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プロローグ
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僕はその人を前にして、全身から汗が噴き出すのを感じた。これは冷や汗なのか? 寒気はない。そもそもこの空間に暑さ寒さなど存在するはずもない。ここはレナルテの中なのだ、どんなに現実的に感じていたとしても仮想空間なのである。にも関わらず、この威圧感ーーまさにレナルティの高さのなせる業だ。
判っている。相手は今や世界最大と言ってもいい超巨大IT企業『AMG』の創始者であり、現CEOの天城広河だ。世界で最も資産を持つ人物のトップ10に入り、その影響力は世界全域に渡る人物だ。この人が指を動かすか首を振るかすれば、あちこちの国の首脳が走り回ることになる。はっきり言って、僕なんかが、おいそれと面会できるような人物ではない。それは判っている。判っている……が、現に彼は僕を呼び出したのだ。
「ーーよろしい。では言いたいことは判るね?」
天城広河は僕をまっすぐに見つめた。オールバックにした銀色の髪に、顔に刻まれた微かな皺。風貌にも、その低い声にも威厳というものが備わっている。
僕はごくりと唾を呑んだ。
天城氏は微かに笑みを浮かべると、ソファから立ち上がった。
「君がやった事は『ノワルド・アドベンチャー』の規約違反で、君が従ってくれない場合は、訴訟を起こす準備をする。その損害賠償額は10億レナルにもなるだろう」
10億! 僕は悲鳴を呑み込んだ。
10億レナルはほぼ10億円だ。超巨大企業と裁判をしてーー僕が勝つ可能性など0.01%もない。10億の金? もちろん、そんなものが僕にあるわけはない。
硬直する僕を見透かして、天城広河は僕に言った。
「我々に協力してくれるね」
僕はソファから立ち上がって、黙って頷くよりなかった。
けれど、協力するにしても、僕にも言うべき事はある。
「しかし……いつ現れるか判らないアンジェラを…それも、どうやって捉えるのですか?」
「具体的な方法については、エージェントを送ってある。後の仕事はそちらに聞きたまえ。じゃあ、よろしく頼むよ」
天城氏が頷いてみせた。会談の終了の合図だだと悟った。僕はログアウトするアイコンを出した後に、心に浮かんだ疑問を天城広河にぶつけた。
「僕の事を……いつからマークしてたんですか?」
「ずっとだよ神楽坂くん」
天城広河が笑顔のまま言った。
「君がどうしてカザマに入れたと思う?」
ーーそうなのか。そうだったのか。
思わず目を見開いた僕に、天城広河が言った。
「それでは我々、双方(・・)の利益のために。頑張ってくれたまえ」
僕は目を背けると、その場から消えた。
判っている。相手は今や世界最大と言ってもいい超巨大IT企業『AMG』の創始者であり、現CEOの天城広河だ。世界で最も資産を持つ人物のトップ10に入り、その影響力は世界全域に渡る人物だ。この人が指を動かすか首を振るかすれば、あちこちの国の首脳が走り回ることになる。はっきり言って、僕なんかが、おいそれと面会できるような人物ではない。それは判っている。判っている……が、現に彼は僕を呼び出したのだ。
「ーーよろしい。では言いたいことは判るね?」
天城広河は僕をまっすぐに見つめた。オールバックにした銀色の髪に、顔に刻まれた微かな皺。風貌にも、その低い声にも威厳というものが備わっている。
僕はごくりと唾を呑んだ。
天城氏は微かに笑みを浮かべると、ソファから立ち上がった。
「君がやった事は『ノワルド・アドベンチャー』の規約違反で、君が従ってくれない場合は、訴訟を起こす準備をする。その損害賠償額は10億レナルにもなるだろう」
10億! 僕は悲鳴を呑み込んだ。
10億レナルはほぼ10億円だ。超巨大企業と裁判をしてーー僕が勝つ可能性など0.01%もない。10億の金? もちろん、そんなものが僕にあるわけはない。
硬直する僕を見透かして、天城広河は僕に言った。
「我々に協力してくれるね」
僕はソファから立ち上がって、黙って頷くよりなかった。
けれど、協力するにしても、僕にも言うべき事はある。
「しかし……いつ現れるか判らないアンジェラを…それも、どうやって捉えるのですか?」
「具体的な方法については、エージェントを送ってある。後の仕事はそちらに聞きたまえ。じゃあ、よろしく頼むよ」
天城氏が頷いてみせた。会談の終了の合図だだと悟った。僕はログアウトするアイコンを出した後に、心に浮かんだ疑問を天城広河にぶつけた。
「僕の事を……いつからマークしてたんですか?」
「ずっとだよ神楽坂くん」
天城広河が笑顔のまま言った。
「君がどうしてカザマに入れたと思う?」
ーーそうなのか。そうだったのか。
思わず目を見開いた僕に、天城広河が言った。
「それでは我々、双方(・・)の利益のために。頑張ってくれたまえ」
僕は目を背けると、その場から消えた。
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