レナルテで逢いましょう

佐藤遼空

文字の大きさ
上 下
2 / 66

第1章 ノワルド・アドベンチャー  魔導士キアラ

しおりを挟む
 僕は森の中を走る。
 視界を遮る樹々の間をすり抜け、顔を覆おうとする枝葉を払った。足元をすくう根株を飛び越えながら、僕は一心に森を駆け抜けていく。
「…間に合ってくれ」
 息が切れる中、僕は呟いた。その呟きの直後、視界に白いものが入り、僕はさらに速度をあげる。
 樹々の合間が開けて、広い場所が見えてきた。まず目に飛び込んだのは、巨大な白い生物だ。ホッキョクグマが仁王立ちになるような格好で二本足で立っている。が、その頭部は熊ではない。イカである。大王イカのような巨大なイカが頭であり、イカは口の周りの触手を蠢くように動かしていた。
「スクィッドベアか!」
 ただし大きさが尋常じゃない。その巨体は優に10mを越えている。三階建ての建物に匹敵する高さだ。その通称イカクマの前に二人の人物が立っている。一人は白地の巫女っぽい服を着た眼鏡の少女。もう一人はそれを庇うように立つ、剣を構えた剣士。ただしこっちは頭がライオンだ。

 イカクマが長い触手を上から叩きつけるように攻撃する。獅子頭が剣でそれを防ぐが、イカクマのもう一本の長い触手が横から襲いかかっていた。
 眼鏡の少女がそれに気づいて目を見開く。が、動くことができない。僕は右手を前に伸ばした。
「アイス・キャノン!」
 冷気の弾が発射され、イカクマの触手を弾く。獅子頭が気づいて触手を払いながら、こちらを見た。眼鏡の少女も、驚きの表情を向けて声をあげた。
「キアラさん! う…ぐす……」
 茶色のストレートの髪を背中で白いリボンで束ね、赤い眼鏡をかけた少女は口を太字の『一』の字に緩ませながら涙ぐんだ。すぐに涙ぐむのは可愛いとこだけど、時が時だ。
「マリーネ、泣いてる場合じゃないよ!」
「だって……うっ、うぅ…」
 僕は少女の横に並びながら、獅子頭に向けて悪態をついた。
「何やってるんだ、レオ! 二人でS級モンスターに勝てるわけないだろ!」
 獅子頭ーーレオニードは、その美しく造形されたライオンの顔に、バツの悪そうな表情を浮かべて見せた。
「そんな事言ったってよ、お前がいなかったから仕方ないじゃないか」
「仕方ないで済むか!」
 そう言った矢先、再びイカクマの触手が襲いかかる。こちらの人数が増えたのに気づいてか、長い触手は四本になっていた。その攻撃を跳びながら避け、僕らは一旦距離を置いた。

「キアラさん、どうしますか?」
 涙を拭いた眼鏡の少女ーーマリーネが僕に訊ねる。
「僕が奴を足止めする。その間にマリーネはレオに強化祈祷を、レオはーー判ってるよな?」
 僕の言葉を聞いて、レオニードはその獅子顔に笑みを浮かべた。
「おう、一発かましてやるぜ!」
「よし」
 僕は前に出て、両手を大きく広げた。
「凍てつく吹雪よ、雷の結晶となれ」
 僕の周囲を冷気が走る。それは身体を竜巻のように包む吹雪となり、空中に鋭い先端を持つ氷柱が何本も現れた。
「ブリザード・クラッシュ!」
 一斉に氷柱が発射されイカクマに襲いかかる。イカクマは奇怪な声を上げながら、吹雪の中で氷柱の攻撃を受けていた。

 背後から、うららかな歌声が響き、僕は僅かに後ろを向く。マリーネの強化祈祷『リインフォース・ハミング』は、歌声によって発動する。マリーネの歌声と共に虹色に輝く音符たちが踊り出し、レオニードの身体を包んだ。
「サンキュー、マリーネ。行くぜ、業火(ごうか)重来(ちょうらい)!」
 レオニードが凄まじい咆哮をあげる。と、その身体が火炎に包まれた。
 紅蓮の炎は獅子のたてがみを真っ赤に染めて揺らめかせる。大剣を片手に持ったレオニードは、それを横にして前に出した。
 自らの口から炎を吐き出す。剣が炎をまとい、剣自体が巨大な炎柱へと変った。
「焼き尽くせ、煉獄爆炎斬!」
 炎柱を振りかざしたレオニードの背後に、『煉・獄・爆・炎・斬』の文字が出現する。レオニードが咆哮とともに炎柱を振り下ろすと、スクィッドベアが炎に包まれながら真っ二つに割れた。
 やがてイカクマの身体が灰色になり、燃えカスが消えるように千切れていく。戦いは終わった。

「やった、やりましたね!」
 安堵した笑顔で、マリーネが声を上げた。僕もそれに微笑み返す。レオニードが近づいてきて、声を上げた。
「やっぱり、オレの事が心配だったんじゃないか」
「馬鹿、君じゃない。マリーネの事が心配だったんだ。いい気になるな」
 怒る僕に、にやにや笑う獅子顔を寄せてきたレオニードが、巨体で肩を組む。
「なんだよ、照れるなよ。素直じゃないなあ、キアラは」
「君みたいな脳筋単細胞じゃないだけだ」
 肩を組んだまま歩き出した僕らの隣に、マリーネが寄り添う。
「よかったです…レオさん、キアラさん。う、うぅ……」
 また涙ぐむマリーネに、僕は慌てて言い添える。
「マリーネ、もう泣かなくていいてば」
「やっぱりオレたちって、いいパーティーだよな?」
「いいから、離れろ」
 押しのける僕に抵抗して、がっちり肩を組んだレオニードは、さらにマリーネの肩も組む。マリーネが嬉しそうに微笑んだ。僕は不服そうな顔を見せた後で、僅かに笑みをみせた。


「よし、じゃあこんなところでいいか」
 僕はそう言うと、人差し指を擦り上げた。メニューのアイコンが空中に表示され、その中からRECのボタンを止める。
「はい、お疲れ様でした」
 僕の声に、マリーネが涙を拭きながら応えた。
「どうも、お疲れ様でした」
「ほい、お疲れさん」
 レオニードもそう声を上げると、組んでいた手を解いて軽く笑う。僕はレオニードに向かって言った。
「それじゃあ、僕のいない時のログ見せてもらえる?」
「おう」
 レオニードも人差し指を刷り上げると、メニューから録画ビューのファイルを開いて、こちらに向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『星屑の狭間で』(チャレンジ・ミッション編)

トーマス・ライカー
SF
 政・官・財・民・公・軍に拠って構成された複合巨大組織『運営推進委員会』が、超大規模なバーチャル体感サバイバル仮想空間・艦対戦ゲーム大会『サバイバル・スペースバトルシップ』を企画・企図し、準備して開催に及んだ。  そのゲーム大会の1部を『運営推進委員会』にて一席を占める、ネット配信メディア・カンパニー『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』として、順次に公開している。  アドル・エルクを含む20人は艦長役として選ばれ、それぞれがスタッフ・クルーを男女の芸能人の中から選抜して、軽巡宙艦に搭乗して操り、ゲーム大会で奮闘する模様を撮影されて、配信リアル・ライヴ・バラエティー・ショウ『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』の中で出演者のコメント付きで紹介されている。  『運営推進本部』は、1ヶ月に1〜2回の頻度でチャレンジ・ミッションを発表し、それへの参加を強く推奨している。  【『ディファイアント』共闘同盟】は基本方針として、総てのチャレンジ・ミッションには参加すると定めている。  本作はチャレンジ・ミッションに参加し、ミッションクリアを目指して奮闘する彼らを描く…スピンオフ・オムニバス・シリーズです。  『特別解説…1…』  この物語は三人称一元視点で綴られます。一元視点は主人公アドル・エルクのものであるが、主人公のいない場面に於いては、それぞれの場面に登場する人物の視点に遷移します。 まず主人公アドル・エルクは一般人のサラリーマンであるが、本人も自覚しない優れた先見性・強い洞察力・強い先読みの力・素晴らしい集中力・暖かい包容力を持ち、それによって確信した事案に於ける行動は早く・速く、的確で適切です。本人にも聴こえているあだ名は『先読みのアドル・エルク』と言う。 追記  以下に列挙しますものらの基本原則動作原理に付きましては『ゲーム内一般技術基本原則動作原理設定』と言う事で、ブラックボックスとさせて頂きます。 ご了承下さい。 インパルス・パワードライブ パッシブセンサー アクティブセンサー 光学迷彩 アンチ・センサージェル ミラージュ・コロイド ディフレクター・シールド フォース・フィールド では、これより物語は始まります。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH

L0K1
SF
機械仕掛けの宇宙は僕らの夢を見る――  西暦2000年―― Y2K問題が原因となり、そこから引き起こされたとされる遺伝子突然変異によって、異能超人が次々と誕生する。  その中で、元日を起点とし世界がタイムループしていることに気付いた一部の能力者たち。  その原因を探り、ループの阻止を試みる主人公一行。  幾度となく同じ時間を繰り返すたびに、一部の人間にだけ『メメント・デブリ』という記憶のゴミが蓄積されるようになっていき、その記憶のゴミを頼りに、彼らはループする世界を少しずつ変えていった……。  そうして、訪れた最終ループ。果たして、彼らの運命はいかに?  何不自由のない生活を送る高校生『鳳城 さとり』、幼馴染で彼が恋心を抱いている『卯月 愛唯』、もう一人の幼馴染で頼りになる親友の『黒金 銀太』、そして、謎の少女『海風 愛唯』。 オカルト好きな理系女子『水戸 雪音』や、まだ幼さが残るエキゾチック少女『天野 神子』とともに、世界の謎を解き明かしていく。  いずれ、『鳳城 さとり』は、謎の存在である『世界の理』と、謎の人物『鳴神』によって、自らに課せられた残酷な宿命を知ることになるだろう――

どうやら世間ではウイルスが流行っているようです!!

うさ丸
SF
高校卒業を切っ掛けに、毒親との縁を断ちきり他県の田舎の山奥にある限界集落で新生活スローライフをスタートした。 順調だと思われた生活に異変が。都心で猛威を振るったウイルスが暴走、感染した人々が狂暴化し魔の手が迫って来る。逃げるべきか、それともこの場に留まるべきか。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...