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マスク
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イブが立派な装いの男性に優しく手を引かれて廊下をずんずん進んでいく。
その手に不快なところは一つもない。
何度も握ったことのある大好きな手だ。
「ネオよね?」
人の気配が全くしなくなった王宮の庭の渡り廊下で、ネオが振り返る。口元には笑みが浮かんでいた。
「わかりましたか?」
「すぐわかったわ」
「仮面で目は隠れているはずなのですが」
「あんなこと言うのはネオだけよ」
月明かりが照らす渡り廊下を風が走って、ネオの前髪を揺らす。
イブがマスクの奥を凝視すれば
綺麗な赤があった。
「装いも髪も全部違うから驚いてしまったわ。アーサーとニナの仕業ね」
「ひどいめにあいました」
ドレス姿のイブがこんなに近くにいることが初めてで、ネオの心臓は高鳴りうるさかった。イブはこの世の何よりも美しい。
ネオはイブの髪に手を伸ばして透明の髪飾りに触れた。
「ふふっ、二人がごめんなさいね」
イブは王宮で貴族のように着飾ったネオと、真正面で向かい合う非現実的な状況についうっとりしてしまう。
「普段のネオも大好きよ。
でも、こんな場所でネオと会えるのは嬉しいわ。夢みたいなの」
イブが優しくネオの手を包んで、青い瞳に月明かりを輝かせた。
もし人目についても、遠目には聖女と王子の組み合わせに見えるだろう。
「イブが喜んでくれたなら、あの拷問に耐えたかいがあります」
「あら、どんなに酷いことをされたの?」
「前髪を分けられました」
「前髪に触られるのが一番嫌だったのね」
ネオは前髪の違和感に耐えていた。
普段目を隠すためにぶ厚く伸ばしている前髪を分けて、目を露出させられて落ち着かない。
目元を隠すマスクがあるのでギリギリ耐えている。
「素敵よ?」
イブが踵を持ち上げ背伸びしてネオの前髪に触れようとするので、ネオがすぐに頭を下げる。イブにならいつ何時、どこであろうと触れられていたい。
「もっときちんと見せて?マスクが邪魔だわ」
イブがネオのマスクに手をかけようとして、ふと左右を見回した。イブにも人目を気にする危機感はある。
「今、誰もいないかしら?」
「大丈夫だと、思いますが一応もっと隠れましょうか」
ネオは万全を期して、中庭で青々と茂る木の幹の影へとイブを案内した。
ネオが学園で育てる庭と違い、この庭は貴族の財力をつぎ込んで維持されている。
「この辺りがいいですね」
隠れ慣れしたネオが選ぶ場所だ。しかもパーティに夢中な夜、安全性は高い。
ドレス姿のイブの背をネオは優しく木の幹に押し付けて預ける。ネオがイブのマスクを外すと青い瞳が煌めいていた。
「イブの瞳は美しいです。青い瞳に映える制服も堪らないほど愛らしいですが、
ドレス姿を前にすると、僕は息が止まります」
「もう、ネオはすぐ死んでしまうのだから。まだダメよ?」
クスクス笑ったイブがネオからキスをもらえるのを感じてネオの頬に手を伸ばす。ネオが頬を差し出し、喜んで服従した。
「マスクを取ってもいい?」
「僕がイブを拒むことは生涯ありません」
「そうだったわ」
青い瞳で優しく笑うイブがネオの顔を隠すマスクをゆっくりと外す。
マスクの下にはネオの赤い瞳が欲を含んで輝いていた。
優しい瞳を隠す前髪が今日は分けて整えられていて、その面差しはイブが知るより今日はずっと流麗に感じられた。
身なりを整えるだけで、
ネオは貴公子に見紛う。
平民と貴族なんて、たったそれだけの違い。マスクを剥げばただの人間だ。
「ネオって、綺麗ね」
「ありがとうございます。
ですが、今日のイブの美しさの前には他の何をも綺麗とは言えません。
イブの前には全てが塵です」
「ふふっ、今日は饒舌だわネオ」
「ドレスを纏ったイブに酔っているのかもしれません」
「嬉しいわ。パーティの夜に、もっと酔ってしまいたいのだけど、ダメかしら?」
イブがネオの首に腕を回しておねだりすれば、ネオはキスに応えてくれる。
「ダメなわけありません。酔って頂けるように完全な努力をいたします」
「ネオはいつも頑張り屋さんね」
「イブには敵いません」
イブとネオの唇が重なり、月が見守る王宮の中庭で二人はおさまらないほどの恋しいを交わらせる。
「ん……ッ」
キスの合間に少し離れると、二人の間に糸が引いた。透明の糸をネオが舌なめずりして巻き取る仕草は艶やかだ。
「大好きです、イブ心から」
「私もよ、ネオ。心から大好きなの」
またキスが始まるのかと期待したイブを前に、ネオがごそごそとポケットから小さな小瓶を取り出した。
「美しいイブにこれを」
イブが両手を受け皿にすると、ネオは裏医務室に何本も置かれている質素で小さな瓶をその手に授けた。
「説明します。こちらへどうぞ」
ネオが木の幹を背にして脚を広げて座った間に、イブを招いた。
その手に不快なところは一つもない。
何度も握ったことのある大好きな手だ。
「ネオよね?」
人の気配が全くしなくなった王宮の庭の渡り廊下で、ネオが振り返る。口元には笑みが浮かんでいた。
「わかりましたか?」
「すぐわかったわ」
「仮面で目は隠れているはずなのですが」
「あんなこと言うのはネオだけよ」
月明かりが照らす渡り廊下を風が走って、ネオの前髪を揺らす。
イブがマスクの奥を凝視すれば
綺麗な赤があった。
「装いも髪も全部違うから驚いてしまったわ。アーサーとニナの仕業ね」
「ひどいめにあいました」
ドレス姿のイブがこんなに近くにいることが初めてで、ネオの心臓は高鳴りうるさかった。イブはこの世の何よりも美しい。
ネオはイブの髪に手を伸ばして透明の髪飾りに触れた。
「ふふっ、二人がごめんなさいね」
イブは王宮で貴族のように着飾ったネオと、真正面で向かい合う非現実的な状況についうっとりしてしまう。
「普段のネオも大好きよ。
でも、こんな場所でネオと会えるのは嬉しいわ。夢みたいなの」
イブが優しくネオの手を包んで、青い瞳に月明かりを輝かせた。
もし人目についても、遠目には聖女と王子の組み合わせに見えるだろう。
「イブが喜んでくれたなら、あの拷問に耐えたかいがあります」
「あら、どんなに酷いことをされたの?」
「前髪を分けられました」
「前髪に触られるのが一番嫌だったのね」
ネオは前髪の違和感に耐えていた。
普段目を隠すためにぶ厚く伸ばしている前髪を分けて、目を露出させられて落ち着かない。
目元を隠すマスクがあるのでギリギリ耐えている。
「素敵よ?」
イブが踵を持ち上げ背伸びしてネオの前髪に触れようとするので、ネオがすぐに頭を下げる。イブにならいつ何時、どこであろうと触れられていたい。
「もっときちんと見せて?マスクが邪魔だわ」
イブがネオのマスクに手をかけようとして、ふと左右を見回した。イブにも人目を気にする危機感はある。
「今、誰もいないかしら?」
「大丈夫だと、思いますが一応もっと隠れましょうか」
ネオは万全を期して、中庭で青々と茂る木の幹の影へとイブを案内した。
ネオが学園で育てる庭と違い、この庭は貴族の財力をつぎ込んで維持されている。
「この辺りがいいですね」
隠れ慣れしたネオが選ぶ場所だ。しかもパーティに夢中な夜、安全性は高い。
ドレス姿のイブの背をネオは優しく木の幹に押し付けて預ける。ネオがイブのマスクを外すと青い瞳が煌めいていた。
「イブの瞳は美しいです。青い瞳に映える制服も堪らないほど愛らしいですが、
ドレス姿を前にすると、僕は息が止まります」
「もう、ネオはすぐ死んでしまうのだから。まだダメよ?」
クスクス笑ったイブがネオからキスをもらえるのを感じてネオの頬に手を伸ばす。ネオが頬を差し出し、喜んで服従した。
「マスクを取ってもいい?」
「僕がイブを拒むことは生涯ありません」
「そうだったわ」
青い瞳で優しく笑うイブがネオの顔を隠すマスクをゆっくりと外す。
マスクの下にはネオの赤い瞳が欲を含んで輝いていた。
優しい瞳を隠す前髪が今日は分けて整えられていて、その面差しはイブが知るより今日はずっと流麗に感じられた。
身なりを整えるだけで、
ネオは貴公子に見紛う。
平民と貴族なんて、たったそれだけの違い。マスクを剥げばただの人間だ。
「ネオって、綺麗ね」
「ありがとうございます。
ですが、今日のイブの美しさの前には他の何をも綺麗とは言えません。
イブの前には全てが塵です」
「ふふっ、今日は饒舌だわネオ」
「ドレスを纏ったイブに酔っているのかもしれません」
「嬉しいわ。パーティの夜に、もっと酔ってしまいたいのだけど、ダメかしら?」
イブがネオの首に腕を回しておねだりすれば、ネオはキスに応えてくれる。
「ダメなわけありません。酔って頂けるように完全な努力をいたします」
「ネオはいつも頑張り屋さんね」
「イブには敵いません」
イブとネオの唇が重なり、月が見守る王宮の中庭で二人はおさまらないほどの恋しいを交わらせる。
「ん……ッ」
キスの合間に少し離れると、二人の間に糸が引いた。透明の糸をネオが舌なめずりして巻き取る仕草は艶やかだ。
「大好きです、イブ心から」
「私もよ、ネオ。心から大好きなの」
またキスが始まるのかと期待したイブを前に、ネオがごそごそとポケットから小さな小瓶を取り出した。
「美しいイブにこれを」
イブが両手を受け皿にすると、ネオは裏医務室に何本も置かれている質素で小さな瓶をその手に授けた。
「説明します。こちらへどうぞ」
ネオが木の幹を背にして脚を広げて座った間に、イブを招いた。
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