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決意
しおりを挟むニナの瞳から大きな涙が零れ落ち、ニナの手を握ったアーサーの手の甲を濡らす。
イブは優しい人だった。
身分の低いニナに決して偉そうにせず、親愛の情を寄せ、いつも可愛らしく朗らかだった。
そんな人が「呪う」ほどに怒っている。
イブを怒らせるなんて、絶対にやってはいけないことをやったのだ。
イブのために、イブの無念を晴らすために、
ニナにできることがある。
アーサーは立ち上がり、ニナの涙を手で拭いてやる。
「ニナは平民として初めての王太子妃になる」
ニナは窓から差し込む光で輝くアーサーを見上げた。
「きっと想像もできないほど色んな所から攻撃されるだろう」
手の届かない眩しい存在。
決して手に入るはずのなかったアーサーが夫になる道が拓けた。
イブの死のおかげで。
でもそれはなんて悲劇なのか。ニナはイブが幸せなら、それで良かったのに。
「でも必ず、僕が守るから。僕の隣に来て欲しい」
アーサーは真剣な顔でニナの頬に手を伸ばして触れた。
ニナも立ち上がり、アーサーが頬に添えた手に頬ずりする。腹からまっすぐな声をアーサーに向けた。
「私は、誰の批判も怖くありません」
ニナは真っ黒の瞳に意志を滾らせて、アーサーを突き刺す。アーサーはその真っ黒の瞳の魅力に憑りつかれて止まない。
「イブはただ、恋をしただけだと。
高貴な身と平民との恋に何も罪はなかったと、
私の生涯をかけて証明してみせます」
ニナの強い瞳から、最後の涙が流れ落ちた。もう、泣くのは終わりだ。
「どうか、その名誉を私に下さい。アーサー」
ニナが王子の名を呼んで隣に立ち、平民街で踊ったあの日と同じ快活な声を出した。
「やるしかありませんね!イブのためです!」
「ニナの肝座ってるところ、たまんないなー」
アーサーはニナをぎゅっと強く抱きしめた。
ここに、前代未聞の王子と平民の恋が成就したのだ。
「あーーーーー!!嬉しい!!」
「アーサー、声が大きいです」
これからは堂々とニナを隣に歩かせて愛せるのかとアーサーは至福に包まれた。
唯一、絶対に欲しかったものを多大な犠牲のもとに手に入れたアーサーは、あの日を想った。
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