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カシカシ
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イブは赤く腫れた膝で、裏庭を目指す。毎日、成果のない祈りを終えた後は、ネオの顔を見に行くのだ。
ネオがイブを一人の女の子として接してくれる時間が、イブを支えてくれていた。
イブが務めを終えた解放感を抱えて裏庭へたどり着くと、ネオを発見した。
裏庭に鬱蒼と生えている雑草としか呼べない植物を前にネオが腕を組んで立っている。熱心に考え事をしているようだ。
イブはネオの隣に同じように突っ立って、草を眺めた。
「ネオ、今日は何をしているの?」
「せ、聖女様!お、お疲れ様です」
集中しているネオはイブの登場にいつも驚く。驚くと前髪が揺れて赤い目がチラリと覗くのがイブのお気に入りだ。
「す、すぐ、治療を!」
「あとでいいの。何をしていたのか教えて?」
ネオに裏口に向いた足を一歩戻した。ネオとって、イブの意志は絶対だ。
「え、えっとですね。このカシカシの活用について考えてました」
「カシカシ?」
「草の名前です。新種なので、先生が名付けて」
イブがカシカシに触れようとする手を、ネオは慌てて掴んだ。
「触ってはいけません。カシカシは危ないので」
優しい声に諭され、手首を掴まれるとイブは胸が高鳴った。至近距離で青い瞳にネオが映り、ネオが先に飛びのいた。
「せ、聖女様に勝手に触れて、失礼しました」
「いいえ、守ってくれてありがとう。ネオ」
ネオは言葉に詰まって、首をぶんぶん横に振るだけだ。
ネオに少し触れられるだけで胸が騒がしいことをイブはまだ伝えられていない。
ネオはさっと距離を取って裏口の前に立った。
「せ、聖女様、どうぞ」
「ありがとう、ネオ」
ネオが扉を開けてくれて、中に招いてくれる。イブはそれだけで、嬉しかった。
ネオがイブを一人の女の子として接してくれる時間が、イブを支えてくれていた。
イブが務めを終えた解放感を抱えて裏庭へたどり着くと、ネオを発見した。
裏庭に鬱蒼と生えている雑草としか呼べない植物を前にネオが腕を組んで立っている。熱心に考え事をしているようだ。
イブはネオの隣に同じように突っ立って、草を眺めた。
「ネオ、今日は何をしているの?」
「せ、聖女様!お、お疲れ様です」
集中しているネオはイブの登場にいつも驚く。驚くと前髪が揺れて赤い目がチラリと覗くのがイブのお気に入りだ。
「す、すぐ、治療を!」
「あとでいいの。何をしていたのか教えて?」
ネオに裏口に向いた足を一歩戻した。ネオとって、イブの意志は絶対だ。
「え、えっとですね。このカシカシの活用について考えてました」
「カシカシ?」
「草の名前です。新種なので、先生が名付けて」
イブがカシカシに触れようとする手を、ネオは慌てて掴んだ。
「触ってはいけません。カシカシは危ないので」
優しい声に諭され、手首を掴まれるとイブは胸が高鳴った。至近距離で青い瞳にネオが映り、ネオが先に飛びのいた。
「せ、聖女様に勝手に触れて、失礼しました」
「いいえ、守ってくれてありがとう。ネオ」
ネオは言葉に詰まって、首をぶんぶん横に振るだけだ。
ネオに少し触れられるだけで胸が騒がしいことをイブはまだ伝えられていない。
ネオはさっと距離を取って裏口の前に立った。
「せ、聖女様、どうぞ」
「ありがとう、ネオ」
ネオが扉を開けてくれて、中に招いてくれる。イブはそれだけで、嬉しかった。
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