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恋文論文

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イブは自室で、両肘をテーブルについて頭を抱えて唸っていた。


「どうしましょう、せっかくネオが書いてくれたのに。

何が書いてあるのかさっぱりわからないわ」


ネオからの手紙のお返事を一生懸命読もうとするのだが、読めない。

字は読めるのだが、意味が頭を素通りしていく。


「ネオって頭が良いのね」


イブはネオが非常に優秀な青年であることを身をもって知った。うんうん唸るイブに、ニナがマズ茶を運んで来た。


「ありがとう、ニナ」

「無理なさらないでくださいね、聖女様」

「無理なんてしてないわ。読みたいのよ」

「いやしかし、庭師さんはなかなか……」


情緒がねぇなこの野郎!!


とニナは誰にも言わない心の声で盛大に罵っていた。品がないのは承知だが、悪態をつかずにいられない。


ゼロ点の恋文返信である。


ニナもネオが書いた論文を最初の一枚だけ読んだが、これはまるっきり恋情など語られていないことが即座にわかった。


イブの恋文に誠心誠意応えた結果らしいが、斜め上過ぎる。


庭師はモテないだろうことをニナは深く理解した。だが、イブに不満はないらしく、むしろ読めない自分を責めている。


イブは寛容であり、誰より優しい。ニナはイブのそういうところを愛している。


「聖女様、休憩してください。もうすぐ助けが来ますから」

「助け?」


イブが救いの言葉にパッと顔を上げた瞬間、ニナの肩が強い腕に抱かれた。唐突に現れる我らが王子である。


「助け呼んだー?僕のことだよね!ニナ!」


許可も得ず現れるアーサーに、ニナはため息をついた。だが、ニナが示唆した助けとは確かに彼のことだ。


王子たる彼は、政を行うためにあらゆる方面へと学が広い。つまり、優秀だ。


「アーサー、これに何が書いてあるのか、要約して教えてくれないかしら?」

「聖女の頼みか……ニナの頼みなら、やぶさかでないけど?」


両腕を組んで、椅子に仰々しく座ったアーサーがニナに視線を向ける。聖女に対してなんとも失礼な男だが、イブは慣れっこだ。


「ニナ、お願い」


イブがニナに向かってお願いと胸の前で両手を組んで祈った。ニナはすぐに承諾する。


「お願いします。殿下」

「アーサーって呼んで?」

「……お願いします、アーサー殿下」

「もう一声」

「お願い、アーサー」

「んん!最高!」


イブの頼みならニナは逆らえない。

ニナの頼みなら、アーサーは断らない。アーサーは上機嫌だ。
  

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