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あの日の真実

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死臭が満ちる死体置き場で、息を吹き返すものがいた。


「はっ!!ガはッ!ハッ」


ネオが身体を起こして口に入った液体を思わず吐き出すと、ネオの背中をビクターが擦った。


「成功して良かったな、弟子。お前は本当に優秀だよ」


ビクターが皺を深く刻んで柔和に笑うとネオの頭が働き始める。汚れた口元を拭い、あたりを見回す。


「僕、死にましたよね?」

「死んだな一回は」

「殿下に斬られて」


ビクターがネオの頭をぽんぽんと叩いて笑う。ネオの切りつけられた肩は、包帯を巻かれてすっかりビクターに治療されていた。


「急所を外してくださった。斬って血まみれにする演出が必要だったんだ」

「え、いりましたその演出。普通に裏切られたと思いましたけど」

「あの時、人が来ていたからな。派手に殺した演出をしておけば疑われない。倒れたお前に、私が隠れてコレを飲ませた」


ビクターがポケットから空っぽの小瓶を取り出して、ネオの前で振って見せた。


「カシカシ?」

「お前がつくった仮死の薬カシカシだ」


ネオは一連の流れを察してため息をついた。自分が息をしている奇跡に納得がいった。


カシカシは「仮死の薬」だ。

飲めば、心臓を止めて実際に死に至る。

だがその後、一日以内に解毒剤を服用すれば再び生き返ることができるのだ。


天才ネオがつくった

『聖女のイブを社会的に一度殺し、

そして国外にて再び、一人の女の子として生かすための薬』

だった。



それをアーサーとビクターの機転で、ネオにも服用させた。

不敬罪を犯したネオにも社会的に一度死んでもらい、逃がすためだ。


    
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