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風の国
しおりを挟む【一つ、賭けの代償として、イブを亡命させ、生涯安全を守ること】
【一つ、天才と引き換えに、晴れの国に水を格安で売ること】
「ネオと引き換え?」
「僕を勝手に売りましたね、殿下は」
くるくるの黒髪癖毛を指先でくるくる巻いたクリスはにんまり笑う。
「君の天才っぷりは聞いてる。代償がでかいってアーサーが嘆いたくらいだ。これからは、うちの国のために働いてもらうからね。
じゃあ行こうか!俺専用の裏道で!」
クリスはまた御者の帽子をかぶって、馬車の御者席に乗り込んだ。ネオは前髪を触ってから、クリスに呼びかけた。
「嬉しいお申し出ですが。僕は赤目です。よろしいのですか?」
クリスが赤目をじっくり観察してから軽く頷いた。
「うちの国には多種多様な人間がいるんだ。
赤目の人間も、イブたんのように白い髪の人間も。民族の坩堝と言われるくらいで揉め事も多いけどね。
髪や目の色は何も重要ではない。
重要なのは君の力量だけだよ、ネオたん」
クリスが褐色の肌でニッカリ笑う。
「すごいわ!そんな場所があるなんて!」
イブが青い瞳を輝かせてネオの腕に抱きついて笑った。
風の国との国交は始まったばかりで、知らないことが多かった。
イブや、ネオが奇異の目で見られず、
ネオの能力を正当に評価されて暮らせる場所が本当にあるのだ。
「イブ、彼を信じましょう」
「あら、ネオはもっとごねるかと思ったわ。私たちを密告した張本人で、さらにアーサーの紹介じゃちょっとって」
イブはネオの腕にべったり抱きついてネオを見上げて可愛く笑った。
確かに、以前のネオならそう判断したかもしれない。ネオがイブの頭をかわいいかわいいと撫でる。
「僕は殿下を、信頼していますよ」
「意外だわ。いつの間にそんなに仲良くなったの?」
ネオは前髪の間から遮るもののない視線をイブに贈って朗らかに微笑んだ。
「アーサーを信じるなんて、豪胆なところ大好きだわ、ネオ」
「イブに褒められるとこの世の春を一身に受けたと感じます」
「ネオったら」
二人が見つめ合って、また甘い雰囲気を作り始めると、御者が咳ばらいをした。
「んん!!一国の王子が自らお忍び御者とかやってるんだけど、面白いからだけどんん!なにこれんん!」
愉快な御者にイブとネオは顔を見合わせて笑って、馬車に乗り込んだ。
楽園は、もうすぐそこだ。
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