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半年後

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細長いテーブルの周りに各貴族が集合した議会にて、アーサーが話し出す。


アーサーの隣、最も上座にいる国王はげっそりやせ細っていた。


「聖女が自殺してから半年。

いまだに次の聖女が見つからない。

こんなことは前代未聞だよ」


アーサーの報告に口々にざわつく貴族の声の中で、顔色の悪い国王が縮まっている。


「知の権威を集めて検討したところ、

次の聖女が見つからないのは

『聖女の呪い』だと結論が出た」


また貴族たちが騒ぎだすが、アーサーは手振りを大きくして話を続けた。


「皆さんご存知のように、聖女は恋人である平民を

僕に殺されたことを苦に自殺した」


アーサーは小さくなった国王を一瞥してから口を滑らかに動かす。国王の罪をひけらかすように。


「さらに聖女の死後、

国王は彼女を不貞を犯した魔女と罵った。

怒りにかられた国王は正式な葬儀を行わせず、

彼女の遺体をすぐに火にくべるよう命じた。実行した僕も同罪だね」


国王の残虐非道な行為に貴族の中から、うめき声がもれた。


「恨んでるだろうね。

僕のこと、国王のこと、聖女の恋を奪ったこの国のこと」


アーサーの恐怖を煽る語り口に、貴族たちがゴクリと息を飲んだ。


「これは初めて明かすけど、

聖女の恋人は赤目だったんだ」

「不吉の象徴?!」


貴族の一人の言葉に、アーサーは深く頷く。アーサーは父である国王の肩に優しく手を置いて労わる顔をした。


「そして、聖女が亡くなってから国王のお体の調子が悪い。

宮廷医師の権威であるビクターを呼び戻して治療しているが、改善が見込めない」


国王は震えあがって、アーサーの隣に座っていることしかできない状態だ。


「我が妻は麗しく優秀で……されど怖い女でもあった。聖女の力、コワ、怖い……」


聖女の力を妄信してきた国王だ。ダメ聖女を散々罵ってきたくせに、聖女の呪いにわが身を危険にさらされて、今さら怯え切っている。


ビクターが治療を名目に、死なない程度の微量の毒を薬に混ぜているなんて誰も気づくまい。


アーサーが画策した「聖女の呪い」の効果は抜群だった。


ネオの死

イブの死


アーサーが当初に立てた計画とは違ってしまった。だが、この状況を全て自分の有利に持っていくよう画策し直したのだ。


転んでもただでは起きない。

代償は大きかったのだから。


「今の状況をただの偶然とは思えない。

聖女と赤目の恨みは死しても相当に深いと推測できる。次は誰に降りかかるかな?」


貴族たちは自分の後ろを振り返って魔女が立っているのではと警戒した。


「彼女をダメ聖女と呼んだ奴のところに、次々と呪いが降りかかるかもね」


彼女をダメ聖女だの罵った罪に、覚えのあるものばかりがこの長机の周りに座っていた。


アーサーは大げさにため息をついてから、右手の人差し指を一本、空へと向けた。


「でも僕に考えがある」


貴族たちも国王も、期待を込めてアーサーに注目した。


「僕がこの身を捧げて、聖女の呪いを解こう」


アーサーに希望を託し、早急に呪いを解くように、アーサーの前代未聞の案は採用された。


国王は次の聖女が生まれない今、王族と聖女の交わりの伝統よりも、わが身が可愛かった。


       
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