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#6 混血狸とプライド就職

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 「俺、実は『混血こんけつ』なんだよ」

クロマルの第一声はそんなものだった。キツネとタヌキの子供のように…まあとにかく異種族間で設けられた子供を混血と呼ぶわけだが、クロマルが混血であるなど聞いたことがない。見た目もタヌキ以外から遺伝したような部位が見当たらないので他のタヌキと同じようにしか感じられない。

「混血だったんすか!?」
「…まあ。」

クロマルは苦笑して話を続ける。

「混血って別にタヌキでない訳じゃないのもあって扱いも他の社員と変わらないし、気づかなかったろ。見た目もまんまタヌキだし。」

クロマルは自身の手を見る。そして、普段から身につけている白い手袋を取った。タヌキならモフモフの毛が生えているはずの手袋の中には、細い骨だけがあった。

「タヌキ族の血は半分しか入ってないから、ここの仕事も大して得意ではないんだよなぁ…」
「じゃあ何で入社したんですか?」
「プライド、かな」
「プライド…?」

クロマルは茶を飲み、ひと呼吸おいてから話を続ける。

「学生だったころ、タヌキの奴らからよく言われたんだよ。『半分だけタヌキの出来損ない』って。」
「酷いこと言うやつもいたもんですね」
「少し前まで、混血は差別の対象だったからなぁ」
「マジすか。周りにいなかったから知りませんでした」

だよなぁと言いながら、クロマルは腕時計を見る。

「…げっ、もうこんな時間か。まあそんな訳で、あいつらに負けてられるか!って頑張って、タヌキ族中心の企業で一番有名なここに入社しました。おしまいおしまい。」

クロマルはそう言いながら手をパンと叩く。

「じゃあ俺このあと会議だから。カラスマはもう帰っていいぞ」

それだけ言い残し、クロマルはさっさと会議室に向かってしまった。
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