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ハートマーク

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聖堂の窓の外側で、ネオがポケットから紙を取り出した。先日イブがビクターに託した手紙だった。


「その聖女様に伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「手紙のこと?」

「はい、返信が遅くなって申し訳ありません。あ、その必要でしたらですが」


ネオはリンゴ成り立ち論文に、ハーブティ育成論文も紙束で返信してくれた。


「もちろん、欲しいわ」


論文を満足に読めなかったイブが、アーサーに要約を求めると

『庭師君は思った以上に天才』

とだけ教えてくれたのでイブはそれだけで大満足だった。


ネオの返信は難解で読めないが、返信してくれる行為自体がイブはお気に入りだ。

イブはネオが見せる手紙に視線を這わす。


【カシカシってどうして、

カシカシって名前になったの?♡】


「この最後の字は何ですか?何か意味がありますか?」

「え?!なんでこんな?!」


イブは青い瞳を見開いて声を上げた。ハートマークなんて書いた覚えはない。しかし、しっかりそこに書かれていて、ネオが疑問を抱いている。


(ま、まさかアーサーが勝手に?!)


イブの頭には悪戯の鬼、アーサーが浮かんだが、犯人はニナである。二人があまりにもじもじしているので、ニナがマーク一つで恋心を繋いでしまおうとしたのだ。


だが、ニナもびっくり。ネオはハートマークも知らなかった。とことんモテなさそうな男だ。


「あ、あのこれはハートマークと言って」

「心臓ですか?」

「そうね。神様の心臓を示していて、つまり」

「つまり?」


イブは言葉に詰まった。つまり「大好き」という意味なのだが。それをこの機に伝えてしまったら、悪戯のハートがネオに届くことになる。


(アーサーが書いた「♡」はなんだか悔しいわ!だって、私が言いたいのに)


イブは唇をきゅっと噛みしめて言葉を口に仕舞った。


(私の心臓を届けたいのに)


ネオはイブの口元が可愛く閉じるのを見てじっと沈黙を待った。


何年も窓の外からイブを見守り続けた男だ。静かにするのは大得意だ。イブの目の前に立つのを許されているだけでネオには至福。


待たされるなんて何の苦でもない。

だが、場所が悪い。

   
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