか、聴いてるかい?」
「ユキは、自分を同性愛者だって言ってたよ。私たちと同じでね」
 そう答えたのは、年配女性のグレタだった。
「けど家族にも友人にも、そして好きな相手にも告白してないと言っていた。そんな中、同性愛者というだけで死刑にされるNISの事をニュースで知ったらしい。それが気になって調べてるうちに、私たちの置かれてる状況を知った」
 僕は神妙な気持ちで話しを聞いた。リスティが、努めて明るい声を出す。
「ノワルドのリスティみたいにお色気が無くてごめんね」
「いや…そんな事は」

「あたしは12歳の時、地雷を踏んで片足が無くなった。けど、そのおかげで、あたしはNISの男たちの奴隷にならずに済んだの。わたしの同じ年くらいの女友達は…男たちの奴隷として、13、4歳頃には、みんないなくなってしまった。あたしがミラリアでも片脚を無くしたままなのは、その子たちを忘れないため」
「私は隠れていたビルが爆撃されて、頭が半分無くなりかけたの」
 リスティに続いて、グレタが話し出した。
「なんとか命を取り留めたけど…その傷跡からは白髪しか生えなくなった。私は…面倒だから、スキャンされたままにしてるだけだけど」
 二人の命のかかった話に、僕は驚くしかなかった。

「16歳の時、あたしはグレタに助けてもらってNISを脱出したの。あたしは自分がレズビアンだって判ってたけど…到底言えなかった。言えば死刑にされるから。NISでは同性愛を認めてない」
「それどころか、女にはあらゆる権利を禁じてるわ。携帯電話を持つ自由、髪や素肌を出す自由、好きな相手を選ぶ自由、それに…教育を受ける自由」
 グレタの後に、リスティが言葉を続けた。
「中には女性がスカーフで髪や顔を隠すのは、男たちの好色な目線を避けるのに役立つ、と言って擁護する女性もいる。けど、あたしたちは、スカーフを巻いても巻かなくてもいい自由が欲しいの。それが他国では当たり前に許されてるという事実を知る、教育を受けたいのよ」
 リスティの眼に、強い光が宿っている。そのために彼女たちは戦い続けてきたのだろう。
「私はせめてNISにいる女の子を助けたいと活動して来た。けど、その脱出にもお金はかかる。NISを運よく脱出できても、その後、外国での生活費用だとか色々な面でお金はかかるの。そこへユキは1億や2億レナルをいきなり出してくれたから、とても助かったわ。最初は罠じゃないかと疑ったくらい」
 グレタは苦笑してみせた。

「多分、サガとして稼いだお金だね。雪人は使い道がないって笑ってたけど…君たちの役に立てたんだ」
 リスティは頷いた。
「けど本人が現れて、リベレイトに参加すると言い出したの。もう貯金はないからって。実はあたしたちがノワルドに参加するようになったのは、ユキのアイデアなのよ」
「そうだったのかい?」
「君たちがノワルドで、直接資金を稼ぐこともできる…って言って、色々教えてくれたの」
「それにノワルドでの活動は、つらい現実を忘れる息抜きにもなったしね」
 グレタは微笑して見せた。

「けどユキはそれ以外にも、とても重要な働きを見せてくれたわ。色々な情報を入手して、NISの動向を調べるのにとても重要な働きをするようになったの。私たちの活動は、ユキのおかげで格段に向上した」
 そうだったのか、雪人…。君はスカイ・エンダーの力を、この人たちのために使ってたんだ。
「前にね…ちょっとだけ、ユキが自分の好きな人の事を話してくれたよ。ちょっと見、女の子っぽいけど、頭が良くて芯が強い、優しい人だって。キアラの事なんでしょ」
 リスティはそう言って、少し泣きながら笑ってみせた。僕は首を振る。
「それはみんな、雪人に言える事だよ……。僕にはそんな資質も資格もない。それで…死ぬ前に、これを君たちに渡してくれと頼まれたんだ」
 僕はそう言って、メモリーを渡した。グレタが手に取ると、PCに差し込む。

「これは……サマナ大統領の行動計画表。来日やレナルテ・サミットの日程の詳細よ」
「NISは、サマナ大統領の行動計画を熟知している?」
 僕はグレタの顔を見た。グレタが流し目をよこす。
「NISはサマナ大統領来日に合わせて…何かを企図している」
「許せないわ、そんな事。今回のサミットは差別の撤廃を世界的に公表するもの。主要国が同意した後、イスラム圏を含んだ国際会議で、同じ宣言が採択される見通しだわ。サマナ大統領は熱心なその推進者よ。あたしたちだって、応援している」
「だからこそ、邪魔なんだろうねえ。…もう一つファイルがある。これはーー民間軍事会社アームド・スペルと取引がある個人や企業。国の名簿だ。つまり、アームド・スペルを通してNISを支援してる連中という事になる。これは凄いわ。これを公表したら、表だってはNISとの関係を否定していた連中が、世界の非難に晒されることになる」
「雪人が命懸けで入手して来たデータが……これだったのか…」
 僕は切ない想いをかみ殺して、画面を睨んだ。
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