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第三章 酒場の流儀
第9話 本心
しおりを挟む「え~……っと、はいっ」
お姉さんは胸の谷間から折りたたんだ地図を取り出して、あたしの目の前に広げた。まだほんのり温かそうだった。あたしが持ってる世界地図じゃなくて、スクリプトル王都だけでかでかと描かれたやつ。
「西方……デュクロスの街。ここからちょっと行ったところだな。この一帯俺たちの管轄なんだ。で、暴れてる奴ってのが……えー、なんだっけ。シェ、シェパード……?」
「兄ィ、そい犬種でごわす」
「……ジェハード・ミリュー。こいつがアタシたちが許可してない薬物を国外から密輸したり、子どもを誘拐したりしてるって調査でわかったの。前にも使いをやったんだけど、みんな返り討ちにされちゃって……」
お姉さんに解説役をとられてしまい形無し。そっぽを向いて拗ねるビクスさん。
サジさんが顎で示した方にはカウンターの端の方に座ってる、モヒカンとトゲヘルメットのイカつい2人組。腕を三角巾で吊っていたり、足にギプスを付けていたりして、この2人が例の返り討ちにされたという使いのようだった。
「……俺たちのシマで勝手なことされちゃ困んだよな。他の奴らがマネしたら治安も乱れるし」
あたしはうんうんと頷きながら話を聞く。……薬物はともかく、いや薬物もダメなんだけど。子どもが誘拐されてるって方が心配だ。ここで悪事のひとつとして挙げられてるってことは、被害者は1人2人では済まないんじゃないかな……。
「冒険者ギルドから腕が立つ奴派遣してもらおうかと思ったんだけど……アイツら人に渡す報酬から中抜きしたいからって、依頼する奴から法外な料金取りやがるんで、気に食わねえんだよな……」
そりゃまー、冒険者ギルドだって非営利じゃやってけないから手数料も必要悪? だとは思うけど。
……しかし子どもが攫われてんだよ!? 流石に金金言ってる場合じゃなくない!? もしかしたらあたしみたいにみんな合わせて所持金29円しかなくてそもそも依頼不可能とか? ありえない話。
「薬物はともかく、子どもたちが攫われてるのに……いいんですか? そんなんで」
一応思ったことを言ってみる。ガキがナマ言ってんじゃねー! とか、いきなり怒鳴られたらどうしよう……と内心怯えつつも提言したら、ビクスさんは突然俯いて眉を寄せた。
「……ギルドがムカつくって話はマジだが、それだけじゃないんだよ。……実は、攫われた子どもの中に、俺の妹がいるんだ」
……それを聞いて、どきっ、とした。……なんか、失礼なこと言っちゃったって罪悪感に苛まれる。
「……ジェハードのヤツ、私腹を肥やすために街に住んでる人たちから税外の金勝手に徴収してやがんだ。それで金を出せない家の子を攫って人質にしてるのさ。そういう子たちは借金のカタになるから、殺したりはしない。でも、俺の妹は違う……」
ビクスさんは悔しそうに俯いて、声を震わせた。
……つまり、こっちからなにか大きな行動を起こそうとすれば、ジェハードがそれに勘づいて妹を手にかける恐れがあるってことだ。
「……だから、なにもできなかったんですね」
「ああ。奴がギルドの情報を掴むルートを持ってる可能性もあるから、迂闊に動けなくて……そこで来てくれたのが、嬢ちゃんだ。……そういうわけで、なんとかアイツを懲らしめてくれないか?」
この通りだ、と言って頭を下げるビクスさん。それを見てお姉さんやサジさん、周りの人達も同じようにあたしに向かって頭を下げた。
……報酬100万円、場所はデュクロスの街、ジェハード・ミリューってやつをやっつける……
……まって、これ、あたしがこいつ殺すことにならない? 対話も無理ってことは脅しも通用しないだろうし……ちょっと、いくら悪いやつが相手でも、流石に殺人罪は背負いたくない……。
『悩むな、女。依頼を受けると言え』
「ンなん急に言われても……!」
『最初から受けるつもりだっただろう』
「状況が違うでしょって!」
聖剣の声に、口元を隠しながら小声でこっそり返事。ひっさしぶりに喋ったと思ったらまたこれだ。女、アレしろ。コレしろ。……あーも、ほんとあっタマ来る!!
「……なあ、さっきから誰と喋ってるんだ?」
聖剣とお喋りしてたら、いつの間にかおじぎをやめて顔を上げていたビクスさんにそう聞かれた。
「……イ、イマジナリーフレンド?」
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