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第二章・墓標に刻む者
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最寄の駅からふたつ先で電車を降りたものの、ゲームセンターまで行く必要はすぐになくなった。道すがら啓二から連絡が入り、広基がカバンを預かってくれていることがわかったからだ。
勇三は返信を終えると、ゲームセンターに向けた足を転じた。
表通りでは制服を着た学生の集団や、携帯電話で会話するサラリーマンなどが行き交っている。時刻は午後二時過ぎをまわっていた。
そうした雑踏の流れに乗るように、勇三は目的地へと進みはじめた。
十五分ほど歩いて、さらにひと駅分ほどの距離を歩いてメモ書きの住所までたどり着く。だが勇三を悩ませたのはそこから先だった。
大通りに面した歩道に立ち、もう一度目の前にそびえる二棟のビルに目配せする。
メモに書いてある番地はこのあたりのはずだったが、左右の建物にはどちらも、目的の住所からそれぞれひとつずつ最後の一桁が違っていた。
「こっちが四の六の八……」勇三は右のビルから、左のビルへ視線をずらした。「それでこっちが四の六の十か」
メモに書かれた問題の住所は四の六の九だった。つまりそれは、ふたつの建物の間に無くてはおかしいはずだった。
すでにこのあたりをぐるぐると三周はしたが、それらしい建物はどこにも見つからない。
あと探していないのは、目の前の二棟の建物のあいだを走る路地だけだった。
もっとも路地とはいっても、そこは隙間といった表現のほうが正しいくらいに狭いものだった。
勇三はゆっくりとそこに近づくと、周囲に人通りが無いことを確認してから、身体を差し込むように路地へと入っていった。
建物同士の間隔は一メートルも無く、彼は横向きのまま、ときどきつまづきながら進んでいった。
道のりは思ったほど長くはなかった。
十メートルも進むと突然道が途切れ、勇三は広い空間に飛び出していた。とはいえ、そこも一辺がせいぜい二メートルほどしかなかったが。
そうした片隅に、彼はおかしなものを見た。
左側、半ばビルに埋まるようにして一軒の喫茶店が佇んでいたのだ。
<サムソン&デリラ>
吊り下げられた年季のはいった看板にはそう書かれていた。建物に記された住所とメモ帳とのあいだで視線を何度も往復させ、勇三はようやく胸を撫で下ろした。そこが目当ての場所だったのだ。
ドアノブに伸ばしかけた手を止め、勇三は目の前にある木製の扉をじっと見つめた。閉店を知らせるプレートがピンで止められていたのだ。
ドアの脇にある窓から店内の様子をのぞき見たものの、中は薄暗く人の気配がない。
入っていいものか……ふたたび入り口の正面に向き直った勇三は逡巡の末、思い切ってドアノブに手をかけた。
かすかな軋みとともに、扉が開いた。
勇三は返信を終えると、ゲームセンターに向けた足を転じた。
表通りでは制服を着た学生の集団や、携帯電話で会話するサラリーマンなどが行き交っている。時刻は午後二時過ぎをまわっていた。
そうした雑踏の流れに乗るように、勇三は目的地へと進みはじめた。
十五分ほど歩いて、さらにひと駅分ほどの距離を歩いてメモ書きの住所までたどり着く。だが勇三を悩ませたのはそこから先だった。
大通りに面した歩道に立ち、もう一度目の前にそびえる二棟のビルに目配せする。
メモに書いてある番地はこのあたりのはずだったが、左右の建物にはどちらも、目的の住所からそれぞれひとつずつ最後の一桁が違っていた。
「こっちが四の六の八……」勇三は右のビルから、左のビルへ視線をずらした。「それでこっちが四の六の十か」
メモに書かれた問題の住所は四の六の九だった。つまりそれは、ふたつの建物の間に無くてはおかしいはずだった。
すでにこのあたりをぐるぐると三周はしたが、それらしい建物はどこにも見つからない。
あと探していないのは、目の前の二棟の建物のあいだを走る路地だけだった。
もっとも路地とはいっても、そこは隙間といった表現のほうが正しいくらいに狭いものだった。
勇三はゆっくりとそこに近づくと、周囲に人通りが無いことを確認してから、身体を差し込むように路地へと入っていった。
建物同士の間隔は一メートルも無く、彼は横向きのまま、ときどきつまづきながら進んでいった。
道のりは思ったほど長くはなかった。
十メートルも進むと突然道が途切れ、勇三は広い空間に飛び出していた。とはいえ、そこも一辺がせいぜい二メートルほどしかなかったが。
そうした片隅に、彼はおかしなものを見た。
左側、半ばビルに埋まるようにして一軒の喫茶店が佇んでいたのだ。
<サムソン&デリラ>
吊り下げられた年季のはいった看板にはそう書かれていた。建物に記された住所とメモ帳とのあいだで視線を何度も往復させ、勇三はようやく胸を撫で下ろした。そこが目当ての場所だったのだ。
ドアノブに伸ばしかけた手を止め、勇三は目の前にある木製の扉をじっと見つめた。閉店を知らせるプレートがピンで止められていたのだ。
ドアの脇にある窓から店内の様子をのぞき見たものの、中は薄暗く人の気配がない。
入っていいものか……ふたたび入り口の正面に向き直った勇三は逡巡の末、思い切ってドアノブに手をかけた。
かすかな軋みとともに、扉が開いた。
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