レナルテで逢いましょう

佐藤遼空

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サミット発表

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 ケイトに呼ばれて行ったのは、夜景の見えるバーだった。かなりの高層ビルの一角にあるようで、窓から都市の夜景が見下ろせる。とはいえ、レナルテの店だ。それにしても、誰の趣味だろう。
窓際から少し離れた白のテーブルに、ケイトと国枝が待っていた。細身のスーツ姿の国枝の前に、眼が冴える程の赤いドレスのケイト。二人は向かい合わせに座っている。
「……なんか、凄くその場に入りづらいんですけど」
「なんで?」
 ケイトが何でもないように訊く。
「美男美女の席に、邪魔しに行くようで」
「くだらないこと言ってないで、座りなさい」
 促されて、僕は渋々席に着いた。

「あの場には今までにない規模でバグ・ビーストが現れたみたいよ。けど、相当な数を駆除したみたい。デリーターも総動員されたらしいけど、グラードがかなり倒したみたいね」
 ケイトが横目を流してくる。なんか胸元が開いたドレスを着て、口紅も赤いせいか色っぽい。なんだ、この雰囲気に合わせたのか、国枝に合わせたのか?
「あの直後、姿が見えませんでしたが?」
 国枝が問いかける。やはり、誤魔化しきれそうもない。
「実は、サガに会いました」
「ーーそれで、何か判ったの?」
「まず、サガがアンジェラではない事、ですね。サガは電子涅槃教、デジタル・ニルヴァーナの教祖としてのアンジェラを追ってたんです。これについて、何か知ってますか?」
 僕は国枝を見た。国枝は中指で少し眼鏡を直すと、口を開く。

「聴いたことがありますね。別の班が追ってる、ネット界の新興宗教団体です。教祖がアンジェラという名だとは知りませんでしたが……少し、仲間の方から情報を貰ってみましょう」
「あと、元AMGの技術管理官、アリ・モフセンって男が、NISにいるって言ってましたね。犯罪組織のフォッグは、NISと提携をしているとも」
「まあ、それは判ってた事ではあるけど……。そのモフセンが、このバグ・ビースト騒ぎの元凶なのかしら?」
「それはなんとも……ただ、サガはアンジェラがくれた写真を知ってました」
 僕はアンジェラが写った写真を出してテーブルに置く。
「真ん中のアンジェラは、レナルテ創始者のアンディ・グレイ、剣士は天城広河で、魔導士がジェイコブ・レインだそうです」
「ジェイコブ・レイン? B―Rainの社長の?」
「ええ」
 国枝が僕の言葉を受けて、少し考える。

「確か……三人は共同開発関係であるとともに、友人だったはずですね…。これはいつの写真なんですか?」
「ベータ版のテスト前、ノワルドが発表された時のものみたいです。だから2033年、もうーー10年くらい前のものですか」
「アンディ・グレイの自殺前、という事ですね。あの当時は、非常に大きなニュースになりました」
 やっぱり、見た感じは若いけど、国枝さんてそれなりの年齢だ。僕は10代だったので、まったく社会のニュースなどには興味がなかった。
「どうしてアンディ・グレイは自殺したんです?」
 国枝が指でウインドウを開く。少しスクロールさせているが、なかなか決定的な情報は出てこないらしい。
「詳細の死因については報道はされてませんね。自殺、とだけ報道されてる。アメリカの警察も、事件性はないと判断してます」

 アンジェラは、『わたしを探して』と言っていた。あれはどういう意味だったのか。
「それを調べる術はないんですか?」
「……ジェイコブ氏を訪ねてみますか?」
 国枝の発した言葉に、僕は少なからず驚いた。
「そんな事できるんですか?」
「ええ。ジェイコブ氏は日本のB―Rain本社にいるはずですからね。アポを取れば会えるでしょう」
「日本の警察の力で、算段つけて」
 ケイトの言葉に、国枝は苦笑した。

「そんな権力をかさにきるような真似はできない国ですよ。色々とコンプライアンスがうるさいんですから。けど、そちらの方はなんとかしましょう」
「頼みます。……なんか、そこにヒントがある気がするんです」
「ふむ……実は貴方がいない間に、大きな発表が会ったんですが、それとも関係するのかもしれない」
 国枝の言葉を受けて、ケイトが口を開いた。
「サミットの会場が、『ノワルド』にあることが発表されたのよ」
 一瞬、意味が判らなかったが、僕は驚きの声をあげた。
「えっ! あ、あの新エリアにですか?」
「そう。新エリアにハーフムーン湖というのがあるのだけど、その湖畔にハーフムーン城という城が建っている。その城が初のレナルテ・サミットの会場だと、発表があったのよ」

「実はそれに合わせて、もう一つの発表がありました」
 国枝が今度は言葉を継ぐ。
「アメリカ大統領サマナ・グリーンは、サミットの前日に来日するそうです」
「え? レナルテでのサミットなのに?」
「日本とは特別の関係である事をアピールするようですね。おかげで今、日本の警備部は大慌てですけど」
 国枝が苦笑して見せる。アメリカの大統領ともなれば、警察の警備も相当厳重なものになるのだろう。
 騒がしくなるな、とふと思った。

    *

 ホームボックスに戻ると、メールが来ていた。有紗からだ。
『大丈夫? 戻ったら連絡してね』
 心配してくれてるのか、なんて可愛いんだ。僕はすぐ返信した。
『今、戻ったよ』
 すぐに電話が鳴る。僕はウィンドウを開きながら、ワンコール待たずに出た。
「明くん、大丈夫だったの?」
 画面に映る有紗が、心配そうな顔で覗き込んでいる。僕はその可愛らしさに見惚れながらも、表情には出さずに言った。
「大丈夫だよ、何も心配ない」
「ねえ、今からそっちに行くね」
「来てもいいけど、ぽめらは止めてね」
「もう、判ってるってば」
 有紗は一つ微笑むとウィンドウから消えた。僕はホームボックスから、自分の部屋のデジタルツインに移る。ほどなく、有紗のミラリアが現れた。

「明くん!」
 有紗が抱き着いてくる。僕はその身体を抱きしめた。
「どうしたの?」
「だって、心配したんだよ。明くん、なんか変身しちゃうし、いなくなっちゃうし、帰ってこないし……」
「ごめんごめん。もう大丈夫だから」
 僕は有紗を促してソファに腰かけながら、逆に有紗に訊ねた。
「有紗の方は大丈夫だった? ぽめらのアバターに傷はない?」
「うん、大丈夫だった。だって、明くんが守ってくれたんだよね?」
「ああ、うん、まあ……」
 有紗が無言で、僕の胸に頭を預けてきた。僕はその頭を、優しく抱き寄せる。と、有紗が頭を離して、こちらに目線を向けた。

「ね? あの変身した剣士も明くんなんだよね?」
「ああ、そうだけど」
「あっちはキアラじゃないんだよね。なんで二人いるの?」
「あっちの剣士の方が、昔使ってたキャラなんだよ」
「へー、そうなんだ。ねえ、あの黒いのはモンスターだったの?」
「違う。あれはバグ・ビーストって言って、最近ノワルドに現れてるバグなんだ。僕はAMGから頼まれて、あのバグ・ビーストに関する調査をしてて、ケイトさんはAMGからのエージェントなんだ」
 僕は多少、事実と異なる部分はあるが簡単に説明をした。
「そうなんだ。じゃあ、あれもお仕事の中だったのね」
「まあ、そんなとこだね。仲間とエリア攻略するのは、仕事じゃないんだけどーーちょっと線引きが難しいね」
 言いながら、我ながら苦笑が出た。仕事でも遊びでもレナルテに入り浸りだ。

「わかるぅ。なんかぽめらになってから、それが仕事なのかプライベートなのか、ちょっと判らなくなってたから。ーーあ、あのね、ぽめらでお披露目ライブやるんだよ」
「へ~、いつ?」
「明日の18:00から」
「随分早いね。歌とかダンスとか、レッスンが必要なんじゃないの?」
 僕はふと疑問に思って言った。すると有紗は、屈託のない笑顔を見せる。
「なんかね、レッスンはあるんだけど、ダンスの方はサポートがあるって」
「サポート?」
「動きをプログラムしておいて、アバターはそれで踊るんだって。極端な話、ダンスのレッスンはしなくてもいいみたい」
「へぇ~」
 ちょっと感心した。という事は、一糸乱れぬ華麗なダンスがすぐに披露できるわけか。

「けどね、プログラムで踊るのは最初だけで、段々、ちゃんと踊るみたいよ。なんかね、揃ってビシッと踊るより、多少、バラつきが会った方が、Vドルはウケるんだって」
「なるほど、そういうものかもね」
 僕はちょっと笑った。統制のとれた動きがコンピューターで幾らでも再現できる以上、むしろ不揃いな方が人間味があるというわけだ。
「面白そうだね、僕も行くよ。そんな急な話だから、特にチケットとかないんでしょ? 何処でお披露目するの?」
「バーチャル新武蔵野の駅前広場」
「ああ、あそこね」
 納得した。スーパーシティ新武蔵野は、むしろバーチャルの方が有名なのだ。
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