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悲劇

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イブの様子を見に、ニナとアーサーは寝室に踏み入った。ビクターもアーサーの後ろからイブの診察に訪れた。


「聖女様、一度ビクター先生の診察を受けましょう」


ニナがベッドに眠るイブを手で揺するが、反応がなかった。見慣れない小瓶がイブの手に握られている。


「聖女様?」

「ニナ?どうかした?」

「嘘でしょう……」


ニナがイブの頬に触れると、不自然に冷たかった。青ざめたニナが叫ぶ。


「いや、嫌よ、聖女様!こんなのってない!!」


ベッドに横たわるイブの顔は真っ白で血が通っていない。イブの冷たい手を握って、ニナが泣き叫ぶ。


「聖女様!!聖女さまぁああ!!」


狂ったように泣き始めたニナの肩をアーサーが優しく撫でた。


「どうして、こんなことに……」


悲痛に顔を歪ませるアーサーの傍らで、ビクターが聖女の脈を取る。


ビクターは首を横に振って、イブの死を確認した。ニナの瞳に涙があふれる。


「聖女様は!イブは!ただ恋をしただけだったのに!どうして死ななきゃいけないの?!ねぇ……どうして」


取り乱し崩れ落ちたニナをアーサーが抱き寄せて、悲しみを分かち合う。


「クソッ!どうしてみんな、勝手ばかりするんだ!!」


ベッドで眠る聖女だけが、柔らかな微笑みをその白い顔に称えていた。

  
     
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