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超巨大IT企業AMG
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促されてテーブルを挟んだ側に廻り、全員でソファに腰かける。挨拶を済ますと、ボラシエさんが、テーブルの上でタブレットをこちらによこした。
「今回の納品書です」
僕はざっと目を通す。この会社はコンゴでとれるレア・メタルを仕入れてもらってる会社である。そのレア・メタルを現地の工場で素材化した上で日本に送る。カザマはその届いたレア・メタルを元に、フロート・ピットの部品を製造しているのだ。
「確認しました、OKです」
僕はタブレットにサインを入れた。これで基本的な仕事は終了である。後は動向を確認する。
「採掘の現状はどうですか?」
「今のところ安定してます。よくも悪くもですが、価格が落ちたからですね」
ボラシエさんが苦笑してみせた。
「昔ほど、採掘者がいない、という事ですね」
「昔はみんな、他に稼ぐ方法がなかったから、狂ったように掘ってましたよ」
ルアルア社長が朗らかな笑顔でそう言う。いや、そんな笑顔でする話でもない、という気はしたが。
コンゴで有名なのはダイヤモンドだ。それ以外にも金・銀・銅・錫・カドミウム・亜鉛・マンガン・ゲルマニウム・ボーキサイト・鉄鋼・石炭、そしてウラン、ラジウム、コルタンなどの豊富な天然資源が採掘される国なのだ。
実は日本とも縁浅からぬ国である。日本に落とされた原爆に使用されたウラニウムの80%がコンゴのものだったり、2000年にプレイステーションⅡに使用されるコルタンが不足したため、クリスマス需要に応えられなかったという事件がある。そう、このコルタンというのがレア・メタルだ。
「医者も教師も牧師も、それに子供も、みんな掘ってましたからね。正業の稼ぎより、そっちの方が金になったから。畑も放置されて荒れ放題でした。けど、それも今から考えると、外資の中間業者に搾取されて、低価格で買い叩かれてましたよ」
「少しは現状はよくなりましたか?」
僕の問いに、ルアルア社長は朗らかに答えた。
「全然良くなりました。レナルテを通して直接、製造メーカーと交渉し供給することができるようになったんでね。今でもレナルの地域差はあるが、通貨自体の格差はなくなった。昔は政情不安で、いつ通貨が使えなくなるかという不安がありましたからね…。それに、以前は教育もなかったから、技術もなかった。けど今は現地の工場で現地の人間が雇えるんで、雇用も生まれました。某アジアの大国は一旦入ってくると、その国の人間を引き連れてその国の人間が会社を仕切るようになってしまうが、日本はそうじゃなかった。我々は非常に助かってます」
「そう言われると、ありがたいですね」
ルアルア社長が、ふと真顔になって言った。
「一部の地域は今も武装勢力が支配してますが……以前よりはずっとマシです。もう、戦争も搾取もうんざりだ。我々はレナルテを通して、直接、世界を知ることができた。一番大事なのは教育だと、それで判ったんです」
「我が社は学校を始めようと思ってるんです」
ルアルア社長の傍から、ボラシエさんが口添えする。
「そうですか。それは素晴らしいですね」
ルアルア社長は頷いた。
「目先の利益だけ追っていては、国は駄目になる。我々は学ぶ必要があるのです」
ルアルア社長は、そう言ってまた朗らかに笑った。
打ち合わせが終わり、僕は少し和やかな気分になって仕事をしていた。しかしそれを破るように、社長が奥の部屋から飛び込んできた。
「おい、明!」
社長の風間万佐夫が、奥の部屋から太目の身体を揺らして走ってくる。出勤してたとは、知らなかった。
「どうかしたんですか?」
「どうしたも、こうしたもーーお前、何かやったのか?」
「何か…って、何ですか?」
「だから何かだよ」
「いや、仕事はしましたけど。特にミスはないと思いますが……。一体、どうしたんですか?」
僕の質問に、社長がようやく答えた。
「AMGが、お前を指名で呼んでるぞ」
親会社のAMGが? 全く、身に覚えはない。
「とりあえず行って来い。失礼のないようにな」
「判りました」
僕は不安な気持ちを抱えたままフロート・ルームに入った。フロート・ピットを装着し、AMGジャパンの受付へとフロートする。
AMGジャパンの本社は、巨大なビルである。そのエントランスの中央に受付がある。僕はそこへ向かった。
弧を描く大理石のカウンターの奥に、髪を綺麗にまとめた女性が座っている。僕はその受付まで行くと、声をかけた。
「あの……カザマ・テックから来た者ですが」
「承っております。こちらへどうぞ」
女性は歩へ見ながら、プラスチックの皿にフックを入れて出した。僕はフックを手に取る。女性は優しく微笑んでみせた。多分、受付用のAIアバターだ。笑顔が100点過ぎる。
僕はフックを起動させた。瞬時に移動したのは、大きな木目調の両開きのドアの前である。僕が到着するなり、自動で開き出した。
「入りたまえ」
中から低めの威厳のある声がした。失礼します、と僕は言ってから入室する。そこに立っていたのは、銀色の髪をオールバックにしたスーツ姿の男性だった。
「神楽坂明くん…だね」
その人物を見て、僕は驚愕した。
「ーー天城CEO…」
その人は、世界中の誰もが知る有名人だった。
天城広河CEO。AMGの前身となるアマギ・メカニクスの創業者であり、フロート・ピットの開発者だ。今や世界最大規模のメガ企業となったAMGのCEOであり、世界の経済人トップ10にも選ばれた事のある人物である。という事は…
「……此処は…アメリカ本社?」
「レナルテ内ではあるが、一応、アメリカ本社内の私の部屋だ。まあ、かけたまえ」
天城CEOが僕にソファにかけるように促す。僕は事の大きさに驚いて、動悸がし始めていた。
どうして僕が? こちらは日本支店の小さな下請けの、その中でも入社3年目の下っ端社員である。この世界的経済人が、僕に何の用だというのだ?
「今回の納品書です」
僕はざっと目を通す。この会社はコンゴでとれるレア・メタルを仕入れてもらってる会社である。そのレア・メタルを現地の工場で素材化した上で日本に送る。カザマはその届いたレア・メタルを元に、フロート・ピットの部品を製造しているのだ。
「確認しました、OKです」
僕はタブレットにサインを入れた。これで基本的な仕事は終了である。後は動向を確認する。
「採掘の現状はどうですか?」
「今のところ安定してます。よくも悪くもですが、価格が落ちたからですね」
ボラシエさんが苦笑してみせた。
「昔ほど、採掘者がいない、という事ですね」
「昔はみんな、他に稼ぐ方法がなかったから、狂ったように掘ってましたよ」
ルアルア社長が朗らかな笑顔でそう言う。いや、そんな笑顔でする話でもない、という気はしたが。
コンゴで有名なのはダイヤモンドだ。それ以外にも金・銀・銅・錫・カドミウム・亜鉛・マンガン・ゲルマニウム・ボーキサイト・鉄鋼・石炭、そしてウラン、ラジウム、コルタンなどの豊富な天然資源が採掘される国なのだ。
実は日本とも縁浅からぬ国である。日本に落とされた原爆に使用されたウラニウムの80%がコンゴのものだったり、2000年にプレイステーションⅡに使用されるコルタンが不足したため、クリスマス需要に応えられなかったという事件がある。そう、このコルタンというのがレア・メタルだ。
「医者も教師も牧師も、それに子供も、みんな掘ってましたからね。正業の稼ぎより、そっちの方が金になったから。畑も放置されて荒れ放題でした。けど、それも今から考えると、外資の中間業者に搾取されて、低価格で買い叩かれてましたよ」
「少しは現状はよくなりましたか?」
僕の問いに、ルアルア社長は朗らかに答えた。
「全然良くなりました。レナルテを通して直接、製造メーカーと交渉し供給することができるようになったんでね。今でもレナルの地域差はあるが、通貨自体の格差はなくなった。昔は政情不安で、いつ通貨が使えなくなるかという不安がありましたからね…。それに、以前は教育もなかったから、技術もなかった。けど今は現地の工場で現地の人間が雇えるんで、雇用も生まれました。某アジアの大国は一旦入ってくると、その国の人間を引き連れてその国の人間が会社を仕切るようになってしまうが、日本はそうじゃなかった。我々は非常に助かってます」
「そう言われると、ありがたいですね」
ルアルア社長が、ふと真顔になって言った。
「一部の地域は今も武装勢力が支配してますが……以前よりはずっとマシです。もう、戦争も搾取もうんざりだ。我々はレナルテを通して、直接、世界を知ることができた。一番大事なのは教育だと、それで判ったんです」
「我が社は学校を始めようと思ってるんです」
ルアルア社長の傍から、ボラシエさんが口添えする。
「そうですか。それは素晴らしいですね」
ルアルア社長は頷いた。
「目先の利益だけ追っていては、国は駄目になる。我々は学ぶ必要があるのです」
ルアルア社長は、そう言ってまた朗らかに笑った。
打ち合わせが終わり、僕は少し和やかな気分になって仕事をしていた。しかしそれを破るように、社長が奥の部屋から飛び込んできた。
「おい、明!」
社長の風間万佐夫が、奥の部屋から太目の身体を揺らして走ってくる。出勤してたとは、知らなかった。
「どうかしたんですか?」
「どうしたも、こうしたもーーお前、何かやったのか?」
「何か…って、何ですか?」
「だから何かだよ」
「いや、仕事はしましたけど。特にミスはないと思いますが……。一体、どうしたんですか?」
僕の質問に、社長がようやく答えた。
「AMGが、お前を指名で呼んでるぞ」
親会社のAMGが? 全く、身に覚えはない。
「とりあえず行って来い。失礼のないようにな」
「判りました」
僕は不安な気持ちを抱えたままフロート・ルームに入った。フロート・ピットを装着し、AMGジャパンの受付へとフロートする。
AMGジャパンの本社は、巨大なビルである。そのエントランスの中央に受付がある。僕はそこへ向かった。
弧を描く大理石のカウンターの奥に、髪を綺麗にまとめた女性が座っている。僕はその受付まで行くと、声をかけた。
「あの……カザマ・テックから来た者ですが」
「承っております。こちらへどうぞ」
女性は歩へ見ながら、プラスチックの皿にフックを入れて出した。僕はフックを手に取る。女性は優しく微笑んでみせた。多分、受付用のAIアバターだ。笑顔が100点過ぎる。
僕はフックを起動させた。瞬時に移動したのは、大きな木目調の両開きのドアの前である。僕が到着するなり、自動で開き出した。
「入りたまえ」
中から低めの威厳のある声がした。失礼します、と僕は言ってから入室する。そこに立っていたのは、銀色の髪をオールバックにしたスーツ姿の男性だった。
「神楽坂明くん…だね」
その人物を見て、僕は驚愕した。
「ーー天城CEO…」
その人は、世界中の誰もが知る有名人だった。
天城広河CEO。AMGの前身となるアマギ・メカニクスの創業者であり、フロート・ピットの開発者だ。今や世界最大規模のメガ企業となったAMGのCEOであり、世界の経済人トップ10にも選ばれた事のある人物である。という事は…
「……此処は…アメリカ本社?」
「レナルテ内ではあるが、一応、アメリカ本社内の私の部屋だ。まあ、かけたまえ」
天城CEOが僕にソファにかけるように促す。僕は事の大きさに驚いて、動悸がし始めていた。
どうして僕が? こちらは日本支店の小さな下請けの、その中でも入社3年目の下っ端社員である。この世界的経済人が、僕に何の用だというのだ?
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