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#20 子の刻と幸運児

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 残業は終電ギリギリまで続くのがお決まりの流れである。カラスマに仕事を押し付ける問題児は帰ったので、彼もその間はゆっくり仕事ができる。皆、上司や忌々しいチャシチぷらいどのかたまり無しで仕事ができるこの時間だけは生き生きとしている。

「…よし、そろそろ終電になるし終わるか」

 クロマルのその呟きに皆ははーいと返した。

 地獄から現れたような歪な外装のSL風電車にいつものように乗り込むカラスマ。思えば、休日返上!月月火水木金金!などという酷いブラック企業にも慣れてきたもんだなぁなんて考えているうちに臣熟しんじゅくに到着する。あまりに急なブレーキによって飛ばされた骨を拾ったカラスマは駅を出て、2階建てのバスに乗り込む。普段は乗らない1回からは道行くあやかしの姿がよく見えた。

 棚バスを降り、アパートの階段を登る。1階、2階、3階、4階、5階。そこで階段を外れ廊下を歩く。501、502……509、580、581。アパートの管理者は飛ばされた510から579の気持ちを考えたことはあるのだろうか。ともかく、彼は自室の扉を開く。

「お、待ってたよ~」

中ではアズサが酒を飲んでおり、すでにベロベロに酔っ払っている。

「はぁ!?」
「いやぁ、昨日の続きしようと思ってぇ~」

よく見ると、またもや高そうな瓶を握っているヒララギもいるのが見えた。

「…悪いな。いや、止めたんだけどさ…」
「やれやれ、明日も仕事なんだけどな…」

カラスマはそう言いながら中にはいると、キッチンのコップを持ってきてましたヒララギの酒を勝手に注いだ。

「ま、いいか!」
「乾杯!」

毎週日、月の夜。それは終わることのない気苦労に悩むドクロへの、ささやかなご褒美の時間であった。
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