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楽園

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ニナとアーサーが宿屋へと引っ込んで行くのを物陰から見守ったイブは、その場に泣き崩れそうになる。


崩れ落ちかけたイブをネオの腕が支えた。寂しさに襲われたイブがネオを見上げる。



「ニナとまた、話せて良かったわ」

「はい、妬けるくらい熱烈でしたね」

「親友よ。ずっと、私もずっと、愛してるわ」



ネオはイブの青い瞳から零れた涙をぺろりと舌で掬って笑った。


「僕にもお願いしてもいいですか?」

「もちろんよネオ、死ぬほど愛しているわ。私の旦那様」

「僕も、僕の妻のためなら、いつでもこの首を掻っ切れます」

「もう、ネオったらすぐ死ぬのだから」


もう隠されることのない赤い目が雨の中で嬉しそうに歪む様は、綺麗だった。

ニナとアーサーも誰に隠れることもなく、幸せになれた姿を見れて良かった。


イブはやっと、自分の死の価値に気がついた。


「ネオ、私は死ぬことで、みんなの役に立てたと思わない?」


イブが聖女として祈った雨乞いの儀の時、イブは死ぬことでみんなの役に立てるのではと考えたことがあった。


形は違ったが、イブが死ぬことで結果として

晴れの国は自立し、ニナはアーサーと結ばれた。


イブの死が、停滞していた国を前に進ませたのだ。


「イブは最初から最後まで、最高の聖女様でした。異論はさすがにイブからでも認められません」

「ネオの聖女主義は、ものすごい頑なだわ」

「先生譲りですね」


軽やかに笑ったイブはネオが差し出した手に手を重ねた。


「行きましょうか、イブ」


イブは涙を拭いて、愛しい夫に向かって、みるみるうちに華の笑顔を咲かせた。


「ええ、行きましょう。

聖女と平民で禁忌の恋をした私たちは、

ここを追放されたのだったわね」

「もう古い考えになったようですが」


ネオがクスッと赤い目で弧を描いて綺麗に笑い、イブの小さな手をぎゅっと握った。


「僕はただ、イブを大好きになっただけでした」

「そうね、私たちは、

ただ、恋をしただけだわ」


故郷を追放された二人は

手を繋いで、楽園へと足を踏み出した。


    

【完】

























…………………………………

【あとがき】

ここまで読んでくれた方がいらっしゃいましたら、本当にありがとうございました!


NEXTストーリー

「追放された聖女様は天才庭師の研究室に閉じ込められがちですが、ヤンデレ染みた溺愛で毎日幸せです!IN風の国」

は始まりませんが笑


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ありがとうございました!

   
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