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ーこだまは、どうしてかえって来るの?(エヴェンキ族の民話)ー
しおりを挟むこのお話は、ずっと、ずっと昔のお話で、あれから、野生のトナカイの毛の数の
ように沢山の年月が流れました。
その時、起きた出来事は、今も人々の間で語られています。
老人たちが、語るには、それはイケンディアという大きな岩山の近くにある
野営地の「イケ」という所で起きた出来事です。
この野営地には、リブゴーリックと言う名前の娘と
ウルタンと言う名前の若者が住んでいました。
二人が未だ子供だった頃に、親たちが、二人が大人になったら、
結婚させようと話しあっていました。
月日が、流れて、二人は大人になりました。
リブゴーリックは、色々な服を縫うことを覚え
美味しい食べ物を作れるようになりました。
ウルタンは、飛んでいるがちょうを弓で、射落とすことが出来ました。
腕の力もすごくて、並んでいる5頭のトナカイを弓で貫通することが出来ました。
二人が、16才になったので、結婚することになりました。
ある時、ウルタンの父親が息子に言いました。
「まもなく、お前たちの結婚式だ。我が家の肉が少なくなってきた。
マンモスの肉を手に入れて来てくれ。そして、お前たちの住まいを作ろう」
ウルタンは、山に向かいました。
リブゴーリックは彼の帰りを待っていました。
若者が、狩りから戻って来る約束の日に
リブゴーリックは婚礼衣装を着て彼を迎えに行きました。
花嫁衣裳を着たリブゴーリックは本当にきれいでした。
太陽さえも微笑むほどの美しさでした。
夕方になって、星々が顔を出しました。
星々は彼女の美しさに見とれてしまい、キラキラと瞬くのを止めてしまいました。
そして、彼女を近くで見ようと、空から落ちてきましたが、地上までは行けません
でした。
なぜって?それは地上と天の間に住んでいる悪霊たちが邪魔をしていたからです。
地上では全て静かになりました。
川はおしゃべりを止め、草は黙り込み、木々は動くのを止めました。
全ては、リブゴーリックのたぐいまれな美しさに見とれていました。
リブゴーリックが微笑むと、星たちも微笑み、
リブゴーリックが笑うと、川も笑い、
リブゴーリックが悲しむとタイガは黙り込んでしまいました。
「ウルタン」とリブゴーリックは、静かに呼びました。
「向かっているよ」と若者が答えました。
彼は、未だ遠く離れたところにいたのだけど、彼女の声は良く聞こえました。
それは、タイガが静かにしていたからです。
イケンディアの山の向こうから、タイガの上に月が上ってきました。
月もリブゴーリックを見て、その美しさにびっくりしました。
こんな美しい人を見たことが無かったのです。
そして、月はもっと近くで娘を見たくなりました。
「ウルタン」とリブゴーリックが呼びました。
でも、月が彼女を自分の方に引き寄せてので、
ウルタンには彼女の呼び声は聞こえませんでした。
若者がイケンディアに戻って来ました。
でも、花嫁はいませんでした。
若者は彼女が自分を迎えにくる途中で道に迷ったのだと思いました。
そして、ウルタンはマンモスをさがしに行った山に走って戻って行きました。
山から山へと飛び回り、リブゴーリックの名前を呼び続けました。
でも、彼女はその呼び声に答える事はありませんでした。
その時以来、彼は野営地に戻って来ていません。
今も、山の中で自分の花嫁を捜し続けているのです。
皆さんも聞いたことありますよね。
大きな声で山に向かって叫ぶと、山が答えるのを。
人々は、これは、こだまだと思っていますが、違うのですよ。
これは、相変わらず、リブゴーリックを探し続けているウルタンが答えているの
ですよ。
絵 Ⅴ ノエヴァ
翻訳 みずっち82
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とても素敵な民話の翻訳、ありがとうございます!!!
挿絵が美しいですね。そして流れるような翻訳に引き込まれました。最後のこだまのくだり、とても心に残ります。
余韻に浸る作品ですね。語りかける翻訳、とても素敵です。