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フィリア

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「口が重そうだ。では僕が調査した上での、推測の話を先にしようか?」


アーサーが膝の上で両手の指先を組み合わせる。


「僕が提唱するのは『前々聖女様とビクターは、恋仲だった』説だ」

「え」


ネオが思わず口をついた言葉を隠そうと口を手で覆った。

ビクターが頭をわしゃわしゃかく手を止めて、喉を鳴らす。アーサーは口を緩めない。


「先日の聖女の雨乞いの儀で僕は仮説を持った。

聖女は『王族との交わり』ではなく

『恋する気持ちで雨を降らす』のでは?ってね」


ビクターが顔を上げて自信満々に語るアーサーを見つめた。


「前々聖女様は病気のあとにだけ、雨を降らすことができた。それは」


ビクターの瞬きが止まったのをアーサーは見逃さない。ビクターの揺れる目の奥に、確信を得た。


「病気の時にだけ、愛する医師、ビクター先生にじっくり会うことができたから。どうかな?」


ビクターの揺れる瞳に、アーサーは最後の手を披露する。


「教えてくれないなら、この仮説を国王に言いつけちゃうって手もあるよ?」


そんなことする気はまるでないが。アーサーは交渉に手段を選ばない。


「国王は貞操観念が厳しいかただ。

王族と聖女が運命の番だと固く信じている。自分がそれで大成功したものだからね。

それ以外の交わりなど絶対に受け入れない」


ネオの耳が痛んだ。理解している現実だが、イブとネオは決して結ばれる関係ではない。


「ねぇ、ビクター?

僕が言いつけちゃうと、前々聖女様が

わざわざ死んでから不倫の不名誉を浴びることになるよ?いいのかな?」


ビクターの顔に皺が深まり、明らかに不快が浮かんだ。押し所がわかっている相手との話は簡単だ。


「前々聖女、お名前はフィリア様、だっけ?」

「……お話すれば、彼女の名誉を守るとお約束頂けますか?」


ついに口を開いたビクターに、アーサーは満足して頷いた。


「当然だよ。僕はビクター先生に話を聞きたいだけだ。フィリア様を貶める意図はない」



アーサーはネオにお茶のおかわりを要求し、お茶が運ばれたところでビクターが重々しい口を開いた。


「殿下の推測の全てを、私は肯定します」

「んーわかりにくいな、もっとはっきり言って」

「フィリア様を愛しております」

「いいね!『今も』って感じ!」


アーサーが手を叩いてビクターを賞賛する。


ネオはすっかりその場の空気であったが、人の過去にぐいぐい手足、さらに首を突っ込んでくる王子には不信感しかない。


アーサーはまたお茶を口に運んで、ビクターに細い目で続きを促した。


「私は聖女様の力の本当の形に気がついてしまいました」

「ビクターとイチャイチャした後にだけ雨が降ったと」

「言い方……」


あまりに不躾な言い方をするのでネオが口を開くと、アーサーがにっこり笑う。

だがネオにも心当たりがあった。イブと初めてキスした後に、イブは雨を操った。


「殿下の言う通りです」

「『王族との交わり不要説』は確定だね。ありがとうビクター先生。確信が欲しかったんだよ」


アーサーは大満足で礼を述べたが、また足を組みかえた。


「それで?続き、まだまだあるよね」

「何をお話すれば」

「王族不要説にたどりついた医師ビクターがそこで終わるわけないよね。

賢者ってのは狂ってると相場は決まってる」


アーサーが己のことを言っているのだろうかとネオは口を噤んだ。


「ただでさえお体が弱い愛しいフィリア様が、聖女の任で短命の危機だ。それでどうしたのかな?」

「全てお察しなのですね」


ビクターは大ため息をついてグレイヘアをくしゃくしゃとかき回す。アーサーはじっと話を聞いているネオに視線を送った。


「愛するフィリア様を救おうとした医師ビクターは、ある研究を始めた。

どんな研究だと思う?庭師君」

   
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